警備員と私
たぶん恋愛……うん、きっと恋愛。
……私は、ある大学の寮に入っている。
その寮は教育寮で、門限は10時やら、友達は連れ込んではいけないやら、とにかく厳しい。
そんな寮を警備する、ちょっとおかしな警備員が一人いる。
「やあ桜ちゃん、今日も麗しい!」
「あー…はいはい。ありがとうございます」
学校へ行くには、警備員室…のようなボロ小屋を通らなければいけない。
その小屋には一人の警備員が寝泊まりしていて、毎朝ただ立っている彼と出会ってしまうのだ。
そんな彼はどこから仕入れてきたのか私の名前を知っていて、こうして私が学校へ行くたびに声をかけてくる。
……彼は私の名前を知っているけれど、私は彼の名前を知らない。
「今日は5限まである日だよねっ!居眠りしないように頑張るんだよっ!」
さらに彼は私の時間割を把握していて、そして居眠り癖があることも知っている。
「そっちこそ、警備頑張ってください」
「えっ……!桜ちゃんが僕のことを応援してくれたっ!!嬉しい……」
彼は極度の感動屋だ。私がちょっとでも声を掛けてやるだけで、こうして喜んでくれる。
大げさだと思うけど、私の言葉一つでこんなに喜んでくれるんだから、悪い気はしない。
「帰ってきたら、なでなでしてあげるからねっ!!今日も頑張りましたって!!」
「……はいはい」
毎日なでなでしてくれるんだからそんなこともう言わなくてもいいのに、なんて思ってても、そう言う時の彼のとろけるような笑顔がみたいから、あえて指摘しない。
「じゃあもう行くからね。いってきます」
いってらっしゃい、その言葉を背に、私は一歩踏み出す。
……たとえ警備員室とは名ばかりのボロ小屋が人が住めないほど荒れていても、友達にいつも誰と話しているのと気味悪がれても、
……私のことが好きだと言ってくれる彼の両足がなくても。
私はずっと厳しい寮に住み続けていこうと思います。