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第二十五話 しゃべってみた。


 二日目の朝食を終えて三人の人と一スライムは歩き出す。

 さすがに一日目のようなモンスターと一切接触しないなんてことはなく、少しずつモンスターの出没する頻度が上がってきた。


 このチョコミント平原に出没するモンスターは基本的にはスライムが一番高位で、ほかに異世界イノシシや、異世界ニワトリなどから成る。

 スライム以外は現世にいたものと色違いが時々いるぐらいで見た目が変わった印象はない、若干凶暴性が増して人間を襲うようになったぐらいだ。

 実際倒してドロップする食材を調理しても味は大差ない、イノシシは若干臭みが強く臭み抜きが必須なのも大体同じな気がする。

 正直異世界要素をまるで感じない動物……ではなく一応はモンスター群だった。


 このチョコミント平原に目立つ障害物が何もないのは増殖したスライムが手当たり次第に岩や草木を飲み込み消化してしまったからと、ミサさんから道中の世間話程度で話された。

 そして時折ある水源は原則自然に沸いているものだが、スライムが寿命を迎える寸前になると水分を求める傾向にあるため、水源に向かい・溶けて同化してしまうこともあるという。


「え、じゃあ今まで煮沸して飲んでた水って身体によくないんじゃ……」

「それが不思議なもんでね。解析魔法をかけてもスライムを構成するのは”真水”でしかないんだよ」


 ちなみにそのスライムの死骸が多く溶けた水源はすこし粘り気のある真水でしないようで、念のために煮沸すれば濾過なしで飲用可とのこと。

 スライムの重金属や毒でさえも完全に消化しきって真水と同質のもの変えてしまう性質から、スライムを用いた解毒薬・魔法の研究も行なわれているとか。

 スライムという種族が水分を欲しがるのも、一度浄化した真水と同等のものを排出するほか外気によって蒸発する水分を補充するためのようだ。

 基本的にスライムが青色なのも海が青色に見えるように光の反射による偶然のもので、色を変えるには故意に大量の同色のものを飲み込ませる必要があるとのこと。

 稀に特定鉱物などを飲み込み続けたスライムの一部に毒素こそ消えるものの由来の色素が残ってしまう異色体が出現することが稀にある、十分懐かせればペットショップで高値で売れるらしい。


「それにスライムは取り込んだものや、見たものを真似する習性があるみたいでね」


 ああ、それは透明ミユを見て知ってますとも。


「いたずら好きなスライムは人間が飲むコップに潜んで脅かしたりするそうだよ」

「意外とスライムのことみんな嫌いじゃないんですね」

「モンスターの中では本当に温厚な方だしね、人を襲うというよりも怯えて警戒してのことらしいからさ」

「共存できるモンスターもいるんですね」

「ただスライムは例外みたいなものだよ。モンスターは基本的に人間を襲って、魔王軍に貢献するものだからね」

「なるほど……」


 この世界の人間はモンスターだからすべて許さない! というわけではなく、共存関係や食料になるものに対してはさして強い感情は抱いていないらしい。

 モンスター単体よりもそのずっと先にいる魔王に関しては敵意を持っているのが、少なくとも俺が知り合った人においては総意のようだった。


 こうして敵スライムはスラスラがこぞって食べたがるので基本任せるとして、あとの食材になるモンスターは俺たちで対処することになった。

 それでも昼ごはん休憩を終えて進んでいた頃ぐらいに、次第に水源が増えはじめスライムが大量増殖している場所に足を踏み入れた。

 水辺のせいなのかスライムのせいなのかやたら湿度を高く感じる、そしてこの一帯はスライムによってほかのモンスターは根絶やしにされてしまった土地のようだった。


「”小エクスプロージョン!” ユウ兄、さすがに多すぎるんだけど!」

「さすがにこれは多いねえ」


 ミユがMP消費少な目な小規模爆発(それでも爆発天から周囲十数メートルは吹き飛ぶ)を繰り返し。

 ミサさんも基本的には回復魔法を担当するものの、このパーティで回復する必要のあるのがやらかして俺ぐらいなので、低位の魔法などで攻撃していた。

 そして不利になってくるのは射程の短い小刀を使っていた俺で――


「あっ」


 俺がドラゴンに消し炭にされて以降使っていた愛用の小刀がスライムにまるまる飲まれてしまった。

 あれを取り出しにかかると、小刀を消化しようと試みるスライムの消化能力によって俺の手が先にトロっとしてしまうので諦めるほかない。

 次の武器を取り出すべく亜空間布袋をまさぐり、出てきたのは……武器というよりは木の伐採に使っていそうなものを取り出してしまった。


「鉈かよ!」


 刃物っぽいから取り出したら木の鞘に入っている鉈だとは……小刀より二回り大きい刃物にして、本来は武器というより器具でしかない。

 しかしどうしてか――フォットする、なぜだろうかこの柄の具合に重いはずなのに慣れた重量感の正体は一体……?

 

『っ!』


 その時予想外のことが起こった、敵スライム相手に奮戦していたスラスラが鉈を構えると同時に攻撃をやめ、どういうわけか俺に向かってきたのだ。


「スラスラ!?」

『ブロロロロ!』


 そして瞬間俺の鉈をスラスラが包み込んでしまったのだ。

 あっという間にスラスラの体内で金属製の刃も、俺が掴んでいる木製の柄でさえも溶かしていく。


「スラスラどうしたんだ!」

『これ……知ってる』

「え」


 明らかな変化は自分の手の中の鉈が溶かされ、そっくり同じ形のスラスラが手に収まっていくだけでなかった。

 今までは断片的に人間の言葉を話していたように見えたスラスラが、確実に言葉を発したのである。



『わたし、”ナタリー”だった、んだよ。ユウさん』



 俺の手の中で完全に鉈の形を模倣したスラスラが俺の名前と、もう一つ別の名前を呼んだ。


「ナタ……リー?」


 なんだろうか、その言葉の並びに引っかかるものがあるのに――思い出せない。


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