危険なお留守番
双子の妹の誘拐事件から一年がたった。
この一年間 警察の必死の操作にも関わらず一切の手がかりは無し!
今でも根気強く テレビから新聞の隅っこ、至る所に情報を呼びかけた。結果は惨敗。
「大丈夫よ ママは強いから アニーもきっと大丈夫」
そういってトビーを見るママの目はなんだかとても悲しそうで最近翻訳家の仕事をしなくなり、料理をするときもお掃除するときもどこかうわの空。電話にはとても敏感になっていた。
ジリン ジリンとなる度に素早く受話器を耳にあてて、聞こえる声に顔を青くしたり暗くしたりの繰り返しだ。
時々フラフラと外出ては残ったトビーを思い出しフラフラと戻ってきてはトビーの存在を確かめるように撫でまわした。
パパは前も仕事で忙しかったが、さらに忙しくなってそのストレスで前にもましてとても短気になった。
唯一の救いは近所の人たちは前と変わらずとても親切で心配してくれた事だ。
上の空のママの料理の手伝いをしてくれたり、掃除をしにきてくれたり パパを宥めてくれたり、根気良く付き合ってくれるようになった。
ある日 トビーは一人でお留守番ママを隣のおばさんがショピングに連れて行った
「トビー ママは気分展開が必要なの トビーは男の子だからもう一人で留守番できるわよね」
替わりにもらったのは大きな甘いケーキ。トビーの一番好きなチョコレートケーキだ。
「もちろん いってらっしゃい ママ」
バタンと玄関の扉がしまります。
隣のおばさんの旦那が買った新しい車が汚い排気ガスを撒き散らしながら道路を走っていった。
トビーはテーブルの上のケーキを切り分けて さっそくケーキを食べ始めた。
トビーは一人家の中。
チョコレートケーキはトビーの一番大好きなケーキだから、トビーはものの見事にすっかり平らげた
テーブルの上にはケーキの無くなったチョコレートまみれのお皿とフォーク一のみ。
「そういえば アニーがいなくなったのも今日だった」
今まですっかり忘れていたけれど今日に限って思い出す
トビーは一年前に狼に食べられた怖い夢のことを思い出しブルリと震えた。
いなくなったアニーを探して出かけたあと狼に食べられたトビー。
「夢だったんだよね?」
(だけど、狼の口の中はとても赤くて臭かった)
それはとてもリアルでトビーは今でもハッキリと覚えていた
ママを笑顔で見送ったけれど、やっぱり付いていけばよかったかもしれないトビーは思った。
ピンポーン ピンポーン
インターフォンが鳴って トビーはビクリと体を震わせた
ピンポーン ピンポーン ピンポーン
五回くらい インターフォンが鳴ってトビーはおそるおそるドアの前に立つ
「誰?」
トビーは尋ねた。
「宅配便です。お母さんは留守かな とりあえず判子だけもらえないかな」
やさしげなお兄さんの声が返ってきてほっとする
トビーは玄関の判子をとって、玄関の扉をあけて判子をペタン
「荷物はここに置いておくね お留守番かい?いい子だね」
トビーはいい子と言われて少しばかり嬉しくなった
・
宅配便のお兄さんは作業着の胸ポケットから出した飴をトビーに渡した
「ありがとうございます」
「きちんとお礼が言えていい子だね」
そういって宅配便のお兄さんは笑って、気前良く今度は飴がたくさん入った袋をかばんから取り出すと袋丸ごとトビーにくれた。
宅配便のお兄さんは帽子をクルリと回して被り直すとヒラヒラと片手を振ってトラックの乗っていなくなった。トビーは、大きく手を振って宅配便のお兄さんを見送った
「飴 たくさんもらっちゃった」
飴を一袋ももらっていい子と言われて嬉しくなったトビーはもう少し留守番をがんばってみることにした。
口の中には、一番最初にもらったイチゴ味の飴がコロコロと転がっていた。
袋の中にはまだまだたくさん メロン ブドウ ナシ オレンジ ミントとたくさんの味の飴玉があった。
ミントは少し苦手でしたがまあそれも良し。
コロコロ コロコロ 口の中に飴が転がった。
「甘い」
チクチクチク
小さな 置時計の時間を刻む音がした
「ママは後どのくらいで帰ってくるんだろう?」
ドキドキしながらまっていた。
リビングのソファで雑誌と読んだり 足をばたつかせたり 部屋中駆け回ったり
それでも まだ ママは帰ってこなかった
「大丈夫 大丈夫 帰ってくる 帰ってくる」
そういいながら 時計の針がもう一回り
トビーはだんだん心配になってきた
それにとっても心細くてさびしくなった。
「アニーがいたら 退屈しないのに」
だけど アニーはいないのだ。
「ママはあとどのぐらいで帰ってくるんだろう」
ママもまだまだ 帰って来ない。
トビーはなんだかまた怖くなってきた
「探しにいこうかな?」
どこにいったかなんて検討もつかないけど
「僕も行こうかな」
トビーはドアに目を向けていった
縞々のセーターに赤いコートを着てそうそう外は寒いから厚手の靴下を履いて お気に入りの黄色の鞄を下げて
「ああ 鍵は閉めていかないと」
恐竜のキーホルダーの付いた予備の鍵を戸棚から取り出して、長いブーツをはいて玄関をでた
玄関を出たら扉の鍵穴に鍵を挿してしっかり閉めた これで家には誰も入れない筈。
鍵を持っているママ以外は
さあ まずはどっちにまがるのべきか
トビーは道を選んだ
左だったか 右だったか 上だったか 下だったか
検討違いの道か
あるいは正解の道だったかもしれない
とりあえず ママを乗せた車の道とは逆の道であることは伝えておこう
トビーは道を突き進んだ
トビーが進む道はとても静かで人とも車とも一度もすれ違うことはなかった
けれど、トビーはそれを不思議に思うこともなく、歩き続けた
ズンズンズン 角を一つ曲がると全く知らない道に出た
「知らない道だ」
見たことも無いその道にトビーは不安になった
けれど、このまま引き返すなんて面白くない
大丈夫 このまま進んでいけばいつか着くさ
どれだけ 時間がかかるかなんて考えない
「だけど このまま 戻れなかったら困るから」
トビーは飴玉の入った袋を取り出した
「一個 一個 落としていこう もったいないけどこれで万事解決」
まずは赤い 飴玉をポトリと道に落とした。
赤い飴玉はイチゴ味
次に落とすのは緑のメロン
飴玉はキラキラと光って少し離れたところからも良く見えた
トビーはズンズンズンズン 道を進んだ 小さな飴玉を落としながら
それが トビーの道しるべ 小鳥が食べてしまわぬように祈ってやろう
トビーが歩くその先はいつのまにか草がボーボー 荒れた山道
デパートどころか人の住む家すら遠く さすがのトビーも立ち尽くす
すると、 空からポツリ ポツリと雨が降る
トビーは鞄から折りたたみ傘を取り出して素早く挿した けれど そこに風の悪戯 傘が浚われた
傘を追いかけ トビーは走る
「さあ 捕まえた 僕を困らせるなんて悪い風だな」
ようやく 浚われた傘の柄を捉え 取り戻した青い傘
ザアザアと雨が激しく振ってきた
ヘックション ヘクション 大きなくしゃみが二回
「どこかで雨宿りしないと 風邪をひいちゃうよ」
口の中に余った飴玉を放り込んで。
「甘いやでもなんだか頭がぼーとしてきたな」
顔を前に向ければ 都合良く 一軒の小屋を一つ発見した
「なんてグットタイミング」
その小屋とても小さい
鍵が開いて おいで おいでしているみたい
トビーは鼻をくんくんとひくつかせた
「お菓子のにおいがする」
チョコレート クッキー ビスケット ほかにはいろいろ」
ここはまるでお菓子の家
トビーは思わず手に触れたドアの汚れを舐めた 不衛生 不潔なんて言葉は浮かばなかった
「甘い!サクサクしてる ビスケットだ」
それは確かにビスケットの味 しかも一番大好きなチョコレートビスケット ドアをすこし折って口に含むとまたおいしい。この雨の中だというのにドロドロになんてなっていなかった。
お菓子の家の中はまたお菓子の部屋だった。 椅子もテーブルもソファもみんなお菓子 なんて
夢の様。
「おいしそう」
思わずよだれ テーブルクロスは生クリームの味
テーブルの真ん中に花瓶 花はメレンゲ
「少ししょっぱいや でもおいしい」
調子に乗ってパクパクパク
小屋の主の姿はトビーには見えない
小屋の奥で誰かがニヤリと笑った
ゾクリとトビーの背筋が寒くなった
「なんだか寒いや 雨が上がるまでここで雨宿りをしよう」
トビーはソファに腰を下ろした
「マシュマロみたいにふわふわしてる」
少し噛めば本当にマシュマロの味がした これは本物マシュマロで間違いない マシュマロソファ
なんだか だんだん 瞼を重くなって トビーは夢の中
ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ ヒッ ヒッ ヒッ
奥の部屋から不気味な笑い声 細い骨ばった手がトビーに伸びました
気づいた時にはもう遅い まるでヘンゼルとグレーテル。ここはお菓子の家
大なべの中が熱くて熱くてたまらない。
「トビー 早く お上がりなさい 茹ってしまうわ」
気づけばトビーはなぜか風呂の中
驚いたトビーはお湯に沈んでバタバタ暴れた
ママがあわてて浴室に入ってきて急いでトビーを引き上げた
「トビー 何してるの さあ早くあがって雨に打たれていたんだから 風邪をひいてしまうわ」
ママがバスタオルで体を拭いてくれる
「ママ 僕なんでお風呂に入っているの?」
「まあ まあ ボーとして覚えないの?でも良かったわ ようやく意識がハッキリしてきたのね
トビーは雨の中で寝ていたのよ 帰ってきたときは心臓が止まるかと思ったのわ」
「僕 寝てたの」
「そうよ 雨の中でぐっすり でもボーと起きだして起きだしついでにお風呂に入ってあったまってらしゃいっていったのよ。あなた動いていたけど返事がなかったからお風呂みにいこうと思ってたところだったのよ」
トビーにはどこからが夢でどこまでが現実かそんなことはさっぱりわかりませんでした
「アニーは」
「アニーはいないのよ」
ママは悲しそうな顔でそういった。
アニーはいない。 これは本当。
ママがエプロンから飴玉の袋をトビーに渡した
「キャンディーの袋 これどうしたの」
宅配便のお兄さんからもらった飴玉の袋 これも本当
イチゴ味 メロン味 ブドウ味 ミント 他にもいろいろ
「宅配便のお兄さんから貰ったんだ 留守番してるからご褒美だって」
「あら お礼言ったの?」
「もちろん 荷物は玄関の横だよ」
玄関にはちょこんと中くらいの茶色い包みが置いてあった。
「まあ これ おじさんからね 旅行のおみやげだわ」
包みの中にはお父さんへ お母さんへ トビーとアニー宛ての包みがそれぞれ包みの中からでてきた。
「これは二人宛てね トビーとアニー トビーの名前をあるから開けていいわよ」
渡された包みからはなんだかお菓子の匂いがした
「なんのお菓子かな」
トビーはバリバリと自分たち宛ての包みを開けた
「あれ?」
中から出てきたのは一冊の絵本だった
「お菓子の匂いがしたと思ったけどな」
絵本には鍵穴がついていた
しっかりと鍵がしまっていて中が開けられないようになっている
絵本の端っこの方2と書いてあった
「二巻?」
絵本は黒い表紙でピエロの絵が描いてあった
口が釣り上って笑っていた 笑い声が今にも聞こえてきそう
題名は書いていなかった
ただこれは二冊目なのだ
一冊はもしかして もしかしなくともあの黒い本
「二巻があったんだ」
二冊目も一冊目と同様にすでにボロボロ これ以上崩れないようにビニールやテープで舗装してあるようだ。
「もう一度読んでみようかな あの日から全く読んでないから最後まで覚えてないや」
トビーは部屋に戻って絵本を探したがなぜか絵本は見つからなかった
「あれ どこにしまったんだろう ?」
トビーは台所で料理をしているママに絵本の事を聞いた。
「絵本?知らないわ 何の絵本?」
「アニーと一緒に読んでた絵本。」
「わからないわ」
「じゃあ どこにいったんだろう。」
「テーブルの上に出しっぱなしにしてたんだったら、もしかしたら 警察の人がもっていたのかもしれないわ」
「どうして?」
「だってアニーは誘拐されたのかも知れないから手がかりになるものはみんな持っていってもらったの アニーの布団も枕もなかったでしょ」
「ひどいや 絵本まで」
「ごめんね いっておけばよかったわね でもママもしらなかったのよ」
「わかったよ」
せっかく元気を少し取り戻してくれたママを、それ以上責めることはトビーには出来なかった
トビーの手元に残っているのはたくさんの絵本とおじさんからの贈られてきた絵本の二巻
「どうしようかな」
本には鍵がかかって中身はみれないし、ボロボロだから無理に開けようすれば壊れてしまうだろうから諦めるしか他にないだろう
しっかりしまって置けばいい




