4 口説かれても困る
カクテルを頼んでそれを飲みながら、課長の話を聞くとはなしに聞いていた。
あの日、朝目覚めたら私がいないことが理解できなかったそうだ。そして名前(それも愛称)しか知らないということに愕然としたらしい。友達が部屋に戻ってきて私の友人も姿を消したと聞き、フロントに行って私達の名前や住所を聞きだそうとしたそうだ。ホテル側はプライバシーに関わるから教えられないといっていた。それを友達が伝手を使って聞きだしたそうだ。けど、実際にそこに行ってもそんな人物はいないし、名前からも私達に辿り着けなかったと、言われた。
それは辺り前だろう。友人が念のために偽名と偽住所を用意していたのだ。宿帳にはそれを書き込んでいたのだから。
そこを責めるように言われても『私がした事じゃない』と思うしかない。何も言わずにいたら手を握られて「探したんだ」と熱っぽく言われた。
私はそっと手を外した。今更言われても困る。私にはその気がないのに。
そう言ったら「つき合っている奴がいるのか」と聞かれた。いないけど許婚もどきならいると答えたらすごく驚かれた。
結局口説きも中途半端になり、カクテルを一杯だけ飲んで私達はバーを後にしたのだった。