第十四話 戦ってみた。
そのあとスラスラに襲われているところを買い物帰りのミユに目撃され、軽く修羅場ったことはまぁおいておくとして……。
その翌日のことだった。
「冒険者カード見せて」
「ははー!」
「……レベル55」
「いかがでしょうか」
「うむ!」
「ありがたき!」
ミユに冒険者カードに記された俺のレベルを示す55の数字を見せると、ミユは深く頷いた。
というのも俺がこの町を出て外で戦うにあたって、スラスラと対峙した時の俺のレベルは50だったのだが「それじゃあやっぱ足りない!」とレベル上げを命じられたのだ。
それも町の外に出るのを禁止したことで、俺はバイトしたり岩壊したり掃除したりなどをしてレベル上げの経験値を溜めるという……なかなか途方もない要求だった。
しかし俺はコツコツと経験値を稼いだ結果、晴れてミユが示したレベル55まで俺はスラスラ戦から一か月ほどの時間を要してレベルを上げることに成功したのだった!
ちなみにこのレベル55という数字はスラスラと同じもの。
スライムというモンスターの種族のレベルの平均値こそ分からないが、流石初心者狩りと呼ばれる理由の分かってしまう、はじまりの町としてはおかしなレベル設定の相手だった。
一応今の俺ならば数字上ではスラスラをぎりぎり倒せるかもしれないのだが…………女の子を倒すことが、俺には出来ない!
「じゃあ今度こそ、いいんだよな?」
「……本当は心配だけど約束だもんね。町の外に出てみよっか」
「よっしゃー!」
過保護気味なミユの許しもあって、俺は久しぶりに町の外に出れることになった。
装備だって十分自分に見合ったもので整えた、なにせ俺はずっとバイト三昧だったのだからそこそこお金だって貯まるもので……もっとも転生初っ端大規模魔法とバーニングドラゴンを倒したことで得たミユの資金力には到底及ばないのだが。
「スラスラも連れていくのが条件だよ」
こう見えて高レベルモンスターにして強い子な為に、ミユとしては自分意外の戦力を俺を護るために連れていきたいようだ……くぅ、なんだか俺ってほんと情けねえぜ!
『ブロロロロロロロロ』
そんなスラスラ曰くは――
「スラスラは役に立つよ! ってさ」
「期待してるよスラスラ……そういえばユウ兄スラスラの言葉分かってるような口ぶりだよね……?」
「ははは、ニュアンスってやつだ」
「ふーん」
そうそう、俺が持ち得ている”ギャルゲースキル”などの能力の全貌をミユには話していない。
そりゃ俺がミユのスリーサイズを盗み見たとか、いつかのその……致しているところのイベントCGやバッグログを見てしまったことなんて言えるわけがない。
ちなみに女神さまは近くに蘇生魔術を使えるものが居れば俺は蘇生出来るというが、念のためにスキルにおける定期的な<セーブ>を欠かしていない。
なんとなく、なのだ。
いや、もしかして万が一にもミユに俺が徹底的に嫌われたりして、最悪の流れで絶縁宣言なんてことになったらお兄ちゃん、この異世界にあるというマグマにダイブしていよいよ肉体の死を迎えかねない。
だからこそ保険があるならばかけておくべき、というか用意しておくべきというか。
ということから俺は一日一回寝る前のセーブを日課としている、RPGなどのゲームをプレイしているからこそ知っているがセーブ枠のすべてを使わず一部を上書きして使っている。
今は最初期のセーブに、スラスラと会う前のセーブ、と昨日のセーブの三つ……残り枠は十七個ほどあるのだが、三つ目のセーブを毎日上書きしているあたり俺という人間はなかなか貧乏性なのかもしれない。
もっとも一度も<ロード>していないので、もしかしするとこの<セーブ>は死に機能かもしれないが……それならそれで仕方ないと割り切っている。
そんな取り返しのつかない事態にならないにこしたことはないのだ、俺の本心としても無闇やたらに使うつもりはなく、あくまでもの保険なのだった。
「じゃあ行くか!」
「おおー」
そうして俺とミユは宿を出ようとするのだが――
「また死んだら呼んでくれな」
と最初に出会った頃と比べて、明らかに健康的に痩せたミサさんがそんなことを言ってくる。
程よいむっちり加減こそ残っているが未亡人とは思えない若々しさも取り戻していて、もう俺のストライクゾーン入っちゃいましたよ。
「俺は呼べないんでミユに……」
「こら! 死ぬつもりでいないの!」
「ああ、すまん」
「そうかい? 気を付けるんだよ……」
と唇に指を当てながら残念そうにするリアクションはなんなんでしょうね……いや”ギャルゲースキル”とか用いてなんとなく分かってますとも。
そしてミユも心なしか警戒気味な表情をしている、そういえばゲーム世界でもミユは割と嫉妬っぽい性格だったっけ。
お兄ちゃんに浮いた話があると不機嫌になったり、嫉妬しちゃうそんなミユ可愛いよミユ。
こうして町の外に俺とミユとスラスラでやってきた。
ちなみにスラスラは俺の肩でぷるぷると揺れている、可愛い。
「異世界ニワトリだよ! ユウ兄!」
「もうちょっとネーミングセンスないのか、ね!」
正直この異世界でのネーミングセンスはどうかと思うのだが、ちゃんと固有の呼び方が存在するようなのだがどうやら日本人転生者に翻訳がかかると”異世界”と付くことが多いようだ。
そいつはコトだ、ちゃんと正さなにゃいけないかもだ。
ちなみに相手のモンスターはオスなので装備として買った短剣で躊躇なく切り裂いた、残念ながら俺は男女平等ではないのだ。
相手はレベル30とレベル差で言えば余裕、そして数撃ほど繰り返すとモンスターを倒すことが出来た――
「やった!」
「おめでとうユウ兄!」
『プルプルプル』
そうして俺は初モンスター撃破と相成ったのだ、スラスラもよろこんでるー!
しかしその……うわあ、なんだこれ……想像以上に嬉しいな、これ。
もうこのままあの町に籠って生涯を終えるとばかりに思っていただけに、この勝利は俺にとっては大いなる一歩に思えて仕方なかった。
そして町から出て少しの場所でもモンスターはうようよいるもので――
「スライム来たよ!」
「オスだな、よし――」
レベルは50ほど、これはいける! と俺は短剣を構えたその時だった――
『ブロロロロロロロロ』
肩に乗っていたスラスラが跳ねスライムに襲い掛かる、それも次第にスラスラは人間大に大きくなって――
「ちょ! 私の模倣やめてスラスラ!」
そうしてミユスケルトンボディである、もちろんの全裸仕様。
「おお……」
「ユウ兄もまじまじ見ない! うう……なんで裸の私模倣するの……」
ミユとしては自分の裸が見られているような感覚になるのだろうか?
羞恥に染まるリアルミユも、見てて普通にエロいスケルトンミユも良し!
二度美味しいこの感じは、なんだか得した気分だ。
「おお、スケミユ……じゃなかった、スラスラがオスのスライムを食べたぞ」
「そろそろ服着てくれないかなあ! スラスラ私を見て! せめて今の私を模倣してー!」
『うま』
そうしてそのオススライムを噛み砕いた(?)のち、ごくりと飲み込んだ。
するとスケルトンミユのお腹がボテっと一瞬膨れる……なんだか変な性癖に目覚めてしまいそうだ。
少しして消化されてのかお腹はミユスタイルを取り戻し、スケルトンミユはこっちを向いて『ぶいっ』とブイサインを作って勝利をアピールしていた、無邪気さが可愛い。
同族のスライムもゼリー状だから好物だったりするのだろうか、そんなスケルトンミユが口元を拭う動作がなんだか色っぽい。
<スラスラのレベルが56に上がった!>
おお、やっぱりモンスターもレベルは上がるんだな。
などと感心しながら、そういえばモンスターを倒すと手に入るお金の類はどうなるのだろうか? と思っていると――
『きゅる』
「これ、金か?」
『ぷるぷる』
いつの間にかスケルトンミユ状態のスラスラが手のひらにお金を載せている、そしてそれを俺にくれるというらしい。
「いいのか?」
『い』
いい、らしい……いつかスラスラに聞いた話なのだが、人間大のスケルトンミユ状態でいるのがスラスラは疲れるしお腹も減るらしい。
そしていざいつものサイコロサイズに戻ってしまえば、今のお金はむしろ自分の身体を上回る質量になってしまうのだ――だからこそ俺にくれるのだという。
勘違いしないでほしいのだが、俺が決してスライム相手にヒモをやっているわけではないことを、あくまでスラスラのを保管するだけであって――
「ありがとな」
『ぷるる』
お金を受け取り、スケルトンミユ状態のままスラスラの頭を撫でると嬉しそうに表情を綻ばせた。
正直見た目が完全にミユなこともあって、超素直な全裸な透けてるミユにも思えてくるのだ……ツンツン気味もいいが、これはこれでたまらんな。
「ユ・ウ・に・い?」
俺がスラスラを撫でていると不機嫌ゲージの上がっていたミユに声を荒げられた、おっとと。
「とにかくスラスラありがとな、戻っていいぞ」
『う』
うん、とのこと。
短い言葉は喋れるようになってきている、もっともミユはそのことにまだ気づいていないようだが。
そうしてサイコロ状に戻ったスラスラは俺の首元に身体を寄せている、なんだか嬉しそうな上に俺も首元ひんやりできもちいい。
「……もうちょっと狩っていくよ!」
「あ、ああ!」
そうしてミユはさっきまで俺を見守っているだけだったのだが、それから突然にいくつかの森を焼き払ってレベルとお金をまた溜めるはじめたのだった。
そのミユの様がまったく嬉しそうには見えず、何かのうっぷん晴らしているかのように見えたのは俺の思い過ごしだろう……きっと。




