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第二十一話 思い出してみた。

10月4日一部文章修正


あの作品がハーレムエンドを迎えなかったら

そんな延長線上にあるかもしれませんしないかもしれません



 おおよそ歩いて三日かかるという次の町への道のりだが、日が落ちたことで一度足を休めることになる。

 影を作るような高さの物がまるで存在しないまっさらな平原の真ん中を拠点とし、ミサさんによる仮拠点づくりと俺が作った男料理の夕食を終えて睡眠をとる時間がやってきた。

 初日に歩いた範囲ではモンスターと一匹とも遭遇することがなかった、というのも始まりの町ゼクシズでクエストをこなし続けた結果この一帯のモンスターを俺たち兄妹とスラスラによって根絶やしにしてしまった為である。

 あまりに単調でどこかで見た景色が続くだけに確信こそ持てないが、明日歩く範囲ぐらいからモンスターがちょこちょこと出没するかもしれないのが俺の身立てだ。

 

「それじゃあおやすみね、ユージロー・ミユ・スラスラ」

「おやすみなさいミサさん」

「おやすみなさーい」

『おや』


 ちなみに食事中にミサさんに「妹のことも名前で呼んでやってください」と言ったところ、名前で呼ぶ仲になった。

 もっとも流石に俺たち兄妹は年上にあたるミサさんにはさん付けだが、ともあれ少し打ち解けた気がしないでもない。


 翼竜の骨を用いた覆いの下に簡易ベッドが三つ並び、組み立て式のついたてでベッド間仕切って寝床とする。

 ……ミユもミサさんも何も言わないが仮にも男子一人が隣で寝ているのについたて一つというのは危機管理的にどうなのだろうか。

 俺はそんなつもり毛頭ないけども、せいぜい愛する妹のミユの寝顔を一分間ほど見つめたのちそれを脳裏に刻み込むようにして幸せな眠りに就くぐらいだろう。


 そういえばいくらモンスターが一掃されたといっても平原の真ん中で何の守りもない・見張りもいないというのはどうかと思うかもしれない。

 そこは便利な簡易結界の出番で、ある程度のモンスターの攻撃・魔法に耐える上に攻撃を受けたと同時に警報が流れるようにもミサさんは設定してくれた。

 起きたらモンスターの大群が迫っていることはあっても、寝てる間に死んでた……なんてことにはならないようにこの世界では夜の対策をするようである。

 それを聞いて俺もミユも少しは安心して眠りに就くことが出来るのだった。


「おやすみスラスラ~」

『すみ』


 俺には完全に殺気と続けて”おやすみ”と発音してるように聞こえるのだが、どうやら先入観からかミユはスラスラが喋っているとは思っていない様子。

 そんなスラスラはミユが抱いて寝ると言う、今は気候的に熱くも寒くもないとはいえ熱帯夜にはひんやりとしたスラスラがいれば安眠できそうだ。

 そして俺はといえばミサさんとミユに挟まれる様なポジションの簡易ベッドに仰向けになり、そこで目をつぶる。


 そこで俺は夢を見る、どちらかというとかつてのことを夢の中で俺は思い出していたのだった――



* *



 俺はかつてギャルゲーの主人公だった。

 もっともその自覚を得たのはプレイヤーがゲームをクリアしスタッフロールが流れた頃のこと。

 それまではふと忘れていたが、普通の人間が覚えるにしては不思議な経験の数々が”ゲームの主人公”にして”架空の人物”なのだからと後出しでも納得出来たのだった。 


 俺はそんなギャルゲー主人公だった頃、何人もの女子と付き合ってきた。

 そして付き合ってからしばらくしてハッピーエンドを迎えると、世界はリセットされ記憶も関係も状態もすべてがリセットされて始まりに戻る。

 大抵の始まりは高校一年生の入学式頃、プレイヤーが選んだとされる指標によって俺はそれぞれ別の世界で違う女の子と付き合った。

 

 幼馴染だったり、ミステリアス美人だったり、外国人留学生だったり、クラスメイトだったり……自称神様なんて子もいたなぁ。

 みんないい子達だったし、みんな可愛かった、みんないいところがあったし、みんなそれぞれ悩みも抱えていた、みんな――人間らしかった。

 それでも俺はそんな彼女たちを心の奥底から好きになれていたかといえば天天今思うと正直自信がない。

 俺の自意識としては根底に妹の愛があって、更にはプレイヤーの操り人形でしかないと後になって分かって、そういう流れだったから俺たちは付き合ったんじゃないかと考えてしまうのだ。


「じゃなかったら」


 俺はギャルゲーの主人公だから知っている、なんとなくではあっても知り得てしまった。

 俺のいたギャルゲーはプレイヤーがすべてを攻略したことで世界は閉ざされて、俺たちは事実上の死を迎えた。

 でも本当はプレイヤーも、そして他の誰も気づくことのない隠し要素があのゲームにはあったのだ。

 少なくとも俺はゲーム内で攻略可能な女の子とはすべて付き合ってハッピーエンドを迎えたことには違いない、しかし――



 あのゲームにはハーレムエンドがあった。



 みんなと付き合って、みんなと結ばれて、みんなと向き合って、みんなと過ごしていくようなそんな隠しエンディングが存在していた。

 しかし誰もその要素に気付かなかったし、それ以前に俺がその発想には否定的だった。

 ……無理だと思った、俺にはそんなの荷が重すぎた、現実的じゃなかった、それを実現した先の未来が見えなかった。

 それに俺はなにより妹が好きなのだ、その愛ほどは女神さまに聞かされて初めて知ることになったという「存在しえないシナリオを以て俺がミユと付き合う」ほどなのだから。

 そういうことで実現することはなかったし、創作者(・・・)と俺以外の誰も知り得ていないかもしれない、それでも俺たちのゲームには幻の結末が確かに存在していたのだ。


 実際プレイヤーが気づかなかったのも無理はなく、そもそも気づきようが無かったのは、そのハーレムエンドに繋がるシナリオやフラグなどはそもそも存在していないからだった。

 創作者が実現できないからと投げてしまったのかもしれないし、それとも予算との折り合いでなかったことになったのかもしれない。

 ただあのゲームには誰にもたどり着くことのできない、ハーレムエンドのテキストデータが存在していたのだった。

 よくある没シナリオ・没データの類だろう、解析したら出てくるような忘れ去られたデータにしてエンディング。


 それでも考えてしまうのだ。

 存在しえないミユとのエンディングを迎えた俺なら、俺に意思とやる気さえあれば――シナリオの存在しなかったハーレムエンドに辿り着けたかもしれない。

 そんな”もしも”をいつまでも考えていても仕方のない、実際今の俺も――ハーレムエンドなんて、現実的じゃないと考えているのだから。

 それはこの転生してきたこの世界でも思うことで、女神さまは女子を攻略して魔王を打ち倒せとは言うが……仮にハーレム状態には出来てもハーレムなエンディングを迎えられる自信が俺なかった。

 

 というかそもそも俺にとってなによりも実の妹のミユが一番なのだから。

 一番近くて、一番可愛くて、一番かけがえの無くて、一番大切な、一番愛すべき存在。

 だから俺は最後に結ばれるのならば、きっと迷わずミユを選ぶことだろうと思うのだ――





 とはいっても、ミユが確かに一番ではあるものの思い出せば可愛くも個性的なヒロイン達だったと思う。

 印象に残ってるのは自称神様のホニさんと、色々すれ違って付き合った幼馴染のユキと、手紙のやりとりばかりだったアオという女の子。

 アオとは文通で話して、なぜか自作の小説を披露しあったっけ。

 ホニさんは事象神様とか俺は言ってるけど、多分あの世界では本当に神様だった……一度バッドエンドで世界滅ぼしちゃってるし。

 ユキは明るくて快活な女の子だった、いつしか男女問わず人気になり話題の中心になり気づけば幼馴染にして気になる異性になっていた。


「……」


 俺やミユはこの世界で勇者として冒険者として生き返ったが、他の子はどうなったんだろうか。

 案外変な宿命も背負わずに現代にして現世に転生している、とかだといいんだけどな……。

 女神さまあたりに聞けば答えてくれるのだろうか、ダメ元で聞いてみてもいいかもしれない。


「……そういえば」


 外国人留学生の子はオルリス(・・・・)って言ったっけな。

 なんか女神さまと名前も一緒だし金髪碧眼具合も一緒だけど……胸部装甲が違うから別人だろう。

 ギャルゲーにおけるオルリスはそれはもうボンキュッボンだった、少なくともパッドで誤魔化している女神さまとは絶対に違うだろう――

20200718修正:

さすがに俺のギャルゲースキルも広範囲の地図機能は付けてくれなかった……周囲数百メートルぐらいの”女子のみ”が表示される地図なら機能にあったが。

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