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第三話 口説いてみた。



「……普通にうまい」

「安心する味だね」


 飲食街をぶらついて目に入ってしまったのは、どう見ても日本語で書かれた看板の洋食屋だった。

 というか”洋食屋いぬや”って……おそらくは日本人転生者あたりが開いた店なのだろう。


 ダンディな声のコックとケモミミメイドさんに通されると、なんとも日本にありそうな洋食屋の作りをしている店内が広がっていた。


「このビール瓶の技術SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEE」

「このカレーとかいうのUMEEEEEEEEEEEEEEEEEE」

「キンッキンに冷えた水HIEEEEEEEEEEEEEEEEEE」


 と近くの席で大盛り上がり、聞こえてきたそれらはこの世界ではまだ珍しいらしい技術が多いようだ。


「というか本当にうまい」

「まさかこっちで和食を食べられるなんてねー」


 洋食屋だがラーメンも売っていたので注文すると、コシのある生麺と厚切りチャーシューににぼしなどの出汁が効いた醤油ラーメンが運ばれてきた。

 それが超うまい、深夜に抜け出して酒のシメに食べたいぐらいだ。


「この蕎麦ののど越しもいいよ~」

 

 ミユが食べているのはざる蕎麦だった、洋食屋に来て洋食を注文しない兄妹……そういう気分だったのだからしょうがない。

 しかし異世界に転生してきていつものご飯にありつけるとは、遠い異国の地で故郷のご飯にありつけたような安心感!


 なにはともあれお腹を満たしたところで、興味深いことを話している集団が眼に入った。

 近くに身の丈程の大剣を置き、褐色でボーイッシュな見た目のベリショ女子を中心に話している、女子三人グループの冒険者の会話内容へ耳を傾ける――


「また王国軍は魔王に敗れたみたいだぜ」

「これで何万敗目かしら」

「税金を費やして負けて来る気持ちはどうなの~?」


 女神さまに俺が転生させられた理由、それが魔王を倒し世界を救う事だという。

 ならばこの異世界での魔王情報に耳を傾けてみるのもいいだろう……。


「というかもう少しで倒せそうなところで代替わりとか魔王卑怯よね」

「その世代で終わらせとけって感じ~」

「こうなりゃオレらが倒しにいくだけだ!」


 なるほど、この世界の魔王は最近代替わりしたらしい。


「そこのお前、聞き耳立てるにしてももうちょっとやり方があんだろ……」

「はは、そうですか?」


 聞き耳を立てるどころか席を立ち、三人グループの席までやってきて耳に手を当て聞いていたのだから呆れられてもしょうがない。


「この町に来たばかりのものですから」

「そうか、で何か聞きたいことがあるか? まぁタダってわけにもいけないがな」


 なるほどなるほど……ステータス表示っと、彼女の名前は”コナ”というのか……なるほどなるほど。


「いやあ、ふと目に入った綺麗な女性の方々とお話したいと思っていたのですが……」


 と照れ表情演出をしながら言うとコナの連れが「まあまあ~」「ナンパされてるわ!」と満更でもない様子でキャッキャしている。


「……んだよ、そこにオレは含まれてないだろ」

「そんなことはないですよ。そういえばふと気になのですが、その肌の綺麗さの秘訣はなんですか?」

「なんでだよ!?」


 あ、これは選択肢ミスったか?


「……こんな粗暴なヤツの肌なんて誰も気にしないのに」

「過酷な冒険者家業とお見受けしますが、そんな中でもケアを怠らないのは大変女性的ではないですか」

「お、オレが女性的だって!? こんなダチ以外には男扱いしかされないオレが?」

「さっきから食べているものもパフェのようで、とても可愛らしいと思うのですけど」

「……バカにしないのか、こんな可愛いもの食べてて」

「するわけないですよ、いいと思います」

「そうか? ……いつも甘い物とか食ってるとからかわれるんだよな、だからこういう隠れ家的な店でダチとでしか食わねえんだが、しかしお前がそう言ってくれるなんてな」

「それに、なんだかギャップがあって可愛らしいと思いましたよ」

「か、かかかかかかか可愛い!?」

「はいっ」


 そうしてオレはにこっと笑う……自分でにこっとか言うとの気持ち悪いとか思ってはいけない。


「きゅん」


 本当にこの人可愛いのかもしれない、粗暴そうな見た目と口調で勘違いされそうだが中身は乙女している。

 こういうギャップ萌えというのは普通に強い、そして顔立ち自体も素がいいことあって美人であることを隠しきれていないのだ。

 

「おいお前」

「はい」

「名前なんてーんだよ」

「ユージローです、またご縁があれば」

「ちょっと待て、そこ座れ。聞きたいことについて話してやる……なにタダでいい、オレのことをそう言ってくれたお礼みたいなもんだ」

「ありがとうございます。じゃあ魔王について聞いてもいいですか?」

「魔王を知らないのか!? まぁ、意外とここらへんは平和だしな、そういうのもいるか。魔王はそうだな――」


 これは有難い、そうして四人席にお邪魔して魔王についての話を聞くことになったのだった。

 ……後ろからのミユのジト目をどうにかスルーしながら。





 旧魔王「ライデン」がこの世界に現れたのは一千年も前のこと。

 平和なこの世界に破壊と混沌をもたらし、魔王による蹂躙によって世界の民の半分が失われてきたという。

 魔王は魔王軍とモンスターを操り、天候ですら意のままに操るどころか、噂では空間を捻じ曲げたり時を止めたりと全盛期の魔王は無茶苦茶だったとのこと。

 

 そんな魔王軍と一千年戦ってきたのが王国軍であった、選りすぐりの剣士・武闘家、弓使い、魔術師、僧侶、賢者、遊び人などを招集して魔王と戦い続けたのだという。 

 しかし魔王軍の力は恐ろしく、一度の勝利もなく多くの戦士たちが散っていったらしい点…それでも塵も積もればなんとやらで、一千年戦い続け魔王軍のの戦力を削ぎ落とし行った。

 もしかすると送り込んできた転生冒険者たちがHPゲージを削ってきていたのかもしれない。


 一方で一千年を生きる魔王にも衰えが見え始め、魔王軍は瀬戸際まで王国軍を追いつめられていたのだという。

 あと一度の出征で、もしかしたら打ち取れるかもしれないところまで来ていたこともあって国は期待に沸いていた。


「そんな時に魔王の代替わりだよ、ほんと空気読めてねーよな」

「……今の魔王は強いんですか?」

「強いな、近所のジイさんが多分魔王の全盛期にちょい足りないぐらいに強いだと」


 全盛期の魔王を知るジイさんっていくつなんだ、という疑問はしまい込むとして。

 モンスター・天候・空間・時間を操る頃にちょい足りないって……それ、勝てなくね?

 そして俺の出る幕なんて無くね?


「オレが言うのもなんだけど、魔王から魔王の娘に代わってもうちょい楽に倒せると思ったのによ」

「……今なんて?」

「このパフェほんと甘くてうめえ」


 聞いてらっしゃらない、いやまあ聞こえてたから半信半疑に聞き返しにかかるけども。


「魔王から魔王の娘って……じゃあ今の魔王は娘、なんですか?」

「そうなるな」


 正直魔王を倒すなんて無理だと思っていた。

 多分男だろうし、流石に俺にそっちの趣味はないし。


 ただ、女性なら別だ。

 ――魔王が女子なら、なんとかなるかもしれない。


「なるほど……いえ、そうですか。お話ありがとうございました、これはお礼ということで」


 パフェ代程度にしかならないかもしれないが、10Gほど置いて席を後にする。


「お、気が利くじゃねーかユージロー! また何かあったら聞いてくれよな!」


 そうしてコナに満面の笑みで見送られながらミユのいるテーブルに戻った。


「…………で、ユウ兄は釈明は?」

「情報収集の為致し方なし」

「その為に口説く必要ないよね!? というかユウ兄と話してる女の子決まって”きゅん”とか言ってるのマジで何!?」


 それは俺に聞かれても、口説くのはまぁ俺ってそれぐらいしか力のない無能ですしおすし。


「すまんミユ、こんな俺だが一番はお前なんだ」

「ふんだ……じゃあパフェ一つおごって」

「お安い御用だ。すみませーん!」


 ちなみに元のお金ミユのなんだけども、さっきコナに払ったのも元はミユの金だし。

 妹の稼いだお金で他の女子を口説く――絶妙なダメ男感!


 ともあれパフェを食べるミユは嬉しそうだった。

 ちなみに食べかけのラーメンはミユの魔法によって時間が止められアツアツのシコシコのままだった。

 というか時を止める能力もあるとか俺の妹は魔王級のチートか、最高かよこの世界でも結婚してほしい。

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