第二十二話 振り返ってみちゃった。(前)<ミユ視点>
私、上総ミユは今大好きな実の兄にして大・大・大・大好きなユウ兄と旅をしています!
遠い地この異世界でのんびり二人旅なんて、とってもロマンチック!
いやー、本当に……楽しいなぁあはは……。
「それじゃあおやすみね、ユージロー・ミユ・スラスラ」
「おやすみなさいミサさん」
「おやすみなさーい」
『おや』
……はいはい現実逃避はやめるよ、どうしてかユウ兄の周りに女の子が増えてますとも!
正確に言えば女の”人”に女の”スライムっ子”なんだけどね……いやいや、普通に考えたらユウ兄のことなんてアウトオブ眼中だと思うじゃん。
でもさ……この”人”ことミサさんも、この”スライムっ子”ことスラスラも絶対ユウ兄に気があるんだよね。
どういうことなのか……。
「おやすみスラスラ~」
『すみ』
そうして私はスラスラと一緒に眠りに就く、これはある日から始まった私の習慣にして――対策だった。
ちょっと私にとっての変化というよりも、私の周りの変化についてユウ兄と再会したあの日から話していこうと思う。
* *
ユウ兄は前世からやたらモテた。
妹贔屓にしても容姿も割とイケてると思うし? かっこいいし? 頼りになるし?
まぁそれでギャルゲーの主人公だったわけだし、そりゃそうなんだけどさ……それにしたって十人に迫る勢いで異性と付き合ってたんだから凄い。
とは言ってもユウ兄が世界ごとに女の子をとっかえひっかえしていたのを知ったのは、スタッフロールが流れる頃。
各それぞれの世界でユウ兄が他の女の子と付き合う度に嫉妬をして、拗ねたりユウ兄を困らせてりしていたのは変わらなかった。
それでも心の奥底で”デジャブ”のようなことを感じていて「こんなこと前もあったような?」みたいな。
そして私が知ったのは各世界でユウ兄は別の女の子と付き合って、その度に私は失恋していたこと。
そしてただ一つの世界で私は――ユウ兄と結ばれたこと。
嬉しかった、幸せだった、いつまでも続いてほしいとその時は願っていたのを覚えてる。
でも世界は終わりすべてがリセットされると、結ばれたことも付き合っていた頃の記憶もなかったことになって、私もユウ兄と恋人同士だったことを忘れてしまった。
だからそれらを思い出して、ユウ兄がギャルゲーの主人公だと知った時には妙に納得したんだよね。
確かに私の大好きなお兄ちゃんが多くの女の子にモテるのは無理からぬことだけど、それにしたってとは思ったし。
同時に私はそんなギャルゲー主人公の妹、キャラクター性で言えば主人公である兄の存在を引き立てる為の舞台装置的な。
でもそんな私が一度は本当にユウ兄と結ばれた、それは嘘じゃなくて夢でもなかった――
そして私とユウ兄は同じ世界の同じ時間の同じ場所に転生した、これって奇跡だと思うしぶっちゃけ運命だよね。
というかさユウ兄が私を求めてくれたんだもんね。
超嬉しい!!!!!!!!!!!!!!!!!!
こうして私とユウ兄との異世界のんびり兄妹生活が始まる――なんてことはなくて。
ユウ兄が思ったより強くなかった……。
ええと、というより私が強すぎるんだと思うんだよね……ユウ兄は悪くない! 悪いのはこの世界! おのれ世界め、ぶっこわしてやりゅ!!!
強くないせいでユウ兄一度死んじゃった、そして怒りのあまりに魔法を暴走させちゃった。
もうその時のことはあんまり覚えてないよね――ユウ兄を消し炭にしやがってあのクソドラゴン、塵一つ残さず消し飛ばしたはずが遺品なんて残して絶対に許さないからあのドラゴン!!!!
その直後に様子を見に来たお世話になっている宿屋の店主さんことミサさんが、蘇生魔法を唱えてくれる。
藁にもすがる思いで、多分涙でぐちゃぐちゃの顔でお願いしたと思う。
その甲斐あってドラゴンのブレスによって炭化してどうにか形を保っていた状況から回復していき、ついには見た目には健常な状態まで戻せた。
しかしユウ兄は目を覚ます気配もなく、そんな時に――
「ん!」
「!?」
ミサさんがユウ兄に濃厚なキスをし始めたでありませんか、いやいや歳の差だからノーカウント、親子の用な年齢差でのキスなんてそりゃなんのことはない――
落ち着け私、これは人工呼吸的なものだから決してやましいことなんてなくてむしろこの状況でそういう発想をする私の方がやましいわけでああああああ!
「んんんー!?」
「ぷふぁっ! 生き返ったかい!? 良かった! 消し炭から形を戻せたけど意識が戻らなかったから、こうして魔力を直接流し込んだのよ! 何か痛いところはないね?」
「あの……今、キスを?」
「人工呼吸みたいなものだよ、緊急事態だからおばさんだけど我慢してくれな?」
「いえ……ミサさんがキスしてくれたのが嬉しくて」
「きゅん」
「ちょっとユウ兄!」
そうして私はユウ兄を引っ張ると――
「勝手に死ぬなバカ兄!」
「ごめん」
「ばかばか! ゆるさない!」
「ごめん……」
「もう、だめかと思った……もう、許さないんだからあああああああああああああああ」
私は生き返ったユウ兄の胸の中で泣いた。
もう二度とユウ兄が死ぬ姿なんて見たくない、無茶してほしくない、頑張らなくたっていい。
そんな思いを胸に秘めながらただただ泣き続ける私がいて――
それからユウ兄は地道にレベルをあげるのだという。
それと同時に私に借りたお金を返すべく働くのだという。
……別に強くならなくていいのに、強い私が護ればいいんだから。
……別に働かなくたっていいのに、お金がいるなら私がいくらでもあげるのに。
でもユウ兄らしくもあって、思えば前世でもユウ兄は女の子相手に地道な努力が実を結ばせることも多かったもんね。
他の誰もが気づいてなくても、妹の私は気づいてたんだからね。
正直異世界に転生して最強魔法使いになって、それだけなら私が魔法バンバン打って敵をバッタバッタ薙ぎ倒すことも夢見てたけど。
ユウ兄が一番だし、ユウ兄がそうしたいならいいよって言いたいし、がんばってるユウ兄の姿見てるのは幸せだし。
それに、その……私って魔法使うと、マジックポイントことMPが減っちゃうわけで。
回復薬みたいなものもあるんだし、店で買えばいいのかもだけど……それ以前に身体が疼いて仕方なくて。
MPが尽きそうな時にはもう、いつもは常識的に考えて抑え込んでいた欲望が、理性が吹っ飛んでしまうわけで――
「ユウ兄、すきぃ」
「ちょ、ミユ? なにしてんの!?」
「わかんない、でもこうしないと切なくて苦しくて!」
で、色々あって分かったのはえっちなことをすると私のMPは驚異的に回復するということで。
……この回復方法恥ずかし過ぎるんですけど!
いやでもまぁユウ兄相手ならしょうがないなぁというか、まぁいっかなぁというか。
……ユウ兄以外に同じようなことをするぐらいなら舌噛んで死ぬけどね。
それでも我に返った時の恥ずかしさたるや……出来ればしたくないとは思うわけで。
それから私は思いつく! どうやら別にえっちなこととは相手が絶対に必要なわけではないと。
だからコッソリユウ兄が寝静まった頃にユウ兄想って自分を慰めることで、まぁその……ユウ兄との時ほどでないにしても回復速度アップというか。
ユウ兄が死んでしまったあとの回復は基本それだったというか、ユウ兄がバイトしている間もベッドで……していたこともあったというか。
もちろん細心の注意を払い、声を押し殺し振動すらたてないからこそユウ兄にはバレてないだろうけどね!




