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第十九話 好感度あげてみた。


 

 ともあれミサさんのおかげで簡易ベッドに翼竜の骨を用いて組み立てた覆いによってそこそこ良い居住スペースが確保出来たのだった。  

 ……確かに枕一つと重ね着して寝ると、身体が痛くなるわ疲れはきっと取れないわで散々だったかもしれない。

 そう考えると宿屋を経営していただけあってか、キャンプにおけるノウハウも持っているミサさんの存在はありがたいものだった。


 いわゆる一日だけの仮拠点が出来たところで、問題は今日の夕飯だった。


「今日の夕飯どうしましょうかミサさん」

「えっ!? そ、そうだねえ……私はカロメでいいかな!」

「え」


 ちなみにこの異世界ではカロリーをメイトするような商品そのままの携帯食料が普及している、なんでもあるなこの世界。

 またもや転生者の仕業なのだろうが流石に包装技術に関しては断念したようで、大き目の葉っぱで固形のスティックをくるんでいるだけのもの。

 それだけだと保存が効かなさそうに思えるが異世界風に魔法をかけて腐るスピードをかなり遅らせているというもの、まさに魔法のスティック。

 チョコ味とチーズ味とフルーツ味があるとか、もっとも魔法をかけるコスパな為にお値段は高めなのだが。


 そんな携帯食料で良いと仰るミサさん、食材に関しては亜空間布袋に腐るほど放り込んであり貧窮とは程遠いのだ。

 そういえばその亜空間布袋はジャヌコでデスマーチなバイト期間中に家に帰ってきて試したことなのだが、空間内の時間は止まっており食材の保存に向いていることが分かった。

 つまりは倒したモンスターの死骸なども放り込んでおけば死にたてホヤホヤの食材にバッチグーなのだった。

 ちなみにそんな亜空間布袋はこの異世界で普通に普及している、話によれば適当に魔法実験をしていたら偶然一部分のみが亜空間化したことから実用化されたらしい。

 しかし確実な製造法を確立しておらず、出来るか出来ないかは五分五分な上に生成時にMPを大量に消費するからこそお高い、勇者特権でお高くともデフォルト装備させてくれたのだろう。 


 と、まぁ話が逸れたものの。

 この旅初日で携帯食料に手を出すという理由が良く分からない……なんだか妙だな。


「えー、普通にご飯食べたいー! ユウ兄焼きそばパン買って来てよ」

「普通のご飯とは一体」


 炭水化物オン炭水化物を普通のご飯とは言わない、美味いことは認めるけど。

 そして使いパシれるほどの距離にコンビニもスーパーも無いのがチョコミント平原、はじまりの町に戻らなければ売っていないのだ。


「てかミユが作れよ」

「え……いいの? 本当に、いいのかなユウ兄」

「ダメだが」

「分かってるならなんで聞いたの!」


 俺の妹にして最愛の人にして、可愛い上に慈愛に満ちていて可愛いという天が二物どころか三物も四物も与えたと言っても過言でない神に愛された女性のミユ。

 しかしそんなミユにもある意味人間らしいとも言える不得意なことがあったのだった――


「……だって私が料理作るとユウ兄死んじゃうじゃん」

「まあな」

「え!? 料理を作って人死にが出るなんてどういうことなんだい!? さすがの私もそこまでじゃないよ」


 ミサさんが驚くのも無理はない、しかしこれまた事実。

 俺の嫁の飯がマズい、マズいだけならまだいいのだ……ミユが作ると大抵劇物か、生成過程においてテロに発展するのだ。


 思い返せばギャルゲー主人公だった時の俺の主な死因はミユの手料理に起因していたのだった。

 ミユが作った味噌汁を俺が飲んだらどういう訳か毒物反応を起こして死亡、ミユが調理実習の練習に家でカレーを作ったら充満した毒ガスによって家族全員死亡。

 調理実習に参加したら家庭科室内がパンデミック状態になりミユを含めてアンデッド化、ミユに俺が食われてゲームオーバーしたっけ。


 そんな懐かしい日々を思い出す、かつてドリンクバーで遊び感覚で飲み物混ぜただけでファミレス内の客を根絶やしにしてしまったのだから、もうそういうことなのだ。

 ミユはたぶん料理というものをしちゃいけない存在なのだと思う、神様が「ちょっとドジっ子要素も必要だよねテヘペロ」と付け足したのかもしれない、ならしょうがないよな。


「ミサさん断言しますよ、ミユに料理を作らせたらこの平原が草木一本生えない砂漠と化しますよ」

「……ど、どういう理屈か分からないけど嘘じゃないんだね」

 

 むしろミユの料理で魔王倒せるかもしれない、代償にミユ含めてパーティ全滅しかねないけど……この作戦はボツだな。

 一方でミユが俺の疑問についての核心に迫ろうとしていた。  


「じゃあミサさん作ってー」

「えっ!?」

「そういえばミサさんって料理作ってるとこ見た事ないですね」 


 今でこそちょいむっちり感の年上お姉さんだが、かつてはダイナマイトで肝っ玉母さん風な人だった。

 そう見た目で判断するならそれこそおふくろの味とかを作ってくれそうな雰囲気に満ちていたのだ。

 しかし考えてみればミサさんは宿屋をやっているが、宿のプランには一食も提供されることはなく持ち込みか外食のみで、夜営業しているカウンターバーにも軽食を扱っている風はなかった。


 料理をしない、そして旅初日にしてのカロメ提案。

 つまりは、もしかすると、だが――



「もしかして、ミサさん料理苦手だったりしますか?」



 そう俺が言うと少しだけ躊躇しながらも頬を赤くして控え目に頷いた。


「いやあ、そういうのがほんと苦手でね。王国軍では”料理当番免除”されたもんだよ……ははは」


 王国軍のシステムは分からないがローテーションするであろう料理当番から外されるレベルの料理スキルと考えて良さそうだ。

 

「そ、そうなんですか」

「亡くなった前の旦那も私がご飯作った翌日には、私には言わなかったけどお腹壊してたみたいだね……」


 前の旦那優しい……と考えた一方で”死因”の文字が浮かぶ、いやそれは流石に考えすぎだろう――

 

「なんで私見たのユウ兄」

「他意はないぞ」


 料理で人を殺せる人が身近にいたなぁ……これ以上考えるのはよそう。


 ともあれ三人パーティ中、華の女子二人が料理不得手なことが分かってしまう。

 ちなみにスラスラは流石に料理作れる気がしないので入れていないけども。


「なら俺が作りますよ」

「え……あんた、料理出来るのかい?」

「ユウ兄の料理! ひゃっほう!」


 ミユは大層喜んでいる、そんなハードル上げられると困るんだが。


「出来ますよ」

「そ、それなら大人げないけどお願い出来るかい」


 やっぱりカロメを望んでいたわけではないらしい、まぁそうだよな。

 しかし俺としては別に料理が好きというわけではなく、ギャルゲー主人公だから身に付けたというか身に付いたというか……。


「いいですよ、でも」

「でも?」

「そういえばその、出来れば俺への”あんた”呼びって……もうちょっとフレンドリーだと嬉しいです」


 確かに好意を利用する云々言ってても、ミサさんとは普通に仲良くなりたい気持ちも無くはないのだ。

 ……もっとも好感度をあげて、今後もパーティで活躍してもらいたい下心が無いと言えば嘘になるのだが。

 そしてせっかくパーティだというのに呼び方は宿屋の店主と客の間柄で変わらないのが残念に思えていた。

 

「た、確かに他人行儀かもしれないね! そ、そうだね……カズサユージローって名前があるんだもんね」

「はい」


 フルネームで覚えていてくれている、ちょっと嬉しいものだ。

 ミユが俺の事をユージローからユーを取ってユウ兄と呼ぶように、ミサさんは俺の事を――



「じゃあ、ア・ナ・タ(ハート)」


 

 な、名前は?


「それとも旦那がいいかい!?」

「いえいえ俺の名前どこ行ったんですか」

「そ、そうだよね。悪いね、じゃあ――ユージローさんっ」


 年上のお姉さんにそう甘えた口調で言われると、ちょっとクラっときたぞ?

 攻略済みなのは知っていたけどもミサさんもなかなか容赦しないですなハハハ……ミユの不機嫌ゲージが上がってるんですけど。


「流石にさん付けはやめてくださいよ! 呼び捨てでいいと思います!」

「そ、そうかい? なら、ユージロー……うん、これはこれでいいかもしれないね」


 ニュアンスがその新婚ホヤホヤの名前を呼ぶ感じなのがまた、くぅ俺には心に決めた人が!


「そ、それでお願いします。ミサさん」

「ああ、もう私が呼び捨てで呼ぶんだからユージローだって私のことを……ね?」

「ミサさ……ミサ」

「うんいい! よろしく頼むよ、ユージロー」


 ともあれ雑にもミサさんとのフレンドリーなイベントをこなしたのだった。

 というかこのイベント前に攻略済みって順序がおかしいというか、これが<ギャルゲースキル>なのかというか―― 


「ぐぬぬぬぬぬぬ」

『ブロロロロロロ』


 すまんミユ、ある程度は他の子とも仲良くしなければならないのだ……許してほしい、そして不機嫌なミユも可愛い。

 そしてスラスラも『デレデレしすぎ!』とプリプリならぬプルプル怒っていた、このスライムも可愛いな。


 

 ちなみに俺は亜空間布袋から取り出した食材を下ごしらえして適当に料理をでっちあげた。

 男の料理の延長線上でしかないはずなのだが、ミユとミサには好評だった。     

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