迫害されて数十年、ゴミスキル《干渉》が神スキル《因果干渉》に進化したので、ささやかな復讐をする事にした
俺の人生は、十三歳の誕生日に終わりを告げた。
あの日、田舎の小さな町の教会で、スキル授与の儀式が行われた。
いじめっ子のエヴィは《鉄化》スキルで、憧れの王国騎士見習いになれたし、幼馴染のリューズは《聖女》スキルで、貴族の地位を与えられた。
そんな中、期待を胸に儀式を終えた俺に与えられたのは《干渉》。
触れた無機物に、ほんのわずかな力を与えるだけの能力。石をほんの少し動かし、垂らした糸の先を微かに揺らす。ただ、それだけだった。
スキルの強弱は、神からの愛の重さと思われている。つまり、俺は神から見放されたに等しい存在と宣告されたようなものだ。
儀式を見に来ていた町民たちの間から、嘲笑と、軽蔑の言葉が投げつけられた。
俺は、悔しさと恥ずかしさのあまり顔を上げることが出来ず、俯いたまま走って帰った。
数日が経ち、まず父の態度が変わった。
エヴィやリューズのように素晴らしいスキルを授かり、良い生活が出来るようになると勝手に期待していたのだろう。
それが叶わなくなり、何かにつけて俺を殴るようになった。止めようとする母をも殴り、やがて何処かへ消えてしまった。
日に日に、身体中に消えない傷が増えていく地獄のような生活の中で、母だけが唯一の救いだった。
優しい言葉をかけて、抱きしめてくれる。
それだけで俺は十分だった。どれだけ苦渋をなめようと、母を幸せにするためだけに生きようと思えた。
なのに、俺が十七歳の時、そんな母は死んだ。流行り病だった。
俺は生きる気力を失った。
かといって死ぬ勇気もなく、酒場の下働きとして相場以下の薄給で働き続け——三十年。
蒸し暑い夏の夜だった。
俺が、《干渉》スキルで小石を動かして遊んでいると、頭の中に声がした。
『スキル進化条件を確認。干渉回数規定値超過により《干渉》が《因果干渉》進化。起こり得る事象の発生確率への干渉が可能となりました』
飛び起きた。
心臓が踊るように跳ねている。
俺は、部屋の隅に転がっていた空き瓶を見た。
床は少し傾いている。転がる可能性はあるし、止まる可能性もある。
転がる可能性を、ほんの僅かに意識する。
すると、瓶は音もなく転がり、壁に当たって止まった。
次は、テーブルの脚。虫食いが進んでいて、いつ壊れてもおかしくない。今度は、壊れる可能性を意識した。
ミシ、と小さな音を立てて、脚が折れた。テーブルが倒れ、皿が割れる。
俺は息を呑んだ。
力を加えた感覚はない。
ただ、そうしたい未来を選んだだけだ。
スキルの制限も、自然と分かる。
生き物に直接作用させる事はできない。
槍を降らせるような、ありえない事は起こせないし、奇跡のような出来事は、強く拒絶される。ただ——
「事故は、いつだって起こり得る」
胸の奥で、何かが冷えていくのを感じた。
最初に壊すべき場所は、決まっている。
俺が三十年、名前も持たずに働いてきた場所。
酔客の吐瀉物を片付け、割れた皿を拾い、理不尽な罵声を受け流し続けた場所だ。
店主は、悪人ではなかった。
だが善人でもない。
「文句があるなら辞めろ。代わりはいくらでもいる」
それが口癖だった。
実際、俺は辞められなかった。行く場所がなかったからだ。
閉店後の酒場で、俺はいつものように床を拭き、樽を運び、最後に倉庫へ向かう。
酒樽は古い。床板も軋んでいる。
事故が起こらない方が、不自然なほどだ。
俺は樽の一つに触れ、意識を向ける。転がる可能性の方に、ほんの少しだけ。
翌朝。
酒場は、大騒ぎだった。
夜のうちに酒樽が倒れ、床板が抜け、酒が流れ出た。染み込んだ酒は木材を腐らせ、倉庫の床は使い物にならなくなった。
「誰がやった!」
店主は怒鳴ったが、誰も何も言わない。怪訝な顔で互いを見合うだけだ。それもそうだ。鍵は閉まっていたし、荒らされた形跡もない。どこからどう見ても、ただの事故だった。
その夜、俺は部屋で小石を動かしていた。
と、どこかで何かが崩れる音と悲鳴が聞こえた。
最近、地盤が沈んできていると騒いでいた医者の家が崩れでもしたのだろう。
しばらくして、火事を知らせる金が鳴り始めた。
以前から、教会の裏でタバコを吸っていると噂されている神官の火の不始末が原因といったところか。
俺は、たまらず声をあげて笑った。
人々の悲鳴が、愉快な音楽にさえ聞こえてくる。
誰も俺がやったと気付かない。疑いもしない。
酒樽が倒れたのも、家が崩れたのも、教会が燃えているのもすべて——ただの事故だ。
俺と母を見捨てたこの町では、これから小さな不幸が起こり続けるだろう。
俺が死ぬ、その時まで。
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