運命のとき
「高橋!金玉を出すのはやめろ!」
算数の授業中、松本先生の怒号が雷のように響き渡りました。
というのも、今日は授業参観日だというのに、高橋和弘君はいつもの調子で短パンの裾から金玉を出して遊んでいたのです。
なんでも金玉をネコスの椅子にどーんと風呂敷のように広げてやるのが冷たくて気持ちが良いのだそうです。
そうやって一日中、金玉を椅子に引っ付けては離してを繰り返してみせるのが高橋君ならではの日課なのです。
高橋君はそっと金玉を短パンの中にそれはもう大事そうにしまい、松本先生に向かって、
「しらけた」
と言い捨て、静かに教室をあとにしましたが、諸君よく見てください。高橋君の目は怒り狂った龍の眼をしているではありませんか。
そして、あれから数年の年月が経ち、俺も立派な高校生になりました。
高校の生活は正直言って本当につまらないものです。 しかし、高校生活よりも大事なものが俺にはありました。
俺は最近、高校から自宅に戻ると、境呪士になって生活を送っています。
この姿を誰かに見せたことは今まで一度もありません。友人や親にもないのです。見られることが相当都合が悪いのです。
俺が境呪士になる理由は、世界の平和を守るとか、そういった正義感溢れるものではありません。
ただ、己の身を守るためです。ここだけの話になりますが、俺は今、命を狙われているのです。
誰に命を狙われているのか、もうお気づきの方もおられることでしょう。
そう、高橋君こと妖怪ハギシにです!
高橋君は、授業参観日の直後から行方不明となっていましたが、なんと妖怪ハギシとなって最近、日没に出現するようになったのです。
そして、もう一人。
算数の松本先生が怪人カッパルサンとなって俺の命を狙い始めようとしているのです。
突然襲いかかってきた妖怪ハギシと怪人カッパルサン。
運命は俺を置き去りにして走り出したのです。