夏休み
「夏休み中に小鳥遊家にお泊りすることになった」
いつもの放課後。文芸部の部室で星奈に報告。
「どっか旅行でも行くの?」
「そのつもりだったらしいけど、私が気を使いそうって。だから、今年は小鳥遊家に1泊」
「へえ。確かに瑠璃は旅行中、気疲れしそうだもんね」
「っていうか緊張しそう」
小鳥遊家にはプライベートビーチのある別荘があるらしい。そこに行こうかという話も出たが、婚約してまだ3ヶ月ちょっとの瑠璃に配慮して自宅でのお泊り会となったのだ。
「自宅でも泊まるとなると、ちょっと緊張するし」
「そうだよね。でも、ちょくちょく遊びには行ってるんでしょ」
「誘ってくれるから・・・」
誕生会以後も、小鳥遊夫人が買い物に誘ってくれたり、彰君と映画を見に行ったりもした。直実に、小鳥遊家との距離は縮まっている。
「優しいじゃん」
「うん。お義母さんが本当に優しくて、楽しそうにしてくれて私も嬉しい」
「・・・おいおい。婚約者より姑との仲が深まってる!?」
「・・・そうかも!!」
星奈とは夏休みに遊ぶ約束をして別れた。
そして、夏休みに入り、小鳥遊家宿泊の当日となった。
「瑠璃さん。いらっしゃいませ」
「こんにちは。彰君、お世話になります」
「瑠璃姉しゃん!!」
「真君。こんにちは」
「今日ね。花火するんだよ。パーンって」
「真。打ち上げ花火はしないよ?」
「パーンじゃないの?」
「そう。シューって。手持ち花火やるんだよ」
「シュー??」
入っていきなり兄弟が可愛い。小鳥遊家に来るたびに、この兄弟に癒されている気がした。
彰君にゲストルームに案内してもらい、荷物を置く。一泊なので荷物はそんなに多くない。
「なんか僕。ワクワクしてます」
「私も。緊張からかもしれないけどソワソワしてるよ」
泊まるって何をすれば良いんだろう。そんな心配は小鳥遊家が払拭してくれた。
早速始まったのはゲーム大会。ゲーム類を持っていない私にとって初めての体験だ。小鳥遊家のテレビ画面が大きいので迫力がある。コントローラーを手にっとって、あっちへこっちへ。
「瑠璃さん、初めてにしては上手ですよ」
「本当?嬉しいな」
「真もやるー!!」
3人で騒いでいるとあっと言う間に夕飯の時間になっていた。
「ごめんなさい。お手伝いもしないで・・・」
「いいのよ。盛り上がってたみたいだし」
「はい。初めてで楽しかったです」
「瑠璃さん、レーシングゲームの才能あるよ」
「父さんも参加しようかな」
そんな話をしながら夕飯をいただく。家族団欒ってこういうことだよね。・・・まったく、婚約者の家で味わうことになるとはな。
「花火しよ―――!!」
夕飯が終わったら真君が声を上げた。楽しみにしていたのが丸わかりだ。
「ちょっと待って。瑠璃ちゃん、こっちに来て」
小鳥遊夫人に呼ばれて着いて行くと・・・。
「じゃーん。せっかく花火なんだから浴衣を着ましょ」
朝顔柄の浴衣を着つけてくれた。可愛くて嬉しい・・・彰君は何ていうだろう。
(ハッ!!小学生相手に何を期待しているんだか。でも、いつも褒めてくれるし・・・)
「母さん、まだ?」
「終わったわ。彰、瑠璃ちゃんを庭へお連れして」
「はい」
彰君が扉を開ける。私と目が合う。
「わ。瑠璃さん。可愛い。浴衣を着ると雰囲気が変わりますね」
「あ、ありがとう」
ナチュラルに褒めてくれる小学生・・・侮りがたし。
庭に出ると真君が待っていましたとばかりに花火を手に取る。
「花火ー!!」
「では、始めようか」
小鳥遊氏がロウソクに火をつけ、みんながロウソクから火を貰う。
シューーーーー
一斉に花火が始まった。
「花火。キレー!!」
「真。振り回しちゃ危ないよ」
「ふふふ。彰君、お兄ちゃんだね」
真君がいると彰君のお兄ちゃんの面が見れる。婚約者だからとか、そんなことは考えてないけど、しっかりした彰君が頼もしくて可愛い。
「真は落ち着かなくて」
「まだ、元気一杯が当たり前の歳じゃない」
「・・・そうですかね。瑠璃さん、線香花火やりましょう。どっちが長く続くか勝負です」
「受けて立つわ」
二人で線香花火に火を灯し、パチパチと鳴る花火を見守る。
「・・・綺麗ですね」
「うん」
「あの・・・」
「?」
線香花火を見つめる彰君。
「浴衣・・・」
「浴衣?」
「さっきも言いましたけど、いつもと雰囲気が違って・・・ドキドキします」
「えっ」
二人の線香花火がほぼ同時に落ちた。
「あ」
「終わっちゃったね」
「勝負はお預けですね。真。だから振り回しちゃダメ!!」
そう言って、真君の側に行く彰君。
残された私は・・・
(今更ながら恥ずかしくなってきた!!)
一人、彰君の「ドキドキします」発言に身悶えるのだった。
後日、星奈と遊んでいるときに、思わず話してしまった。
「婚約者にドキドキするって言われたと」
「うん」
「それを聞いて瑠璃は?」
「え?」
「瑠璃はどう思ったの?」
「そりゃ、嬉しいっていうか、恥ずかしいっていうか・・・」
「ほうほう」
「何よ」
「いや。仲良くなってきて良いんじゃない?」
「だよね!仲良くなってきたよね」
そう。仲良くなってきた。それだけなのだ。だから、私もドキドキしたなんて・・・。
(気のせい気のせい。相手は小学生なんだから)