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高校生ズ!!

ガーベラ

 誰にも指摘されなかったな……。

落ち込んだ私は、園芸部の温室に座り込んだ。部員全員で飾り付けた温室は落ち着ける場所。

去年は写真集の撮影現場に使われた時は騒がしかったけど、今はもう静けさが戻っている。そこの窓辺に座り私は俯く。

 私自身は明るくてこどもっぽい性格だと自覚しているのだけれど、どうも周りには大人しいかネクラだと認識されてしまうらしい。

人付き合いは苦手だけど、一度心を許した相手にはなつく。ま、その関係を維持することも苦手で中学時代の親しい友人とは疎遠になってるけれど。

 現在は高校三年生。

三年経っても親しい友人は出来ずに、かといって孤立したわけでもない、中途半端なポジションに居座っている。

趣味のガーデニングは熱く語れないし、親しくない相手には自分から話題提供ができないし、話し掛けられても必要最低限の返事しかできない。

主に私が悪いですね。

 顔を両手で覆い、俯いた。

今度こそ仲良くなろうと髪を切ってきて、話し掛けられたら頑張って会話を盛り上げようとしたのに、見事にクラスメイトや部活の仲間もスルー。先生すら一言も触れてはくれなかった。

 身長が平均より小さくて体型は自信ないけれど、小顔なら自信があり長い髪を下ろして小顔を強調していたのをやめて、思い切って肩にギリギリつくかつかないくらいのボブに切ってもらったのに。

苦手な美容室にいったのに。

赤面しつつも美容師さんに切ってもらったのに。

失敗に終わってしまった。

 イメチェンしたのに一言も触れられないのは、私には興味がないという意味。

そう思うと余計に落ち込んでしまう。

 窓辺にずらりと並ぶピンクと白と赤のガーベラ。

春の陽射しを目一杯浴びている花を意味もなくいじる。

私も陽射しを浴びて目一杯、明るい色を纏えたらいいのにな。

 つついていたらドアが開く音がして、びっくりして肩を震え上がらせる。

部活はもう終わったから見回りの先生かと顔を向ければ、生徒だった。

一個下の男の子の部員だ。

 名前は志水柚女(しみずゆめ)くん。

柚に女って書いてユメ。可愛らしい名前だと私も思ったけど、本人は気にしているらしくこの前ムッとした表情をしたので絶対に言わないと誓った。

 普段はぼんやりした雰囲気で、なんだか見ているだけで和む子。

まだ肌寒く感じるのか、ちょっと伸びているベージュのセーターを着ている。その肩は撫で肩。

緑色のチェックのズボンを履いた足は、ほっそりした印象を抱く。身長は私の胸の下の高さまである窓辺に座っている私より高い。

ま、年下の高校生は皆ほとんど私より大きいけど。

 綺麗と印象を抱く顔立ちで、少し黒い髪はぼさっとしている。野良猫さんを擬人化したら彼に似たキャラになる、と誰か他の部員が言ってた。

私にとっては眺めてると和む植物みたいな男の子のだけどね。


東野(ひがしの)璃子(りこ)、先輩……」

「どうも」


 声も静かでゆったりしてる。軽く会釈してきたので、ぎこちなく笑みを浮かべた。

 どうしよう。

こんなところで一人きりなんて、友だちいないと思われるかな。事実だけど。

変な先輩だと思われたかな。

「どう、したの?」と訊いてみる。

温室の真ん中まで歩くと立ち止まったまま志水くんは、周りを静かに見つめていた。


「鞄を、忘れたので、探しにきました」


 志水くんはそう返す。

可笑しいな。志水くんは確かに鞄を持って温室を出たはずなのに……。

忘れたのなら他のところじゃないかな。言うべきかな。どうしようかな。

こういう迷いが発言のタイミングを逃す原因なのだ。


「東野先輩」

「っん?」


 言おうと口を開いたら、志水くんがこちらに目を向けてきたので、慌てて応える。


「髪。切りましたね」


 本日、記念すべき第一号が現れました。

頭の中で大喜びしつつ、切り揃えた栗色の髪を揺らすように頷く。


「失恋、ですか? あんなに長い髪をバッサリなんて……」

「へっ?」


 失恋、というワードに呆気に取られる。

瞬きしていれば、志水くんが「皆が言ってました……」と答えた。

皆とは部活仲間のこと。

 嘘でしょ!?

まさかイメチェンじゃなくて、ベタに失恋したから髪を切ったと思って皆気を遣って触れてこなかったの!?

そんなっ!

誰にも恋すらしてないのに傷心中と認識されるなんてっ……!

 いや、恋ならこの子にしてるかもしれない。

手入れをする部活中はいつの間にか、志水くんを眺めていることが多い。他の人とあまり話さないけど和むから、多分恋をしてる。

それは置いておこう。

志水くんは高嶺の花だし、私は今恋人より友だちが欲しい。


「あんなに綺麗な髪を切ったなんて、失恋以外理由がないと部長が言ってました」


 天井にぶら下げた鉢を避けるために首を傾げて、志水くんはこちらに歩み寄ってきた。

その仕草が可愛くてちょっとほんわかしつつも、部長を恨む。

 堅物眼鏡部長が断言したら部員の皆が信じちゃうのは当然だ。せめて部員の皆とは話せたのに……。

 気付いたら志水くんは目の前に立っていた。

あと十五センチで触れてしまいそう。近い、な。


「とても綺麗で、一度触って見たかったのですが……残念です」


 甲がセーターで隠れた志水くんの左手が伸びてくる。

私のおへそ近く。昨日までなら、そこには毛先があった。

志水くんの左手は上にいって、それから花に触れるみたいに私の毛先に触れる。


「でも、今の髪型も似合ってますね……」


 花びらを撫でるみたいに、志水くんの親指が毛先を撫でつけた。

近い、近い、な。

俯いた顔が上げられそうにない。もう既に赤いと思う。


「触り心地……いいですね。先輩の髪」


 くるりと志水くんの指に私の髪の毛が絡む。

ハッとする。何故こんな状況になってしまっているのでしょうか。

可笑しいな。イメージしていた展開と違いすぎる。

 次は志水くんが顔を近付けたものだから、息を止めた。

視界の隅で、志水くんの鼻と唇が見える。彼は私の髪の毛の匂いを嗅いでいた。


「いい香りがします」


 そっと言う志水くんは、一体全体何なんだろう。

この行動に何の意味が!?

私が知らなかっただけで、距離が近い子だったのかな!?

今は髪を嗅ぐことに集中しているに違いない。きっと私が顔を赤くしてるなんて気付いてないはずだ。

 それを確認するために、意を決して顔を上げた。

志水くんは、唇に髪の毛を押し当てたまま私を見ている。

しっかり目が合い、顔の距離が十センチもないわけで、近すぎるわけだから。

 思わず────仰け反った。

私は窓辺に座っていたから、当然後ろにはガラスがあるわけで頭を打ってしまう。

ガラスが割れなくてよかった。頭を抱えて思う。


「大丈夫ですか?」

「う、うんっ」


 主に君のせいだけどね!

離れてほしいのに、私の頭の左側に志水くんの右腕が伸びてきて、それがガラスに手をついた。左手は私の手の上に置かれるものだから、まだ距離が近い。

近すぎるよ、植物系男子くん!!


「……先輩、一体誰にフラれたんですか?」

「へ?」


 私の手を退かして後頭部を撫でてくる志水くんが問う。

誰にもフラれてないけど。

また顔が上げられなくなって俯いていたら、志水くんが続けた。


「おれずっと……先輩はおれを好きだと思い込んでました……」


 その言葉に、耳まで熱くなる。


「いつもおれを見てたから…………自惚れてましたね。あんなに長かった綺麗な髪を切らせるほど先輩を悲しませた人って、誰なんですか……?」


 視界の上にある志水くんの唇から発しられる声は、しっかり熱くなっている耳に届く。


「あ、あの……志水くん。私は、誰にもフラれてないよっ。これは、その、イメチェンだから」

「……じゃあ、好きな人は、いない?」

「いると、言うか……その」


 詰まらせながらもなんとか誤解をといたら、次は好きな人について問われる。

それは言えずに口ごもった。

 すると志水くんは両手をガラスにつけて私に顔を近付ける。


「おれずっと……想ってました。落ち着いてるって思われがちだけど、おっちょこちょいで、花にも蝶にも笑いかける東野先輩が……好きなんです」


 静かにゆっくりと、私に届く志水くんの告白。

志水くんが、私を──…。


「先輩は?」

「は、はいっ」


 熱くなりすぎてぼんやりしてしまいそうになったけれど、答えを求められて我に返る。

 自覚していなかったけれど、彼のことは好きだ。でも恋人になりたいほど大きな気持ちなのかと考えると答えに迷う。


「好き? それとも嫌いですか?」


 コツン、と軽く額に額を重ねられた。もうバレているのだから、言うしかない。

グリ、と押されたから顔を上げる。


「────…す、好きです」


 髪が触れるほど近い距離に志水くんの顔。

また仰け反りたくなったけれど、今回は頭の後ろに志水くんの左腕がクッションになっているのでもう下がれない。

 志水くんは、微笑んだ。

花が咲いたように静かで綺麗な微笑。ほんわかと胸の中でなにか浮くような感覚がする。

和むようなときめき。


「おれと付き合ってください」

「ぜ、ぜひ」


 微笑んだ志水くんが可愛すぎる。

頷いたら、志水くんが私の右頬にキスをした。

第一印象と違って、恋愛には積極なんだね。先輩、たじたじです。


「一緒に帰りましょう。璃子先輩」

「う、うん。……ゆ、柚女くん」


 さらりと名前を呼ぶから私も自信なく呼んでみれば、彼は怒ることなく私を窓辺から降ろした。


「その髪型も似合ってて可愛いって、言いましたっけ?」

「うん、言ってくれた」


 また微笑むと柚女くんは私の髪を両手で撫でる。

花を愛でるように優しく。

……どうしよう。幸せだ。


「それでその……おれの鞄、見ませんでしたか?」

「え。本当に探しに来たの? 君、持って温室を出てたよ」

「……じゃあおれの鞄はどこですか?」

「知らないよ……。一緒に探そうか」


 キョロキョロとまた柚女くんは鞄を探した。

告白のために戻ってきたとばかり思ったけれど、本当になくしたみたい。

どこに置いてきたのかな。うっかりさんめ。

手を繋いで、柚女くんと温室を出た。

 イメチェンで友だちは出来なかったけれど、恋人が出来ました。




珍しくダークやファンタジー要素なしです!(笑)

お粗末さまでした!!

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― 新着の感想 ―
[一言] すごいです! どうしたら、こんな素晴らしい作品が書けるんですか? …恋愛したことないから恋愛小説が書けないんでしょうか?
[一言] とても続きが読みたいと思ったら柚女くん視点があると言うのでお気に入りに勝手ながら登録させて頂いたので是非続きをと言うか連載でも良いかもしれません。 BENIさんの作品は漆黒鴉学園しか読ん…
[良い点] 後輩君頑張った! [一言] 鞄は柚女くんの先輩(♂)が隠して影から見てるに違いないw
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