文化祭にて
瑠璃の学校は9月が文化祭だ。クラスでは特に何もやらないが、文芸部に入っている瑠璃には、小冊子に載せる小説の執筆作業がある。そして、それは星奈も同じだ。
「書いた?」
「大体は・・・」
ちなみに瑠璃はファンタジー、星奈はミステリーを書いている。拙い文章だと思うが、冊子になると誇らしく感じるのは、毎年のことだ。星奈が尋ねる。
「締切はいつだっけ?」
「来週」
「うわぁ・・・終わるかな」
「星奈、トリック凝りすぎだから」
「思いついちゃうんだもん」
「はいはい。今年も楽しみにしてます」
そんなことを言い合っていたのが遥か昔に感じる。今日は文化祭当日だ。冊子になった小説たちは、文芸部のスペースに来てくれた人に無料で配布される。
「瑠璃のウチは誰か来るの?」
「いつもの通り来ないよ。星奈の婚約者様は?」
「彼、今日は部活の試合なんだ」
「そっか。残念だね」
そんな話をしていたら、突然、声がかかった。
「瑠璃さん!見つけた」
「あ、彰君!?」
文芸部のスペースに入ってきたのは彰君だった。
「会えて良かった。来るの秘密にしてたから・・・」
「彰君、一人で来たの?」
「いえ。母と真も一緒です。でも、真がお菓子に釣られて模擬店に・・・」
「そっか。いらっしゃいませ。彰君」
「瑠璃さん、制服姿は初めて見ました」
「瑠璃、瑠璃、紹介してよ」
彰君の登場ですっかり星奈の事を忘れてた。
「彰君、こちらは雀宮星奈。私の友達」
「お話は伺ってます。初めまして」
「星奈、こちらが小鳥遊彰君」
「私も噂はかねがね~。初めまして」
お互いの自己紹介をしている間に、冊子を手に取る。
「彰君、良かったら貰っていって」
「ありがとうございます。瑠璃さんの書いた小説、楽しみだな」
「そ、そんな大したものじゃないから・・・」
「母をここで待っていても良いですか?」
「もちろん」
彰君は椅子に座って冊子を読み始めた。
一連のやり取りを見ていた先輩たちが集まってきた。
「あの子、弟?」
「馬鹿、雲雀丘は一人っ子だし」
「ねえ。誰?誰?」
「あの、えっと」
星奈は助けてくれそうにない。仕方ない。
「わ、私の婚約者です」
「「「・・・」」」
改めて自分で言うと恥ずかしい・・・。
「「「えー!!!」」」
「婚約者って、あの婚約者」
「将来の結婚相手ってこと?」
「流石、雲雀丘家。婚約者居るんだ」
「ってか、婚約者可愛いんだけど」
「ずるいぞ。雲雀丘家」
恥ずかしい。恥ずかしい。顔が真っ赤になっていくのが分かる。
「瑠璃さん、どうかしました?」
彰君が寄ってくる。
「あ、彰君を先輩方に紹介してたの」
「そうですか。小鳥遊彰です。瑠璃さんの婚約者です」
「「「キャーー」」」
「可愛い」
「お菓子食べる?」
「いくつ??」
「せ、先輩方、彰君が困ってますから」
どうにか彰君と先輩方を引き離した。
「ゴメンゴメン。つい」
「雲雀丘、焼きもちか?」
「ち、違います!!」
「瑠璃ちゃん、こんにちは」
「瑠璃姉しゃん!!」
「あ、お義母さん、真君も」
「母さん遅いよ」
「ごめんなさいね」
「あの、これ、彰君にも渡したんですが、文芸部の冊子です」
「あら、ありがとう」
「母しゃん。真、お化け屋敷いく」
「ええ」
「僕も一緒に入るよ」
「なら良いか。瑠璃ちゃん、また後でね」
「はい」
スペースを出る前に、彰君がこっちに近寄ってきた。
「どうしたの」
「あの」
内緒話をするように耳に口を近づける。
「皆さんに、僕が婚約者って紹介してくれて嬉しかったです」
ニコッと笑って彰君が真君に駆け寄る。そして、そのままスペースを出て行った。
本当だ。私、皆に普通に紹介しちゃった。彰君のこと。
「瑠璃、また顔が真っ赤だよ」
「うぅ」
星奈に指摘されても顔の赤みはひきそうに無い。婚約者、婚約者って
(恥ずかしい・・・)
文化祭の片づけ。星奈に聞いてみる。
「婚約者って紹介して恥ずかしくないかって?」
「うん」
「瑠璃は恥ずかしかったの?」
「うん」
「彰君が年下だから?」
「ち、違うよ。年下とか全然関係ないし!!」
「ほぉー」
「な、何」
「いやいや、良い感じじゃないか」
「何が!?」
「分からないなら教えられないな~」
「何!?」
星奈には、はぐらかされてしまった。私は何を分かってないんだろう。