第二話 値切ってみた。
「みてみてユウ兄! なんかお金とか色々もらった!」
「おおう……」
そうするといつの間にかミユは金貨が入っていると思われる袋を手に持っており、その中身を見せてもらった。
……そこには明らかにゲームにおける序盤では手に入らなさそうな価値を秘めた金貨がザックザクだった。
ほかにもなんだか動物の骨や水晶などが詰まった袋が足元に置かれている。
「あとレベルが300になった!」
「経験値調整ミスってない?」
俺とてギャルゲー主人公ではあるが、いわゆるRPGのようなゲームに触れたことはある。
……ギャルゲー主人公がゲームプレイしてるとか、何の冗談かと思うのだが。
ミユはさっきの魔法のステッキを用いた魔法によって、そこにいた動物やモンスター、または冒険者などもすべて木っ端微塵に吹き飛ばしたらしい。
その際の経験値を経てレベルが上がり、敵を倒したことでお金やほかアイテムを獲得したといったところだろう。
それにしても一回吹き飛ばしたぐらいでレベル三〇〇はやりすぎだろう……。
そして俺はなんとなくに歩いていると――蟻を潰したようだった。
<レベルが5上がった!>
「あ、これインフレってやつだ」
蟻を潰した程度でレベルが5つも上がるのだから、レベルの数字は今後インフレしていくと考えた方がいいのかもしれない。
もしかしたら上限は四桁で済まない可能性も十分ある、なにこのクソゲー。
「というかこれお金どれぐらいあるんだろ?」
「どうだろうな……」
ふと気づいたこととして、俺の視界にいるミユがよく見ると点滅しているように見えた。
これはなんとなく気になったので、以前のオプションに触る要領でミユに重ねるようにして手で宙に触れてみると――ミユの各種ステータスが表示された。
「2000万Gだって」
「なんでわかるの!? というか凄い金額だよね!?」
しかしこの袋の見た目的に1Gを金貨一枚だとすれば到底入らない量だ……よくある亜空間が広がってる布袋なのだろうか、そしてミユから受け取ったアイテムの各種入った布袋も同じ仕組みでと考えて良さそうだ。
ちなみにステータスにはレベルやHPにMPのほか好感度に所持金やスリーサイズまで書かれていた。
「78・50・72……か」
「な、何の数字!?」
顔を紅潮させているあたり、スリーサイズらしい。
どうやら俺の能力はそんな相手のパラメーターを見ることが出来ることらしい。
……しかし俺への好感度がマックスなのはお兄ちゃん嬉しくてお外走って来ていいかな?
「なら俺の能力みたいなもんだな」
「スリーサイズを見通す力が!? ……はっ!」
くく、語るに落ちたなミユよ。
このパラメーターはいつでも見れるのだ、今後の成長具合に関しても隠し通せると思わないでいただきたい……というのは半分冗談として。
「ともかくこの大量殺戮現場にいてもしょうがないし、どっか町に行こうぜ」
「ちょっと! 別にやりたくてやったんじゃないんだから、もうちょっと言い方オブラートに包んでよ!? じゃあ……”テレポーテーション”」
そうして妹の魔法で町までひとっ跳び、ほんとうにミユの魔法すげえ。
始まりの町「ゼクシズ」にやってきた。
石造りの建物をメインに、レンガ造りや木造などのも紛れている、高層建築とはほぼ無縁そうな土地だった。
唯一秀でていると言えば町の中心にそびえ立つ教会ぐらいだろう。
まずは生活拠点を決めようと思い、宿を借りることを考えるのだが――
「あのー」
「くぁwせdrftgyふじこlp 」
宿の場所を厳つい男に尋ねるとそんな言葉が返ってくる、どうやら異世界だけに日本語は通じないようだった。
しかしそこは便利な俺オプション、言語設定もちゃんとありご丁寧にも”サンライズ語”という選択肢が光っているので選択してみれば――
「どうした?」
おお、ちゃんと日本語になって聞こえる……便利なものだ。
ちなみにミユは魔法の力とかで翻訳とか出来て聞こえているらしい、俺の妹マジ最高マジ有能。
「宿の場所を知りたくて」
「そこを突き当たって右に手頃ないい宿があるぜ」
ありがとうございますと、お礼を言い案内通りに向かうと見かけこそレトロというかノスタルジックというか、ようは古びた宿が目に入る。
どうやら女性店主が営む、この町でも人気の高い宿屋らしい”おっふすていくおふ”だ……変な名前とか思っちゃいけない、この世界ではそういうものなんだろう。
しかし俺は店内に入って気づいてしまう――
宿を借りる金が、無いと!
ミユの魔法が便利だからとテレポートしてしまったが、本来は雑魚敵などを倒して得るはずのお金をスルーしたまま町にきてしまっていた。
もしかするとゲームならばチュートリアルあたりを飛ばして最初の町に来てしまったのかもしれない。
だからミユが金持ちの一方で俺はスッカラカンでの初期スタートとなってしまったのだった。
「ミユ」
「なに?」
「お金貸して」
そう、俺はこの世界では無一文なのだった。
正確にはさっき蟻を倒したことで3Gは手に入ったのだが……というか蟻が金持ってる世界ってなんなんだよ。
「ゆ、ユウ兄もそこらへんのモンスター倒してお金稼いでくればいいじゃん!」
「多分死ぬよ」
だって俺パラメーター見える以外、普通の人間ですしおすし。
「お願いだミユ……俺が頼れるのはこの世界でミユだけなんだ……」
「っ! へ、へぇ~。私だけなんだ、ふーん、そうなんだ……ほんとしょうがないなぁユウ兄は……じゃあ、はいっ!」
<ミユから1000万Gが譲渡された!>
いや、貸すにしても渡しすぎだろミユ。
借りた身とはいえ、その金銭感覚になんだかお兄ちゃん心配だよ
「……出世払いでいいから」
優しい! この妹超優しいし超可愛い! もう妹さえいればいいんじゃないかな!
「愛してる、ミユ」
「ユ、ユウ兄こんな人目のある場所で……」
と、いつもの調子で楽しくイチャイチャしていると――
「あのーお客さん。結局一部屋か二部屋を借りるか、どうするんだい?」
と呆れ顔で聞いてきたのは宿屋の気腹の良さそうな俺の母親ぐらいの歳の女性だった、若い頃はモテにモテた違いない。
というか俺の攻略対象ヒロインに同世代の教師ヒロインもいたし、十分ストライクゾーンではある。
「一部屋で、出来れば一週間ほど借りたいのですが」
「そうかい? なら――この値段だね」
相場が分からない……が! ここはお約束的に値切るものだと思うだけに――俺は試してみることとした。
「あの、ですね……。実を言うとこの宿に入ったのは、自分の母親に似ている女性が店主をやっていると聞いたからで……」
「そう、なのかい?」
「はい。ほんとうに、あなたは私の母の生き写しのようで……今も健在なら、と考えてしまうのです」
「そんなことが……!」
「しかし私の手持ちでは難しそうです、ああ、残された妹と二人過ごすには私は甲斐性が無さすぎる! なので申し訳ないですが……!」
「待っておくれ! そこまで言われちゃ、私だって黙っていられないよ! ――これで、どうだい!」
「ああ! ありがとうございますありがとうございます! これならお支払い出来ます!! こんなに優しい方がまた私の母になってくれればいいですのに――」
「きゅん」
パロメーター見る限り好感度がほぼマックスになっていた。
ちなみに名前は「ミサ」でスリーサイズは100・70・96のダイナマイトさである、それでいて顔は丸みがあるとはいえ小柄な方だからマニアックな方々に人気が出そう。
「な、何か困ったことがったらお言いよ! ……私を母だと思ってくれていいからね!」
「ありがとうございます――母さん。あ、つい」
「きゅん」
そしてついに好感度がマックスになった。
それからなんだか頬を赤らめ瞳を潤ませた店主に見送られて、借りた部屋にやってくる。
全体的に古い作りながら手入れが行き届いており、広くもないしにしろ清潔なベッドに小さなテーブルと二脚のチェアと、クローゼットにタンスと収納にも困らないいい作りをしていた。
ちなみに隣にいるミユはさっきからものすごい睨んでいるが――
「へえええええ、ユウ兄ってあんなこと普通に言えるんだあああああ?」
「……でも、お前が一番だ」
「バカ兄!」
軽くビンタされつつも、それから俺はミユに事を話すことで誤解を解いたのだ。
そもそも俺が転生してこの異世界に来た理由と、そもそもの俺という存在がどういうものだったかを。
「……ということは、これからユウ兄は女の子をどんどん手玉に取っていくんだ?」
「言い方! ……そう女神さまに言われたからにはしょうがないだろう」
というかやっぱりこの世界で女神さまがギャルゲー主人公の俺を選んだのはミスチョイスにしか思えない。
色々勇者を送り込んだというだけに、俺を選んでしまったあたりあの女神さまとやらもヤキが回っていたのだろうか。
「というか私たちのお母さん別に死んでないじゃん」
「まあな」
現実において母さんはピンピンとしていた、それっぽい嘘を言ったまでである。
もっともこの世界に母さんがいるわけでもないので、存在証明をすることは出来ないだけに完全に嘘というわけではない……と思う、異世界に来てしまった以上は今生の分かれと思っていいだけに。
かといっても、じゃあ現実に戻りたいかといえば自分の正体がギャルゲーの主人公なことを知っていまうと作られた世界に作られた存在が戻ったところで……とも思ってしまうのだ。
あとは手持ちが無い云々もミユにお金を借りていなければそれでも払えない金額だった、だから完全に嘘ではない……はず!
「それに軍資金も、明らかに余裕で足りてるし……値切る必要なかったし……」
実際1000万G借りたのだが、使ったのは30Gである。
この世界の物価が分からないにしろ、蟻十匹分ぐらいで一週間の寝床ゲットと思えば格安なのだろう。
「これからどんな具合にお金を使うか分からないからな……節約できるならすべきだ」
「変なところで真面目なんだから」
実際右も左も分からない以上、この大金には違いなくともいつ必要とされるか分からないからこそ溜めておくべきだろう。
「とりあえず飯でも食いに行くか」
「確かに、魔法使ったからお腹減っちゃった気がするし」
魔力=満腹ゲージとか、そういう仕組みなのか。
ともかく俺とミユは町をぶらつき飲食店を探していた、すると――