決戦編
レベルも上がりステータスも上がり装備も整えて俺達はかなり強くなった。
そのために見た目もかなり変わった。
騎士のおっさんはマッチョダンディーに。
双子の魔術師は男の子も女の子もすっかり成人の見た目に。まだ12歳なのに。
神官さんは魅力値を上げすぎたためか、まばたきしたり微笑んだりすると綺麗なエフェクトがキラッキラッと出るようになってしまった。
俺もこの世界に来たときは身長160センチでヒョロヒョロだったのに、それなりに筋肉がついて今は身長183センチ。
ステータスが上がって存在感が増したのか、影も少し濃くなった。
鏡を見るとアゴの下の影が昔より濃いんだよな。普通に立ってるつもりなのに腰が勝手にキュッと動いてポージングみたいになるのは仕様らしい。この世界の。
俺達は戦闘後に自動的に勝利の決めポーズがズビィッと発動するくらいに強くなった。見た目のついでにモーションまで変化したらしい。
強くなるってそういうことなのか?
魔王の軍勢相手にも戦えるようになったので、このまま魔王の城までいっちょ行ってみるかー。
「魔王はもと吸血鬼で、歴代最強の不死身の魔王と呼ばれています。大陸東方の悪魔の城から全魔王軍を操っているという噂です」
情報集めて対策を考えて。吸血鬼の魔王で不死身で悪魔の城? それならやっぱりあれか? あれなのか?
「ま、四天王も残りは3人だしなんとかなるだろ」
強引なレベル上げでやたらと強くなった俺達は、
「滅・閃光鬼神斬 極!」
騎士のおっさんの最強スキルも使って正面からゴリゴリ突っ込む。この圧倒的戦力差の前に小手先の小細工なんて通用するもんかー。
俺達は暴走するブルドーザーかロードローラーのように魔王の城へと向かった。
回復の杖 使用回数無限
MPポーション 使用回数無限
このふたつがあるから休息も取らずにガンガン進める。寝込みを襲おうとしても無駄無駄ー。楽勝すぎて魔王軍がかわいそうになってきた。
あっさりと魔王の城、城門に到着っと。
「よくぞここまで来た、勇者よ。我は四天王のひとり、ダークリッチ。我がアンデットの軍勢の圧倒的な数の暴力に埋め尽くされるがいい!」
豪華なローブを着た骸骨が偉そうに喋ると、土の中から次々とアンデットが現れる。あっという間に辺りはスケルトンやらゾンビやらで囲まれる。
「こういうときは広範囲攻撃だよな。というわけで双子ちゃん。練習の成果を見せるときだ!」
「任せろ」
「任せて」
すっかり頼りがいのある風体に成長した双子の魔術師は、マントを翻してメガネをクイッと指で上げる。
なぜか知力を上げたら視力が悪いわけでも無いのにメガネが無いと落ち着かないと言い出したので、今はメガネを装備している。
双子が魔法の呪文を唱える。ただし、片方が少しタイミングを遅らせて。
俺とおっさんでガードしている間に魔法が完成。
先に魔法を完成させた双子(妹)が双子(兄)の両手の間の魔法に爆炎の魔法を撃ち込む。
それを見た骸骨四天王が驚いてる。
「仲間に攻撃魔法を撃つなど、とち狂ったか? なんのつもりだ?」
「こうするつもりだ! やってしまえ!」
「行くぞ! 合体エクスプロージョン!」
かつて、寝ている間に身体を勝手に改造されてサイボーグになった町人が使った合体ビーム。二人同時プレイで息を合わせないと使えないが、範囲は広く威力がある。
溜め攻撃を発射準備中に相方の溜め攻撃を受けて発射するのがコツ。
失敗すると身体が火の玉になって飛んでいくので、双子は練習中に何度も火傷をしたが、その甲斐あってタイミングはバッチリ。
涙目で空を飛んだ苦労が、今、炸裂する。
分裂した数十の爆炎魔法がアンデット軍団に着弾。燃えながら空高くふっ飛んでいくゾンビにバラバラに飛び散るスケルトン。1発KOだ。
「こんな! まさかこんな魔法がー!」
これぞ合体シュビ魔法。
四天王、ふたり目、KO!
勢い良く魔王の城に突撃。そこには鏡のように輝く鎧に身を包んだ巨人がひとり。
「我は四天王のひとり、鏡の巨人。貴様らの命運はここで尽きる」
「たったひとりで俺達に勝てるか? くらえ! 必殺の半キャラずらしっ!」
剣を構えて突進するが、1発あたったところで俺の身体が弾かれた。
ノックバックしないデカブツには半キャラずらしは効かないかー。
「滅・閃光鬼神斬 極!」
「ファイヤーボール!」
おっさんがスキルで、双子が魔法で攻撃するが、お前らちょっと待ってー。鏡みたいな装備ならお約束ってものがー。
「無駄だぁっ!」
鏡の巨人が叫ぶ。巨人の鎧はスキルも魔法も反射して俺達を襲う。
「我が鎧はいかなるスキルも魔法も反射する。どうやらここまでのようだな」
だよなぁ。たぶんそーなんじゃないかなーとは予想してたから俺は普通に突っ込んだわけで。
「そんな、スキルも魔法も通じないなんて」
神官さんが不安を口にするが、
「いやいや、この程度で勝ち誇られてもなぁ。神官さん! 俺に魔法反射を! で双子ちゃんは俺を魔法で撃て!」
神官さんの魔法反射で俺の身体が緑のエフェクトに包まれる。双子が魔法を撃つときに俺は反射の角度を調整したポジションにつく。
「ファイヤー!」
「サンダー!」
俺に当たった魔法は反射して鏡の巨人を襲う。
「無駄だ! この鎧に魔法は効かん!」
「普通に射てば反射するんだろ?」
巨人の鎧に炎と雷の魔法が直撃する。自慢の反射は機能しない。
「ぐわあっ! バカな? 鎧が魔法を反射をしないだと?」
「システム上、攻撃の反射は1回までなんだよ。だから1度反射させた魔法は反射できないんだ。そしてその鎧に頼るお前は魔法防御力が低いと見た!」
「ファイヤーボール!」
「サンダー!」
「アイスストーム!」
「ダイヤキューブ!」
「バヨ・エーン!」
「核撃!」
「バカな! こんなバカなー!」
四天王、3人目、撃破!
魔王の城をかけ登る。おなかがすいたら壁を壊して中から出てきたほっかほかの焼き肉とかケーキを食べる。
悪魔の城ってことなら俺はあのシリーズを知ってるからどこに回復アイテムがあるかはだいたい解る。
そろそろ城の上層部。ラスボスが近いのならラス前が出てくるところだろう。
「私は四天王、最後のひとり! 仲間の敵を討たせてもらおうか!」
ほら、出てきた。
広い部屋の奥、壁を背にして女の剣士が立っている。
「ラス前さんか。このあとラスボスだから消耗しないように片付けさせてもらうぞ」
部屋に1歩入ったところで、
「貴様は私に触れることすらできぬよ。雷鳴剣!」
女剣士が剣を立てて叫ぶと、部屋の中に稲妻が落ちる。まともにくらって吹っ飛ぶ。なんだ今の?
俺、HPが80万あるのに1発で30万食らった? どうやら広範囲の全周囲攻撃か。
「誰ひとりとして魔王様のもとには行かせん。私の雷鳴剣に焼かれて死ぬがいい!」
「ラス前さんならそれぐらいやってくれないとな」
神官さんに治癒してもらって立ち上がる。全画面攻撃ってラスボスが使うような攻撃だけど。
「俺はその程度の技には慣れてんだよ!」
叫んで部屋の中に走る。
「愚か者め! くらえ! 雷鳴剣!」
剣を立ててから発動するまでのタイミングに合わせて、俺は走る勢いでスライディング。
「下+RANボタン!」
部屋の中が稲妻の閃光に満たされる。部屋の光が消えたとき、四天王の女剣士は驚愕に目を見開く。
無傷で足元に滑りこんだ俺は立ち上がって目の前でニヤリと笑ってやる。
かつて際どいビキニアーマーの女子高生剣士が使った得意技。このスライディングはモーションの出だしが無敵判定。
あのラスボスの全画面攻撃のタイミングに合わせてスライディングを決められなければ、ラスボスには勝てなかった。
あのボスに勝つために俺はそのタイミングを身体で、正確には指先で憶えている。
「この程度の全画面攻撃で倒せる勇者だと思ったか?」
「だが、壁を背にした私には貴様の半キャラずらしは効かんぞ!」
「壁際に立ったお前の負けだ! レバー入れ小攻撃!」
雷のエフェクトを纏った裏拳で女剣士を宙に浮かせる。
バランス調整の甘かった格闘ゲームの式神使いの浮かせ技。これだけでお手軽に無限にハメ続けることができるため、友人同士での対戦では『この技の連続使用は2回まで』というハウスルールができた。
それほどの凶悪で無慈悲なお手軽無限コンボ。
だが、四天王、お前は俺の友達じゃない。
このままHPがゼロになるまでハメ続けてやる!
「卑怯者がぁー!!」
四天王、最後のひとり、討ち取ったりー!
悪魔の城も四天王も楽勝だ。
そうなめきっていたからなのか魔王相手に苦戦するハメに。
「どうした勇者よ、お前の力はその程度か?」
第一形態と第二形態でけっこう時間がかかってこちらもダメージがある。まさか、第三形態があるとは思わなかった。
さすがは魔王というところ。もと吸血鬼とかいう話だったけどその通りで、狼に変身して突進したりコウモリになって飛んだり霧になっておっさんのスキルをかわしたり。
今なんて広範囲に血の雨を降らせてこれが強酸みたいに肌を焼く。
なんとか隙を見つけてハメに持ち込みたいところなんだけど、その隙が無い。
何か大技でも打たせてその隙を作るとかできないかな。
ちょっと挑発してみるか。
「魔王といっても、案外たいしたことは無いじゃないか。そんなんで俺達に勝てるのか?」
「ふん、人間のくせにどうやって鍛えたのかずいぶんと頑丈な勇者だ」
「そりゃまぁ勇者だから。それにこっちはMPポーション使用回数無限があるから回復魔法も無限に使えるんだぜー」
「ならば一撃で葬ってくれよう。闇の力をくらうがいい。暗黒よ! 闇よ! 禁断の混沌を呼び起こせ! 暗黒死滅の闇の咆哮を!」
よーし、きた。きたきたきた。
巨大な質量を持った闇の塊が迫ってきた。双子ちゃんも神官さんもなにやら防御しようとしてるけど、俺はこれを待っていた。
おっさんと神官さんと双子ちゃんを守るために、迫る闇の巨大な塊の前にひとり立つ。
みんなが何か言ってるけど、轟音の中で聴こえない。
そこで俺は、俺の知る中で最強の技を使う。最後の最後はあの有名な裏技を使ってやろう。
「上上下下左右左右BA!」
俺の前面を守るように出現した青いバリアで暗黒の塊を相殺。
自信満々で放った魔王は驚いている。
大技発動後の硬直で動けない魔王に、四人に分身した俺の剣から出るレーザーと左手から出るミサイルを片っ端に撃ち込んでやる。
「なんだそりゃあああああああ!」
魔王の悲鳴が悪魔の城の中で響いた。
全面クリアー! こんぐらっちゅれーしょん!
だがこれで安心するのはまだ早い。相手は吸血鬼で不死身の魔王。
俺は辺りを見回す。悪魔の城の最上階、魔王の座っていた豪華な玉座。その向こうにいかにもな真っ赤な祭壇がある。
あそこが復活ポイントか。
俺は祭壇に走りながらアイテムボックスに用意していたものを取り出す。街で買い集めたそれを祭壇の上にバラバラと落とす。
騎士のおっさんが近づいてきて、
「勇者、それはなんだ?」
「上手くいくかどうか。ちょっと様子を見よう」
そのまま祭壇を見ていると、赤い祭壇に暗い闇が集まって形を作る。その闇の中から声が聞こえる。
「我は不死身、我は不滅、何度倒されようと蘇えぎゃあああああ! 熱いいいいいい!」
祭壇で復活しかけた魔王は燃え上がって悲鳴を上げて死んだ。
悪魔の城で吸血鬼といえば、先祖正しく代々続く、ムチ使いの吸血鬼狩りの一族。
そのひとりが使った技がこれだ。
復活する吸血鬼の復活ポイントにダメージアイテム、ニンニクを設置する。
復活モーションで動けない吸血鬼は、ニンニクに触れてダメージを受け続けることになる。
それを真似して俺は大量のニンニクで赤い祭壇を埋め尽くしてやった。
「我は不死身のきゅぎゃあああああ!」
「何度でも蘇えっていやあああああ!」
「ちょ、勇者、これハメ熱いいいいいい!」
「これっ、ニンニクどかしぎゃあああああ!」
「勇者っ! お前、人としてど熱いいいいいい!」
「おい! まともに戦えへえええ!うあああああ!」
「ふざけんなよクソ勇者ひゃああああああ!」
「助けてっ! 助けてくださぎゃあああああ!」
「嫌っ! ニンニク嫌あああああああ!」
不死身の魔王が何度も甦るというなら、
永遠にハメ続けるしか無いよな。
魔王討伐こんぷりーと!
俺達は復活しては悲鳴を上げて死ぬのを繰り返す魔王の悲鳴を聞きながら、悪魔の城を後にした。
戦いは終わり、世界は平和を取り戻した。
お城に戻って戦勝パレードなんてしたりする。世界を救った勇者一行を見に人が集まり過ぎて処理落ちして点滅したり、動きが鈍くなったりするのが心配だけど。
王様からは褒美なんぞを貰い。騎士のおっさんは城に戻り、神官さんは神殿に。双子ちゃんは新たな魔法の研究にうちこむとのこと。
で、俺はというと。
俺が調子に乗っていろいろとやり過ぎたのか、この世界であちこちで小さなバグが発生した。そのままにしとくと皆の生活にも支障が出る。
なので世界中を旅しながらチマチマとバグを修正することにした。
これはこれでのんびりとした楽しい毎日だ。
「見つけたぞ勇者! 貴様を倒して俺が世界最強の称号を!」
「うっさいわ! カニ挟みから起き上がりに重ねてのメテオ投げの無限ハメ!」
「ぎゃあああああ!」
うん、これはこれでのんびりとした楽しい毎日だ。




