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第二十四話 聞いてみた。


 そうして旅を初めて二日目を迎えた。

 色々と現世から輸入してきた感のあるこの異世界でもさすがに目覚まし時計は売っていなかった。

 ちなみに売っている時計はといえば日時計、これもまた現世から輸入してきたのだろう。

 ローテクの極みだったがデザインが良かったので一つ買ってみた、木製の円盤に二等辺三角形の板が垂直に立っているだけのもの……たぶん雨の日はアテにならなさそうだ。

 

 話がズレてしまったが、目覚まし時計がないならどうやって起きるんでい? という話なのだが。

 案外太陽の光で目が覚めてしまうものだった、これはなかなか健全な気がする。


 そういえばミサさんは俺より先に起きている様子でついたての隙間からちらっと見えてしまったのだが……どうやら服の上から香水をかけているようだった。

 この世界においては、あの町でこそ風呂というものが浸透していたが、じゃあこの野原に温泉にが沸いているかと言えばそんなことはなく。

 水浴びをするほど暑くもない気候にして、水源こそあれど草陰もないこの一帯で水浴びをしようと思う人は少ないのだろう。

 そんなことで風呂に入れないからとエチケットを気にする人は香水を使うらしい、瓶を作る技術はあるために瓶入りの香水で麻布に染み込ませて服の上からまぶすようだ。

 香水をふきかけるようないわゆるスプレーの技術はまだ発達していないらしい、現世の技術とのあべこべ感がやはり目立つ印象だ。


「あ」


 と、長々と考えていたらミサさんと目が合った。


「ごめんよ、起こしたかい?」

「いえ、自然に目が覚めましたので」

「それならよかった……けど、女性の秘密を見るのは感心しないねえ」

「ごめんなさい」

「なんて冗談だよ……ユージロー、私臭かったりしないかな」

「いえ」


 実際意識したことないのだ、もともとダイナマイトな頃からミサさんは清潔感のあった印象だった。

 宿屋の水浴び場を使っていたか、それとも俺たちと同じように大衆浴場に通っていたのかもしれない。

 

「そうかい? というか、むしろ香水の匂いがキツいのかもね。ユージローみたいな”ユウシャ”の人によく言われたよ」

「”ユウシャ”ですか?」

「ああ、私たち地元の人間からするとわかっちゃうもんだよ。奇妙な恰好に不思議な力、見たことのないようなものだって持ち込んできたものさ」


 これが俺たちにとっての異世界にして、ミサさん達にとっての世界から見た”俺たちという存在”の認識なのだろう。

 そしてユウシャというのはおそらく俺たち転生者のことを指し、女神さまが俺たちを呼ぶ際に使っていた呼称と同じなのかもしれない。


「ユウシャって、誰がそう呼ぶようになったんですか?」

「誰がというより、神託があったのさ。”これから訪れるものは世界を救うユウシャである”みたいな感じでね」


 なるほど、そういったところは女神さまから現地人に説明があったということなのだろう。

 だからこそミサさんたちが信仰する神=女神さまと考えていいのかもしれない。

 

「その”ユウシャ”ってのは結構多かったりします?」

「結構いるねえ。あの町でも半分ぐらいは元は”ユウシャ”なんじゃないかね。でも、すっかり溶け込んでるよ」


 確かにあの町だけでも技術進歩を見る限り、多くの転生者の存在を匂わせていた。

 洋食屋いぬやも、ジャヌコも転生者によるものだが、きっと俺が認識している以上にあの町は転生者の町となっていたのだろう。


「自分が聞くのも難ですが抵抗とかは、ないんですか?」

「うーん、そう言われてもねえ。そういうものだからね、私たちの町だけでも数百年前からのことだから、慣れちゃったんだよ」


 ……数百年か、確かに層が厚いとは思っていたがそれほどとは。

 魔王との戦いが一千年にも及ぶことは聞いていた、その中の数百年は転生者がこの世界に影響を及ぼしていたということなのだろう。


「怪しくて奇妙なもの持ってくるけど、それが便利なんだよね。レッグマジ●クなんて本当に凄い、あれで私も痩せられたんだよ」


 まさかのダイエット方法がレ●グマジック、なんでそんなの持ち込んだんだろう、というか普及できるのはどういった技術なのか。


 ちなみに後でわかったことだが、大量に通販商品の在庫を倉庫に抱えたまま倒産してしまった通販会社の社長が倉庫ごと転生した結果らしい。

 転生した咲で売りさばき、億G長者になったとかならなかったとか。

 数千単位の在庫があった上に、魔法で複製することである程度量産できたらしい。


 この異世界における技術の発展は、基本的に複製できたものだけなのだろう。

 だからこそえっちな本が作れるほどの製紙技術はあっても、本当の時計を作るような金属加工技術などはないということなのだろうか。

 そういえばえっちな本を作る際に使う印刷機は、倒産してしまった印刷所の社長が(以下略)。


「色々聞けて参考になりました」

「いいよいいよ。そ、そういえばね……でも出来れば――朝ごはんを作ってくれたらうれしいんだけど……ね」


 するとミサさんのお腹が鳴る、恥ずかしそうにするミサさんはちょっと可愛かった。

 ちなみにミユはスラスラを出してぐっすりだったので俺が起こす……寝顔を五分ぐらい眺めていた気がするが、バレなければ犯罪じゃないのでセーフ。

 

 朝ごはんは異世界鶏の卵で作った目玉焼きに、異世界マンモスの薄切り肉でハムエッグ風に。

 塩はこの世界で採取できるほか、胡椒に関しては異世界に持ってきた転生者がいるらしく普及し入手できるのはありがたい。

 町で買い込んでおいた簡易結界によってある程度保存できるロールパンを軽く焼き、現地の食材で再現したコンソメ風固形調味料で作った野菜入りスープ。

 なんてものを朝食で仕立てる、簡単でオーソドックスなものだが好評なようでよかった。


 そうして岩の上に葉っぱの皿を並べて朝食としていたところ――


「ミユはケチャップ派だもんな」

「おいしいよ!」


 この世界においてもケチャップが存在する。

 とはいってもトマトに似た果実を用いたケチャップ風調味料で、瓶入りで普通に売られている。

 これもきっと転生者の仕業だろう。


「ミサさんは……マヨネーズですか!?」

「これはすごいんだよ! 何にかけても合うし、それでいてカロリーも取れるし、とにかくおいしいんだ! ほんとこれだけで”ユウシャ”には感謝しきれないよ!」


 ということから転生者は異世界においてもマヨラーというのを広げてしまったらしい。

 いやまぁおいしいとは思うけども、時と場合があってだな……。


「じゃあどっちもかけるか……」


 俺だって普通に売られているマヨネーズの存在を見過ごすわけじゃない、ちゃんと自分で購入済みだ。


「「邪道 (じゃないか)!」」


 ……二人に非難を浴びたが、どうしてかわからない。

 

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