第二十六話 私、再転生。<???視点>
私は中原アオ、ピチピチの現役女子高生!
……なんてことはなく、高校生として学校に来たのはたった一日だけの町内でも名の知れたワル!
……でもなく、実際は病弱すぎて学校へロクに来ることもできずに――死んでしまった女の子にして、ギャルゲーのヒロインの一人だった。
私という人間は二度死ぬ。
一度目は物語の途中で死ぬ、未練タラタラとまではいかないけどもほんの少しの心残りをもって息絶える私。
そして二度目は私がヒロインのギャルゲーがプレイし終わっての、実質的な死。
作られた世界が誰にも見られることなく閉じられてしまう、誰にも観測されなくなってしまう死んだも同然の状態。
こう考えると私って超不憫な気がする、ノンフィクション携帯小説で小説になり大ヒットした暁に劇場版も決定で満員御礼間違いなし。
実際携帯小説で不可欠なな恋愛要素だって私にあるし、あとは私の文章力が猛威を振るうだけだよね。
そんな私の恋はたった一度だけ。
たった一度だけ登校できた高校の入学式に、自分の机に仕込んでおいた手紙がキッカケだった。
何のことはなく「この手紙を見てくれた人がいるのなら手紙越しにお話しませんか」みたいな内容と返信用の切手と封筒を同封したもの。
中学校のころも不登校気味でロクに友達も出来ず、話し相手のいない私は暇で暇で――そして寂しかった。
だからその登校一日だけに賭けて、誰かが何かの間違いでも私に手紙を寄越してくれるのを期待したんだと思う。
その期待に応えてくれる人がいた、文面を見るにクラスメイトの男の子のようだった。
最初は硬い挨拶のようなものが返ってきた、まじめな人なのかなと思った。
手紙をもらえた嬉しさと、そして言葉が返ってきた嬉しさに、心が躍る一方で私は気づいてしまう。
あれ、お話しようとは言ったのに話題がないじゃん……。
だって私こんな病室にずっといるし、テレビや雑誌ぐらいしか見れないし。
じゃあテレビや雑誌の感想なんて話しても興味ないだろうし、てか手紙を送っては返しで鮮度落ちまくりだし。
悩みぬいた結果、私はどういうわけか――書き溜めた小説、というよりもポエムのようなものを送ることにした。
今考えればお話しようといってきた相手が執拗にポエムを送ってくるとか、頭おかしいんじゃないかと思うけどしょうがないじゃん!
小説を書いて送ると言ったら、なんと手紙の相手も小説を送ってくれたのだ。
それもらいとのべる? 的なものだけど、面白いハラハラドキドキする小説だった!
それは――一人の男の子と一人の自称神様との恋と戦いのお話だった。
いつしか私は自分のポエムを連ねる代わりに彼の小説の続きを心待ちにするようになっていた。
テレビでも雑誌でも見ないようなファンタジーで、それでもところどころ妙にリアル感のある小説、そこにちょっと彼の性格を伺わせるあとがきと。
私にとって、その小説は生きる糧になっていた。
小説を書いて・読んでいる間は自分の今の絶望的な状況も忘れていた、時折訪れる痛みもだいぶ気にせずにすんだ。
私にとって彼は本当に大切な相手で、いつしか――顔も知らない、名前も知らない彼に好意を抱いていたことに気づいて。
そうして彼の書く小説が完結して、私は読み終わる。
完全無欠のハッピーエンドかと言われると違うかもしれない、でも最後は二人とも幸せそうだった……そんなじんわりと染み込んでくるようなラスト。
なんだか終わってしまうのは寂しいな、でも面白かったし楽しかった!
そんな感想を彼に送りたかった、でも私に時間は残されていなかった――
そうして私は死んでしまった。
彼と中原アオという人間は一度も顔を合わせることなく死んでしまった、それが心残りだった。
……もしかしたら私が思い描くような、その手紙の相手は、小説を書いてくれた男の子は妄想するようなイケメン紳士ではないのかもしれない。
それでもやっぱり一度は会いたかった、でもげっそりでボロボロな私が見られなかったのは救いなのかもとも思ったり。
でも死んでしまったのだからしょうがない、どうすることもできない、私はこのまま消えてなくなるのだろうから――
* *
私の世界は終わったはずだった。
それを覚悟もしていたし、なにより思ったよりは悔いもなかった。
実際高校生で初めて”友達”が出来て、その友達は私に手紙であり小説を寄越してくれた。
そしてその友達は、真面目で真剣な男子なのに、描く物語は結構突拍子もない。
自分の周りの人間をベースにしながらも、違和感なくバトルモノに仕上げている辺り……そして、その描写がまるで実体験のように臨場感溢れているのも興味深かった。
でも私は、彼の書いた小説が創作の類だと信じて疑わなかったんだ。
だって、もしそれが現実にあったことなら面白すぎる。
毎日が新鮮さに溢れている、ずっとベッドに寝て、時折から病室の窓越しに景色を眺めるだけの私にとってその小説は刺激的すぎたんだ。
だからそんな小説を書く彼の顔を一度は見てみたかった、それだけが私にとっての心残りだった。
* *
「かいつまんで説明すると、あなたに、上総ユージローの手伝いをしてほしいのです」
死んだはずの私はいつの間にかあこがれた学校の教室にいて一人の女子と顔を合わせててそんなことを言われていた。
「上総ユージローって……え? って、あの上総ユージローさん?」
私の手紙の相手の彼と同姓同名だった、いやいやまさかと考える。
「そうですね、あなたと文通していた彼のことです」
「……そんなことも知ってるんだ」
「私はずっとここで、全てを見てきましたから、それが役目でもあります」
彼女の話すことがまるでそれは運命づけられたから、そう決められていることだからといった風に私は聞こえた。
「上総さんのことを手伝いのはやまやまだけど……でも、死んだ私に何が出来るの?」
上総さんの役に立ちたいという気持ちは嘘ではなかった。
私に希望を与えて、付き合ってくれた彼に何か恩返ししたい気持ちがあったんだ。
しかし彼女は私が思わず目が点になるようなことを要求してくる。
「中原蒼には、鉈に転生してほしいのです」
教室にいた女子は私にとって神様のような存在だった。
そうして私は鉈に転生した。
名前はナタリー、彼の家の倉庫に眠っていた鉈に魂が宿った……ようなことらしい。
そこで私は始めて彼の顔を見る。
少しだけ可愛らしさもありながらも男らしいような、十分かっこいい顔立ち。
小説のイメージどおりで逆に拍子抜けするぐらい。
そして私は彼こと上総さんにしてユウさんと一緒に戦うことになった。
その戦いは私が読んでいた小説にそっくりで、実際にその経験を生かすべくの私の転生だったらしい。
そうこうして小説どおりという展開には行かなくても、ユウさんに時折アドバイスしながらも――戦いに勝てた。
そしてユウさんは戦いののち女の子と付き合っていた。
まぁ別にいいんだけどね、私今は鉈だし……というか読んだ小説の中の恋愛描写も本当のだったんだなって。
だから私はユウさんと顔を合わせられて心残りが解消されたかと思いきや――
「私も普通にユウさんと話したり、付き合ったりしたかったなぁ」
という贅沢にして新しい心残りが生まれてしまうのだった。
* *
そうして二度目の死で私は自分がギャルゲーのヒロインだったことを知る。
そして彼がギャルゲーの主人公だったということも。
それなら私だってもっとヒロインらしく扱ってほしかったんだけどな。
そうは言っても私の悪運もここまでで、今度こそ完全に死んでしまった――はずだったのに。
いつの間にか私は暗い部屋のスポットライトだけが照らすような場所に立っていた。
「ようこそー」
「……えっ」
私は気づくと暗い部屋の中で、一部分だけがスポットライトで照らされた場所にいた。
「どもども、女神……じゃなかった――魔女アイシアです」
「あ、魔女……?」
と言って自分で拍手をしている――銀髪の女性がいて、目元は隠れて見えないがきっと綺麗な人なのだろう。
「なんとなくくじ引きであなたが新しい転生者に決まりました、拍手~」
「……転生?」
どうやら私は二度目の転生を果たすらしい、いやいや……その記憶を持つ私もどうなんだろうか。
でもそうなんだ……私、また転生できるんだ。
「うんうん。ギャルゲーのサブキャラクターとして生涯を全うしたあなたに、ワンチャンス! ということで」
「……それって! 人間に転生できますか!」
身を乗り出すように聞くと彼女は気まずそうに顔をかき――
「うーん、今異世界の人間・勇者枠はちょうど最近入った二人で十分なんだよね。というか今の私魔女としてやってるわけだし、どっちにしろ出来ないけど」
「勇者枠……?」
「ああ、こっちの話。悪いけど君は人間に転生できそうにないんだ、ごめんね」
「そうですか……」
人間に転生できないんだったら、じゃあ私何になるんだろう。
「でも、今ちょうど――モンスターの枠は空いてるんだよね」
……モンスター?
「え、モンスターって。えっ」
「強い勇者を入れちゃったもんだから均衡は保たないとね」
強い勇者? 均衡?
「それってどういう――」
「強い勇者に対抗してモンスターも転生させないと、勇者が魔王を倒しちゃったら私たち困っちゃうから」
「意味がわからないんですが!」
彼女の話していることがいまいち理解出来なくて頭グルグルです。
私、勇者に対するモンスターってことは敵なの!?
「細かいことはいいよ、とりあえずハイ転生ね」
「ええっ!? 私の意思は!?」
「ないない、死人に口無しだから」
「ええ、ええええええええええええええ!?」
女神のような見た目で悪魔を名乗る彼女の言葉はひどすぎる。
「だからこそあなたには異世界に転生して、ちょっと調子乗った勇者たちを倒してもらいたいと思います!」
「勇者たちを倒す!?」
敵になる上に私がその勇者を倒さないといけないの!?
「転生特典は……まぁあなたならこれでいいよね、また話したり、付き合ったりしたいって言ってたし」
「ちょっと!」
転生特典みたいなよくわからないことも勝手に決められて――
「それでは行ってらっしゃい――」
「ええええええええええ」
訳も分からないまま、私は二度目の転生を果たすことになったのだった。
* *
そうして私はモンスターに転生した。
それもスライムという、勇者? の敵にして手も足もなければ水分の塊でしかないようなモンスターになってしまう。
――けど、そこでまた私はユウさんと出会うなんて予想だにしなくて。
まぁということでクソゲヱリミックス!√4を読むと、彼女の物語を知ることが出来るかもしれません
しかし=ではないのです、ここは”原作通り”の世界の続きでした
今回分で週一更新終了です
あとは気まぐれ更新に移行します




