10 頼りになる人
出張は毎日移動を含めたハードスケジュールだった。各支社の商品開発部とうちの支社の商品開発のデータから協力体制が取れるかどうかの確認作業に追われる毎日だった。
それぞれの支社は大体一つの研究を手掛けていたから、それに相対する資料の確認だけで済むのだけど、相違性と相似性の違いを研究者と話し合わなくてはならず、そこに苦労した。とにかく時間がなさ過ぎて泣けてきた。
なぜ私が選ばれたのかがよくわかった。最近私が各班の研究データを纏めていたからだ。なのである程度の内容は把握できていた。そしてうちの支社の研究が多すぎたから減らしたいということだろうと、3日目の大分でうちのデータと比較していて気がついた。
今回の出張は私が主になって説明をした。課長は私のフォローに回ってくれていた。
九州では4県を1日ずつ過ごした。最後の福岡だけ2日だけど、それも昼頃には離れることになるから1日と云ってもいいだろう。
博多での夜。親睦を兼ねて研究班の人と食事をした。その時にそこの主任に熱心に口説かれた。これからのことを考えてキッパリと断っていいものかどうか困っていたら、課長がやんわりと間に入ってくれた。
ホテルに戻りお礼を言ったら、当たり前のことだと言われた。軽く抱きしめられて耳元で「おやすみ」と言われ、部屋に入った。
閉まった扉を背に「ずるいわ」と、思わず口から出た呟きに涙がこみあげてきた・・・。




