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第二十七話 再会してみた。



「ナタ……リー?」



 なんだろうか、その言葉の並びに引っかかるものがあるのに……思い出せない。 

 それでものこ手にフィットする具合は初めて触れたものには思えない、だが俺は――


「……どちら様で?」

『えっ』


 そんな武器のようなものがフィットするような前世ではなかったのだから。

 少なくとも俺が転生前に鉈を振るう場面があったようことを思い出せない。


『ユウさん……だよね? 上総ユージローだよね?』

「それは、そうだけど」

『だよね!? 覚えてないの、私を振るって”コトナリ”相手に戦ったこと!』

「ことなり……?」


 いきなりそんなバトルアニメの専門用語みたいのを出されても困る。


「もしかして:人違い」

『そんなはずない! とにかく、こうしている間にスライムが待ちぼうけしてるから』

「そんなこと言われてもな……」


 よくある、仲間と話している間待ってくれている敵。

 一応理屈で考えるなら同じ種族のスライムながらも人語をしゃべるスラスラを警戒しているといったところなのだろうか。

 その代わりに矛先はミユやミサさんに向かっているわけで……これはウダウダとしている場合ではなさそうだ。 

 

 俺なんかよりも二人は強いから、別に頑張らなくたっていいかもしれない。

 ただもし、万が一があってはならない――特にミユに怪我でもさせようものなら。


『と、とにかく私が誘導するから大丈夫! いっしょに動いてくれればいいから!』

「無茶なこと言うなあ……でも現状考えると、とりあえずやってみるか! ――はあっ!」


 そして鉈を構え、スライムの群れに飛び込んでいった――





 その結果はというと、本当にスライムをバッタバッタと倒せてしまったのだ。

 不慣れな俺を先導するようにして鉈の形をしたスラスラが自分で動き、それに俺が少し引っ張られる形で体を動かしていく。

 そして鉈を振うと一度でスライムを仕留めるのだ。


 基本的にスライムは魔法などで消し飛ばすか、核にあたる部分を探して攻撃をあたえることが倒す方法なのだが――その核を一発で探り当てて切っていく。

 スラスラがまるで一瞬にして核の位置をかぎ分け・探し当てているかのようだった、正直信じられない。

 そしてほぼ引っ張られていたはずの俺が、途中からはパターンなどを把握できたのか、スラスラと同じぐらいに行動できるタイミングがあったことがより分からない。

 ……本当にこの鉈を扱ったことのあるような。


 でも、俺は弱いはずなのだ――これじゃ弱くなくなってしまう。

 もしこれを扱えているのなら俺は自分を弱いなどと思えないはずで、身体は動いても記憶との一致はしなかった。 

 やっぱり俺は戦ったことなどないはずなのだ、ミユだって俺が弱いことに疑問を抱いた様子はなかったし。



 ともかく俺は――偶然出会ったはずのモンスターであるスライムから、元は俺の使っていた鉈だったと告白されたのだった。




  

 

 それからスライム群生地帯を抜けたところで、スラスラがとある衝撃の事実を言い放った。


『あの、ユウさん? ……もしかして私のこと覚えてません?』

「俺の知り合いに鉈はいなかったはずなんだがなあ」

『な、なら! 転生する前は私、中原アオだったんですよ!』

「え!?」


 中原アオ。

 最近ギャルゲー主人公だった時のヒロインの一人にして文通相手だったアオ。

 それはよくわかる。


「お前アオなのか!? ……小説を送り合った仲の?」

『はいっ! ……私はユウさんの書く小説を毎回楽しみにしていた一人の女の子、ですよ?』


 マジかよ……ここまでは完全に記憶が一致している。

 アオから送られてくる小説というよりポエムのお返しに――俺は俺の考えた空想バトル小説を贈ったのだった。


 それから彼女に話された小説の内容も一致していた。

 小説の主人公が突然異能力に目覚め、最強の神様ホニ様を守りながら俺が一人”異”という敵相手に戦っていくというもの。

 ラブコメありホロリあり、ラストはちょっぴりビターなハッピーエンドで自分で書いていて読んで泣きそうになったぐらいだ。

 

『あの小説ってノンフィクションだよね?』

「いや、それは……違う」


 ……はず、だ。

 確かに俺はすらすらとその空想バトル小説を書けた覚えがある、さっきはピンとこなかった戦闘用語かと思ったそれも思い返せばそのバトル小説で”異”というものに触れていた。

 しかしそんな細かい設定は忘れていたのだ、こうしてスラスラであり自称ナタリーにして中原アオと称する彼女の言葉を聞くまでは。


「……あれは空想小説だよ、フィクションだ」

『っ! ホニ様を守って戦ったことをも覚えてない!?』

「ホニさんを……うーん」


 確かに小説の内容は自称神様のホニ様を守って戦うバトル小説だった。

 しかしホニ様は俺の中では自称神様なだけの可愛い女の子でしかなかったはずだった、いや正確にはそれだけではないが――少なくとも戦いとは無縁の、あくまで空想小説のヒロインに勝手に俺がしただけだった。


『……わかった、この世界では”そういうこと”になってるんだね』

「…………」


 俺が譲らないのを聞いてか、自分で納得するようにつぶやいたスラスラの言葉が妙に引っかかった。





 それから俺はスラスラがかつての世界で知り合った仲であることを、さっきから俺の会話を見守っていたミユとミサさんに話すと――


「ええっ! あのユウ兄がラブレター書いてた相手の!?」

「と、いうことはこの子も”ユウシャ”ってことなのかね……? でもモンスターの”ユウシャ”とは初めて会うねえ」


 ミユも俺が手紙を書いていたことは分かっていたようだが、あんな厨二病真っ盛りなバトル小説をラブレターとは呼べない。

 そしてミサさんはといえば、かつての世界の記憶を持つものとして”ユウシャ”の括りで考えるも、モンスターの”ユウシャ”とは初対面のようだった。

 というか……俺たちの世界から転生してきたヒロインってことになるんだが、モンスターに転生することもあるのかよ。


 そして同時にふと懸念が生まれる。

 まさかこれまで倒してきたモンスターも、ここから見て異世界から転生してきた人間が元だったらと思うと――



 まぁ、どうってことはないけども。



 転生したらそれは別人だし、基本しゃべらないから分からないし。

 いちいち彼らモンスターの素性を解き明かしていては埒が明かない。

 基本的には考えなくていいことだろう――そのモンスターが俺の知り合いを自称さえしなければ。

 はたしてどう向き合っていいものか。


「とりあえずこれからなんて呼んだらいい?」

『この世界ではスライムだし、これまで通りスラスラで!』

「わかった。改めてよろしくな」

『はい、ユウさん!』


 彼女は”これまで通り”と言った。

 つまるところ、俺とこの世界で敵スライムとして出会ってからの記憶もしっかり覚えていそうだ――

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