ゴールデンウィークにお宅訪問
婚約が決まってから1ヶ月も経っていないが、彰君との交流は今のところ無い。まあ、相手は小学生だし、こちらは高校生。土日が休みと言ってもお互いに習い事や宿題がある。そんな頻繁に会うものではないだろう。・・・次に会うのはいつになるかどうか。
(って、会うのを期待しているみたいじゃない)
自分自身にツッコミを入れる瑠璃。星奈に毒されてるな。星奈は毎週、婚約者さんと会うラブラブぶりだ。会えない時は必ず電話かメールが来るらしい。
(星奈を基準にしちゃダメダメ。それに、相手は小学生なんだし)
しかし、噂をすれば影というか、瑠璃に小鳥遊家から招待が来たのは、その直後だった。
玄関で瑠璃を出迎えてくれたのは小鳥遊夫人だった。
「ごめんなさいね。主人はいきなり仕事が入ってしまって」
「いいえ。お気になさらず。あの、これつまらないものですが・・・」
「あら、気を使ってもらっちゃって。婚約者なんだから自分の家みたいに思って。今度からお土産なんていいからね」
小鳥遊夫人は優しそうな人だった、将来は義母になる人なら、上手くやっていける人が良い。
「彰、真を連れてきて」
・・・真?新しい名前だ。
「はい」
そういって階段から下りてきたのは彰君と彰君に手を引かれた小さい男の子だった。
「瑠璃さん。いらっしゃいませ」
「こんにちは。彰君」
「ほら、真。御挨拶は?」
「こんちは?真です。4しゃいです」
「こんにちは真君。瑠璃です」
・・・ヤバい。かなり可愛い。
「彰君。弟さんが居たんだね」
「はい。二人兄弟なんです」
彰君と二人で話していると、何かを悩んでいた真君が話しかけてきた。
「瑠璃しゃんは、お客しゃまですか?」
「真、瑠璃さんは僕の婚約者なんだよ」
「こんやくしゃ?こんやくしゃってなぁに」
「将来、真のお姉さんになるってことだよ」
「お姉しゃん?瑠璃お姉しゃん?」
「そうだよ」
・・・本日2回目のヤバいが来ました。『お姉しゃん』『しゃん』って。これが、もしかして萌?
お茶の席に座ったのは、私と彰君、小鳥遊夫人、真君だった。
「真は小さいから失礼があると思うけど・・・」
「あ、はい。大丈夫です」
「ありがとうね」
お茶請けには私が持ってきたクッキーも出てきた。小鳥遊夫人、本当に優しい人かも。
「将来の義娘とお茶できるなんて嬉しいわ。ねぇ、瑠璃ちゃんって呼んでも良いかしら」
「はい」
「女の子も欲しかったのよ。本当に嬉しいわ。ウチは腕白なのが二人だから」
「彰君と真君、腕白なんですか」
「そうよ~男の子ですもの」
「母さん、そんなこと言わないで・・・」
「まあ、ませちゃって・・・」
「ママ、クッキー食べちゃ、め?」
「あら、そうね戴きましょう」
お茶会は小鳥遊夫人の主導で終わり、彰君が庭を案内してくれることになった。
「今、薔薇が一番綺麗な時期なんです」
「玄関からも少し見えたけど、すごいね」
庭の薔薇園を案内してくれる彰君。小学生なのにエスコートが上手い。
「あの、母が話してばかりですみませんでした」
「そんな。楽しいお母さまで羨ましい」
「本当に母は瑠璃さんがお嫁に来てくれることを喜んでいるんです。ほら、男が二人でしょう。着物とか女の子に着せるのが母の夢で・・・」
「素敵ね」
「本当ですか?もしかしたら・・・」
「なに?」
「もしかしたら、母の着せ替え人形をお願いするかもしれません」
彰君の予言は当たった。庭から戻ると、小鳥遊夫人が着物を用意して待っていて、当分の間、着せ替え人形と相成ったのだった。
ただ、その間も彰君と真君は一緒に付き合ってくれて、「綺麗」とか「かわいい」と褒めまくってくれた。・・・恥ずかしかった。
「気をつけて帰ってね」
「瑠璃姉しゃん。バイバイ」
「さようなら。また」
迎えの車に乗り込む私を皆で送ってくれた。この家族となら上手くやって行けるのではないかと改めて思った。
ゴールデンウィーク最終日。瑠璃は星奈とお茶をしていた。内容は星奈の惚気話と瑠璃の小鳥遊家訪問である。
「へえ、弟さんが居たんだ」
「うん。夫人も優しい感じの人だった」
「良かったじゃない。嫁姑問題は大変だぞ」
「星奈だって向こうのお母さんと上手くやってるでしょ」
「あはは。猫被ってなんとか」
「彰君も真君も良い子だし。なんか、やっと向こうのお家のことが分かった気がする」
「婚約してやっと1ヶ月でしょ。これからもっと知って行くんだよ」
「そうだね」
「ってか、宿題終わった?」
「一応、終わったハズ・・・」
「マジで!?私、数学が残ってて、帰ったらやらないと・・・」
婚約者がいる女子高生は珍しいだろう。でも、傍に同じ境遇の友人が居ると心強い気がした。