春の出会い
中高一貫の女子校ともなれば、高校1年生になったからと言って何の感慨もない。周りの友達も教師陣も変わらないのだ。ただ、進学によって親友と離れ離れにならないのは良い事だ。
春から高校1年生になった雲雀丘瑠璃は、親友の雀宮星奈と文芸部の部室で二人きりで話していた。
「で、婚約者が決まったと」
「うん」
「どんな人?」
「まだ、会ったこともない」
「いくつ?」
「分かんない」
「決まっただけかよ」
「そうなの。超年上だったらどうしよう」
「それは無いでしょ」
「でも、星奈の婚約者さんは2歳上でしょ」
「そんなに年の差ありません。にしても、雲雀丘家の令嬢にしては、婚約者が決まるの遅かったね」
「私もそう思う」
瑠璃の婚約者が決まったと聞かされたのは昨日の日曜日のことだった。詳細は不明。ただ決まったと父から言われれば「そうですか」と瑠璃は答えるしかない。
月曜日に早速、親友の星奈に報告しているのだった。
「で、来週の日曜日に顔合わせと」
「うん」
「まだ6日あるよ」
「どんな風に6日間過ごせばよいの?星奈の婚約が決まった時ってどうだった?」
「決まったの中学生1年生の時だよ。覚えてない」
「そっかぁ」
「まあ、なるようにしかならないんだから。ドンと過ごしなよ」
「・・・そうだね」
星奈のアドバイス通り、瑠璃は日曜日までをいつも通り過ごした。流石に前日の土曜日は緊張して何も手につかなかったが・・・。
とうとう約束の日曜日になった。瑠璃は振袖を着せられた。帯で腰が痛い気がする。
「準備は良いな」
父親にそう言われて連れていかれたのは都内の高級ホテルだった。
「相手の方に失礼のない様にな」
「はい」
分かっている。例えどんな相手が出て来ようとも、結婚しなければならないのだから印象は良い方が良い。
「雲雀丘さん」
「小鳥遊さん。お待たせしました」
父に声をかけてきたのが婚約者だろうか?いや、父くらいの年齢に見える。
「すみません。息子はその辺に」
「いや、元気が良いことで」
「お恥ずかしい。あ、おい彰」
男性に呼ばれて近寄ってきたのは・・・男の子?
「息子の彰です」
「娘の瑠璃です。では、細かい話は部屋の方で・・・」
これで今日の集まりは全員かな?なら私は、この男性の後妻ということだろうか。ああ、星奈。超年上が正解だったよ。
部屋に移動して皆が席に着くと飲み物が運ばれてきた。皆が手に取る。
「では、小鳥遊さんの息子さんとウチの娘の婚約に乾杯」
「「「乾杯」」」
乾杯って、ちょっと待て。
「息子さんとの婚約・・・」
「ああ。彰君とお前との婚約だ」
呆然と呟く私に対し、父が少し苛立ったように答える。
彰君との婚約・・・この男の子との婚約!?
「し、失礼ですが、息子さんはおいくつ・・・?」
「この春で小学校6年生になります」
答えたのは彰君だった。
「あ、もっと小さく見えたんだろう。彰は平均身長以下だから」
「こ、これから僕は伸びるんです」
会話を続ける小鳥遊親子。見守るウチの父。
「しょ、小学校6年生って何歳でしたっけ?」
「今年12歳です」
12歳!!私が今年16歳だから4歳差か。でも小学生だよ。思わず父を見るが、父はこちらを見ようともしない。
「よろしくお願いします」
彰君だけが正面から私を見ていた。
後は若い二人で・・・なんて本当に言われる日が来るとは思ってなかった。気まずいよ。小学生と何を話したら良いのだろうか。
「瑠璃さんとお呼びしても良いですか」
「はい」
「僕の事もお好きに呼んでください」
「では、彰君と」
「今日は随分と驚いてらっしゃいましたが、もしかして、僕の事は聞いておられなかったのですか」
「ごめんなさい。全く、父は話さない人だから・・・」
「いいえ。話しにくいですよね。婚約者が小学6年生だなんて」
「いえ、話さない父が悪いんです」
・・・小学6年生に気を使われてる気がする。さっきから話をリードしてくれてるし。
「あの!!」
突然、彰君が声を張り上げた。
「僕、絶対に瑠璃さんより身長高くなりますから!!」
「は、はい?」
「父も中学生の時に伸びたって言ってました。だから大丈夫です」
「はあ」
・・・もしかして、私より身長が低い事を気にしてるのかな?
「絶対、絶対高くなりますから」
それって・・・ちょっと・・・いや、かなり・・・
可愛いかも。
「はい。楽しみにしてますね」
そう返した時の彰君の顔が・・・。
「可愛かったと」
「うん。ちょっとキュンと来ちゃった。印象は良かったよ。婚約者としてやって行けそう」
また月曜日。文芸部の部室で星奈への報告会。
「年下かー。ちょっと意外」
「私も意外だった」
「まあ、4歳差なんて大きくなったら気にならなくなるよね」
「そうだよね!!」
「で・も!」
星奈が言葉を大きく区切った。
「今の状況だけ見ると・・・ショタコンだよね」
「ショ・・・!!」
・・・衝撃の事実を言われた気がした。




