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第二十話 女神です。(1)<ほぼオルリス視点>


 

「それでは、いってらっしゃい勇者様――私、女神オルリスはあなた様の健闘をお祈りしています」



 そんな決まった文言を言って送り出すのも何度目になるのでしょう、目の前でまた一人の勇者が異世界に転生します。

 勇者は異世界では”冒険者”になり、今異世界で世界を征服すべく勢力を拡大し続けるモンスターの頂点に存在する魔王討伐を目指すのです。

 

「どうか今度こそは倒してください……勇者様」


 私は願っています、勇者によって”悪”である魔王が倒される日を。

 魔王が居なくなって平和の訪れる世界を、夢見ています。

 例えそれが私にとっては画面越しの世界でしかなくても、私にとっては愛すべき世界なのですから。



* *



 天界、そこで私は産まれた。

 天界だからこそ空にあるとされているものの、海も山も太陽もあり、町だって乗り物だってある、あまりの広大故にさながら地上と殆ど違いのないと言われている。

 しかし天界において規律を破る、人を裏切る、正しい心を喪うことなどで罪に対する罰として地上へ”落とす”為の穴が存在していると親にはしつこく話された。

 だから「いい子にしていないと地上に落ちるんだからね」というのが幼少期に母親が私を怒る際の決まり文句だった。

 その教えを守ってきたと私は思ってる、正しい自分であると考えて続け、自分なりに努力して女神になれた。


 天界で産まれた全員が女神になる・なれるということはなく、天界においては一つの職業にし過ぎない、そもそも私たちの種族というものは天上人というものなのだから。

 厳しい試験に厳しい検査を得て、何千分の一の確率でなることのできるのが女神だった。

 幼い頃にテレビで見た”地上”という世界では戦争・略奪・貧困・差別・病気などが蔓延しているとされていた。

 それを見て私にも何か出来ることがあれば、じゃなくて私が何かしたい! と思ったのだと思う。

 世界を平和にしたい、正しい形にしたい、その思いを幼少期から忘れることなく――私は大きくなった。


 一方で地上への憧れも無いと言えば嘘になると思う。

 天界を似せて作ったのが地上だったとしても、時を経たことで変質し独自の文化を形成しつつあった。

 それに触れてみたいと思うのは、私も地上に行ってみたいと思うのは”正しくないこと”だけど、それを見守り時折手を差し伸べること自体は何ら問題のないことだった。

 だから私は地上への好奇心と、正義の心を以て女神になった――





 私が配されたのは#$%世界の女神だった。

 もともと文明の発展は遅い一方で、魔力に満ちていたこともあって魔法がかなり発達していた。


 先輩女神さまの記録によれば、しばらくは動物と人間が共存する平和な世界だったのだという。

 しかしある時を境に魔王という破滅的存在が現れ、動物の多くは変質し人間をこぞって襲う”モンスター”と化した。

 それから何千年にも及ぶ人間と魔王の戦いが始まったのだという。


 基本的に女神というものは絶対的な存在にして、全知全能だと教えられた。

 やろうと思えば人の心を操ることも出来れば、時間を繰ることだって可能にして、世界を作り変えることだって出来る。

 しかしそれらを自由にやってしまえば出来上がるのは完璧にして予定調和にしてひどく退屈な停滞した世界が出来上がる――と私は学校で習った。

 だからこそ女神の手による世界への直接的な干渉は行わない、それでいて知能を持ち知性を持つ下界の住人にある程度任せるのだという。

 それでもどうしても詰んでしまうような、停滞が続くような、破滅的な未来しかその世界に待ち受けていないならば――


 女神の加護を与えた”選ばれし人間”をその世界送り出せる、ということになったのだという。


 選ばれし人間というのは原則すでに命を落とした者・死んだ存在に限定された。

 その中で女神の加護の適正が高い者が選出され、適した世界へと”転生”という形で送りだされる。

 その際には転生、私の世界においては”勇者”として送り出すその者には一つだけ願いを叶える特権が与えられてきた。

 人によっては富であったり、地位であったり、力であったりもした。

 ちなみに私の世界の場合の場合は「魔王を倒す為」に必要な経費のようなものとして処理する。

 そして私より前の世代の#$%世界の先輩女神もきっと勇者が魔王を倒すことを願って送り続けてきたのだろうと思う。


「なのに……」


 ……あくまで転生させるのは魔王を倒す為、それでも世界で悠々自適に過ごすこと自体を制限するわけじゃないのです。

 もちろん魔王を倒す前提であり、譲っても倒そうとする気持ちを持つことが大前提なのに――


「ほとんどが始まりの町か次の町で生涯を終えてるってどういうことですか!?」


 勇者の履歴を私は調べてみたところ、殆どの勇者は転生特典だけもらっておいて殆ど”勇者”としての仕事を全うせずにその地に骨を埋めていたのでした。

 僅かに魔王討伐の王国軍に参加している勇者もいるものの、それでも魔王を倒すには至っていません。

 寿命以外で死ぬことはない勇者という存在は、本来ならばトライ&エラーを繰り返すべきだと思うのです。


「皆諦めが早過ぎませんか!?」


 転生特典的に戦えないことに気付いてすぐ諦める者。

 仲間の現地人が戦士したぐらい(・・・)でトラウマになって引きこもって諦める者。

 そもそも戦うつもりもなく異世界スローライフを満喫しにかかる者。


「まったくたるんでいますねまったく」


 カロメとかジャヌコとかマヨネーズとか洗浄便座の普及とか魔王討伐の二の次だと思うんですけど!

 

 だから私としてはもどかしい思いなのです。

 今でも#$%世界の魔王軍もといモンスターは人間を脅かし続けています、一度先代魔王が退く寸前で魔王討伐まであと一歩までいったのです……もっともその戦線に勇者の姿はありませんが。

 しかしそんなタイミングで魔王の娘もとい新魔王が誕生したのと同時に猛威を振るいます、全盛期の先代魔王に近い実力にしてまた魔王軍による侵略が加速度的に始まっているのです。

 

 それに対抗すべく私も勇者を送り込んではいるものの……どうしてか私のもとに来る勇者は戦闘に不向きな願いばかりを求めるのです。

 転生特典は定められている以上は私に拒否権もありませんし、必ず与えなければいけないことは確かではあるのです。

 それでも「レジ!」とか「洗浄便座」とか「愛車のス○ル360」とか、魔王倒す気ありますか!?


「どうすればいいのでしょうか……」


 ……自分の力さえ使えば魔王なんて消し飛ばすことも容易なのです、しかしそれは出来ないルールになっています。

 だからこそもどかしく思うのです、自分が直接干渉できない上に送り出す勇者が揃いも揃って魔王を倒す気がないときてるんですから。


「むう……」

 

<新しい勇者の転送準備完了、女神オルリスは女神の間にて準備ください>


「今度こそは……」


 そう願いつつも私は職場のデスクから女神の間へ向かいます。



「よくいらっしゃいました、上総ユージロー様――」

  


* *


 

 やらかしてしまいました。


 転生勇者にご法度な転生特典二重取り状態のまま二人の勇者を#$%世界に送り出してしまったのです。

 私のもとにやってきた勇者が希望したのが転生間近の勇者だったせいで、特典付与した勇者を勇者が呼んでしまうことになるなんて。

 こんなこと稀というかまったく経験が無いのですが……。


 職場の噂で聞いたことがあるのですが、とんでもないイケメンにほだされて勇者に言われるままに転生特典を複数あげて転生させた女神は、その後見た者は誰もおらず――


「ど、どうなるんでしょうか私」


 ほぼ事故とはいえご法度な二重取り・複数転生特典状態……。

 ああ、私の女神人生はここで終わってしまうのでしょうか。


<女神オルリス 女神アイシアからの呼び出しです、第二十三会議室までお越しください>


 さながら死刑宣告待つ気分です、職が奪われるだけならまだいいですが……まさか消されるなんてことが……!

 重い足取りで女神の間を後にして先輩女神のいる会議室へ向かいました――





「やっちゃったね☆」


 そうして迎え入れられ待っているのは銀髪にして赤い眼を持つ、お人形さんのような小柄にして童顔な可愛い方ですが――私よりもかなり先輩にして大ベテランの女神アイシアでした。


「も、申し訳ありません」

「いやいやしょうがないよ、事故みたいなもんだよ、稀によくあることだから」


 ”稀に”と”よくある”が結びつかないのですが。


「まーでもお小言言っちゃうとさ、私が送りだそうとした勇者なんだよね」

「っ!?」

「女神業ってさ、転生者送りだしたら給料出るし、転生者が仕事したらもっと給料出るんよね、知ってる?」

「は、はい」

「まぁだから私の分け前減っちゃったわけよー、どうするねー?」

「そ、それは――」


 私は自分の財布を気にしました。

 私は確かに勇者を多く送り出していますが、世界における貢献度が低いせいで給料自体は低いのです。

 寂しい懐を考えつつも、先輩の勇者を横取りしてしまったことを考えれば――


「なんて冗談だよぉ。ホンキにしないでね? 可愛い後輩女神からカツアゲなんて真似しないよ」

「そ、そうですか」

「ま、でも私は別にいいんだけど上の方が始末書書いてほしいんだってさ。それは頼むよ」

「は、はい……分かりました」

「うん、そんだけ。愚痴に付き合わせて悪かったよ~、これ近くの定食屋のサービス券あげる。私常連だからタンマリもらって期限近いのに使いきれないのよ、いらないなら捨てといて」


 あの”ごはんや”のA定食が半額……! 嬉しい! いい先輩すぎる!


「あ、ありがとうございます」

「じゃ、お疲れした~」

「お、お疲れ様です」 


 そうして女神アイシアが去り私の手には始末書とサービス券が残されました。


「……始末書だけで、済んだってことなんでしょうか」


 実際始末書を提出した際に係長から説教を数分程度されただけで実質不問とされたのでした。

 ……良かった、んでしょうか?



* *



「あーオルリスは悪くないとはいえ、上はああ言ってたけどいいのかねえ――イレギュラーとはいえ#$%世界にあんな強い勇者(・・・・・・・・)なんか入れて」

間違って魔王倒す(・・・・・・・・)なんてことになったらどうなるかな」

「……ま、私は私の仕事するだけだしね」

「ようこそー」

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