11 移動できない
駆け足の一週間は福岡での2日に渡る話し合いで幕を閉じた。
いや、閉じるはずだった。
水曜の天気予報で台風が週末に向けて九州地方に最も近づくだろうと言われていた。
予報通りに金曜になると台風の接近により天候は荒れてきた。強い風雨に飛行機は欠航し、新幹線などの移動手段も局地的な大雨により運転見合わせとなってしまったのだ。
ホテルを引き払い荷物と共に移動していたので、私達はすぐにホテルを探した。この天気でもう一泊宿泊を余儀なくされた人が多かったからか、見つかったのはシングルの一部屋だけだった。
そのホテルに移動中、風に煽られてよろけた私を、課長は片手で支えてくれた。細身なのに逞しさを感じたついでに、あの時のことを思い出してしまった。
課長に庇われて歩きながら、私はだんだんと決意を固めていった。
幼馴染みの彼と結婚するのは、もう無理だと思っている。
日曜日、彼と顔を合わせたくないと思った理由に思い当ってしまってから、私の心は決まったのだと思う。
隣を歩く課長のことをチラリと見る。少しでも風雨から守ろうとしてくれているけど、強い風は容赦なく雨を全身を叩きつけてきている。傘なんか意味をなさない状態だ。
私は決めた。ホテルに着いたら私から。そう、私から言おうと。




