成長編
「ゴブリンか、余裕だな」
城を出た俺達は冒険の旅に出た。街道で敵に出くわし戦闘になる。
騎士のおっさんが剣を構えて余裕そうなので聞いてみる。
「おっさん、ゴブリン相手なら勝てるのか?」
「当たり前だ。騎士ならこの程度、楽勝よ」
どうやらゴブリンはかなりのザコのようだ。それならば、
「じゃあ、俺は戦闘中におっさんに攻撃するからそれに耐えてくれ」
「なんで味方を攻撃するんじゃあっ?」
「戦闘中に仲間を攻撃することでHPと防御力が成長しやすくなるんだ!」
「本当かよ?」
「本当だ! 俺を信じろ!」
ゴブリンとの戦闘中、俺は心を鬼にしておっさんを背中から攻撃した。
「おわー! 痛ー!」
おっさんのケガは神官のお姉さんに治してもらい、レベルアップしそうなおっさんの頭にキノコを乗せる。
「このキノコは食べるとHPの上限が上がるんだが」
「そのアイテムをアクセサリーとして強引に装備するとレベルアップするときに能力値に成長補正がかかるんだよ」
寝てるときに落ちないようにハチマキでキノコを頭に縛りつける。
首にかけた袋には「ちからの実」「すばやさの香」を入れておく。
街道の宿屋で一泊した次の朝。
「なんじゃこりゃあっ?」
おっさんの叫びで飛び起きる。おっさんは一晩でかなりステータスが変わった。
そのために見た目には、身長が3センチ伸びて筋肉がムキムキになっていた。肌も少し日焼けしたような色になっている。
本当に上手くいった。パネェ。
おっさんは腕を曲げて力こぶを作ったりして確認してる。
「歳のせいかレベルアップ時のステータスの伸びが年々悪くなっていたというのに」
「これでいろいろできるというのが解った。魔王軍と戦う為にも本腰入れてパーティ強化するぞ! 神官さんに魔術師コンビもこれからガッツリとレベル上げしよう!」
「「「おー!」」」
ダンジョンにもぐり敵を倒して宝箱を発見。魔術師の双子に罠感知してもらって。
「うん、罠はかかって無いよ」
「よし、俺が開ける」
宝箱の蓋に手をかけて目を閉じる。
頭の中で昔、ずっと手に持っていたものを思い出す。コードのついたゲーム機のコントローラー。集中してイメージの中で親指を押して。
「セレクトボタン押しっぱー!」
叫びながら宝箱を開けて、出てきたものを双子の魔術師に鑑定してもらう。
「なにこれ?」
「こんなの見たことないよ!」
出てきたのは剣と杖。この剣と杖自体は珍しいものでは無い。おかしいのはその数値。
キルソード 耐久力無限
回復の杖 使用回数無限
「この調子でドンドンいこう!」
出てきたキルソードは街の鍛冶屋で強化する。このとき2Pコントローラーの連射スイッチONにして十字ボタンの左を押すことで、1回の料金で最大まで強化する。
ダークサンダーキルソード+10 耐久力無限の完成。
さらにダンジョン深くに潜りレベル上げを。
「魔法を封じたよ!」
「よし! よくやった。おっさん! 敵が仲間を呼ぶまで相手を殺すなよ」
敵に上級な悪魔が出たときに成功率の低い魔法封じが成功。悪魔が仲間を呼ぶのを待って数を増やしてから倒して経験値ガッポリと稼ぐことにする。
でもその前に、
「俺とおっさんで抑えてる間に神官さんと魔術師は装備を変えてくれ!」
「これを着けないとダメなの?」
「俺を信じろ!」
神官さんと魔術師の双子が後ろでゴソゴソと装備を変更。
「うええ、臭いー」
「鼻がツーンとするよー」
「我慢してくれ」
3人に装備させたのは経験値取得に補正の付く装備。
汗臭くて握りも臭くてヌメヌメする上にカビの生えた腐った臭いのする面と胴と小手と竹刀。
うお、こっちまで鼻がツンとして涙が出そう。でもこのシリーズをセットで装備すれば経験値取得がプラス100%。
「だから我慢してくれー」
「もう、吐きそうですぅ」
「目が、目が痛いよぅ」
仲間を呼んで増殖する上級な悪魔を800ぐらい倒して地上へと戻る。
宿屋に戻りレベルアップの補正の為にもおっさんと双子にはこれでもかこれでもかもうひとつおまけだえいと能力値補正アイテムを装備させる。
「鎧きたまま寝るのか?」
「寝苦しいよう」
「息が苦しい」
「一晩だけだから我慢してくれ」
これでパーティの戦力は大幅に上がるはず。
そして俺は神官のお姉さんの部屋に。
この日の為にありったけ用意したアイテムを持って。
「本当にこのカッコで一晩寝ればいいの?」
酷い有り様に泣きそうな目で神官のお姉さんが呟く。
「でも、これで神官さんの悩みがどうにかなると思う。試してみて欲しい」
神官さんにはひとつだけ悩み事があった。悩み事というよりコンプレックスと言うべきか。
小さい頃に酷い病いをしてからくも一命はとりとめたという神官さん。
そのときの病気で右目の回りに赤黒い痣が残っている。髪を伸ばして顔の右半分だけ隠しているのだけど、見えないところ、身体にもそんな痣があるという。
本人は気にしてないふうを装っているけど、そこは神官さんも女の子だった。
王城でゴミ虫のように扱われていた俺に優しくしてくれた神官さん。その神官さんの憂いを晴らすために俺は魅力値補正アイテムを揃えに揃えた。
大量の経験値で連続レベルアップが狙えるこの夜が勝負のとき。
アイテムボックスから装備とアクセサリーを取り出して、神官のお姉さんにはその全てを強引に重ね着で装備させた。
天女の羽衣
肉球グローブ
ウサギのあんよ
アミタイツ
バニースーツ
ハイレグアーマー
ルシファーズクロー
堕天使の翼
満月の指輪
チャームネックレス
女王様の鞭
猫耳カチューシャ
真っ赤な彗星マスク
魅惑の香
魅力の種
とあるラーメン屋のトッピングぜんぶ乗せのようなカオスな有り様の神官さんがそこにいた。
この魅力値補正を活かしての連続レベルアップで魅力値を上げれば痣とか消えるんじゃないかと。
神官さんにおやすみと挨拶して宿屋の自分の部屋に戻る。
そして翌日の朝。両隣の部屋からピロリンピロリンと連続でレベルアップの音がする。
みんなでひとつの大部屋に入ると強引に装備した大量の装備とアクセサリーのせいで処理落ちして、みんなの動きが鈍くなるので魔術師の双子以外はひとり一部屋ずつとることにした。
「いたたたたたた!」
「痛い痛い痛い痛い!」
魔術師の双子の悲鳴が聞こえるので慌てて走って部屋の扉を開ける。双子はいつも一緒なのでふたりで大部屋に泊まっている。
「どうした? 大丈夫か?」
中を見ると、うん、大成功。
若くて成長率のいい双子はどちらも身長が10センチくらい伸びてて、12歳のはずが20歳くらいの見た目に成長している。
ステータスも跳ね上がっているが、二人ともベッドの上で痛い痛いと転がってて。
「足が、足がつったー」
「背中がビキビキするよぅ」
どうやら急激な肉体の変化で筋肉がつるような痛みがあるという。
成長痛ってやつか。
痛み止めになるか解らないけれど回復の杖 耐久力無限を使う。ちょっと楽になるというので杖を握らせて今日はゆっくりしてもらう。
「おい、大丈夫か? あいたー!」
入ってきたのは騎士のおっさん。ただ、身長が2メートルくらいになってて、扉を開けて入ろうとして入り口に頭をぶつけている。
これはまたずいぶんと成長したなー。成長した身体にもまだ慣れていないようだ。額を押さえて呻いている。初めて会ったときには俺と同じくらいの身長の中年だったのに変わり過ぎだ。
白髪が無くなって黒髪のボディービルダーのようなマッチョダンディーに。
ステータスが変わればそれに合わせて見た目も変わる。筋力が上がればムキムキに。体力が上がれば骨太の頑丈そうな感じに。
これは神官さんも期待できそうだ。
おっさんと双子の装備品を解除してからみんなで神官さんの部屋に向かう。
「神官さーん。どんな感じ?」
宿屋の部屋の扉を開けると、
そこには女神がいた。
顔の痣は綺麗に無くなって、それどころかソバカスに口の下にあったホクロも無くなっていた。
鼻が高くなって鼻筋がスッとしてる。
顎が細くなって、首が少し長くなってる。
睫毛が伸びて瞳の色が茶色からサファイヤのような澄んだ青色に。まばたきする度に光の粒子のエフェクトが散る。
赤茶色の肩までの髪が艶やかで濡れたような漆黒になって膝くらいの長さに伸びてる。
首を傾げて髪が揺れるとキラリキラリと光る。
小顔になった、というか頭蓋骨そのものがワンサイズ縮んで、身長は変わってないのに頭身が伸びている。
なかなか痩せないと困ったように笑って言ってたややポッチャリさんだったのに、体型が変わってる。モデルの理想とするような体型に。その上、胴体が少し縮んで足が長くなって細くなってる。
変身後? 変わりすぎた。別人にしか見えない。
もとの神官さんの面影が無い。魅力値特化で補正かけたら美の化身になるのか、この世界は。まじパネェ。
そうか、それでこの世界にはギルドカードがあるのかー。ステータスが変わって見た目がこんなに変わるなら、見た目に左右されない身分証明書が必要になるってことか。
あと、神官さんだけ描写が細かい。違う世界の人みたいだ。
俺達がブラウン管なら神官さんはプラズマテレビぐらい画素が違う。たぶん早く動いても綺麗に表示されるんだろう。残像とか画面焼けにも強そうだし。
「あ、あの、私、いったいどうなって?」
俺もおっさんも双子もポカーンと見てたのが、神官さんの声で我に変える。
俺は鏡を取り出して神官さんに見せる。
神官さんはしばらく鏡を見て、鏡に向かって手を振ったり、顔を触ったり、頬を摘まんでみたり、一通り試してから、
「ひょええええええ?」
目を見開いて驚いた。
よかった。中身はちゃんともとの神官さんだ。
ステータスの変化した肉体に慣れるまで、無理はしないようにしようと今日は休みにする。
騎士のおっさんがアイテムを持ってきた。
「ステータスが上がってこれを使えるようになったみたいだ」
おっさんが持ってきたのは、『わざの書』だ。ジョブとステータスで使えるのは騎士のおっさんだけみたいなので使ってもらうことにする。
この『わざの書』で憶えられるのはレアなスキル、『閃光斬り』。
ただこの『わざの書』、セレクトボタン押しっぱーと叫びながら開けた宝箱から出てきたので使用回数無限。
『閃光斬り』を憶えた者が再び同じ『わざの書』を使うと熟練度が上がるので、まる1日かけておっさんに『わざの書』を連続で使ってもらう。
おっさんが修得したスキル、『閃光斬り』は使用回数無限の『わざの書』で熟練度を限界まで上げて上げて上げたところ、
『滅・閃光鬼神斬 極 LVMAX』
という聞いたことも無い伝説の剣技が爆誕した。
パーティの強引なパワーレベリングもこれでいいか。充分に強くなっただろう。
いよいよ魔王の城に挑戦だ。1ヶ月の遅れを取り戻す為にも気合入れて攻略するか。