アフタヌーンティーの紅茶は少し苦い レオンver
お嬢様のアフィア視点も公開中です。
甘さと苦さ低めなアフィア視点を先にみることをおすすめします。
サンルームには、柔らかな午後の日差しが差し込んで、紅茶の水面が光に揺れている。
それを見ているアフィアお嬢様の瞳も光が揺れている。
アフィアは背筋を伸ばし、教えられた通りの順序でカップに手を伸ばした。
指先は以前よりも迷わず、肘の位置も自然だ。
「……入学前よりは、ましになりましたね」
横に立つ俺は、淡々と告げる。
褒め言葉ではない。だが否定でもない。
「“まし”って何よ。素直じゃないんだから」
アフィアはそう言いながらも、どこか満足そうに微笑んだ。
スコーンを割る。気になるほどの音は立てない。
ジャムを取りすぎることもない。
レオンはそれを見て、胸の奥がわずかに緩むのを感じた。
(……十分できてますよ)
誰が見ても、恥ずかしくない。
いや、誇っていいほどだ。
アフィアお嬢様の吸収力は周りと桁違いだ。
1つの指摘で他の所作も洗礼されていく。
近くで誰よりもお嬢様の成長を感じるのが俺の生き甲斐だ。
それでも、口は勝手に動く。
「スコーンは、もう少し静かに割ってください」
「カップを戻す位置が、わずかに外れています」
小言は止まらない。
止めてはいけない、と自分に言い聞かせている。
ほんの一瞬、アフィアお嬢様の指先が止まった。
それを見ただけで、胸の奥がひやりとする。
それでも、止めてしまったら、他には褒め言葉しか出てこない。
アフィアは一つ一つ頷き、言われた通りに直していく。その姿が、以前よりもずっと落ち着いていた。
お嬢様がもう1度ティーカップの紅茶を飲む。
そこに太陽の光が差し込んだ。
ロイヤルブルーの髪が満点の星空のように、紅色の瞳は宝石のように輝いている。
俺の目に映ったアフィアお嬢様はあまりにも神々しい……
彼女がカップを置いたとき、
音は、しなかった。
一瞬、言葉が零れる。
「……綺麗です」
しまった、と思った。
それは執事の評価ではない。
今の言葉は俺の、素直な感情だった。
アフィアが驚いたようにこちらを見る。
喜びなからキラキラした瞳で見られたら、誤魔化しがきかない。
「今、褒めてくれた?」
全身が燃え上がるように熱くなった。
特に顔に熱が集まる。
今の俺は凄く情けない姿だと腕で顔を隠す。
「い、いや……違っ……これは、その……」
言い訳をしたいが何をいえばいいか分からない
いつもならすぐ最適な言葉を思い付くのに今はなにも思いつかない。
ただ思い付くのはお嬢様が綺麗だったから
と言う一言だけ。
そんな俺を見てお嬢様はクスリと笑った
それはあまりにも可愛すぎた。
レオンはすぐに咳払いをし、表情を引き締める。
「ですが、まだまだです」
「お嬢様が目指している完璧な淑女としては、及第点にも届きません」
俺は言い切る。
それが自分の役目だと、分かっているから。
アフィアは少しだけ唇を尖らせ、それから小さく笑った。
「厳しいのね。でも……」
体を俺の方へ向き、微笑みながら、
「レオンにそう言われると、もう少し頑張ろうって思えるわ」
感謝の言葉。
これ以上の言葉はない。
レオンの胸に、静かな痛みが走る。
(……確実に成長していく)
嬉しい。
誇らしい。
同時に、置いていかれるような不安やまだそのままでいて欲しい気持ちが、確かにあった。
本当は、紅茶を注ぐ手を止めて、
「理想の淑女になれてますよ」と言ってしまいたかった。
失敗しても、笑って許したかった。
甘やかして、褒めて、安心させたかった。
俺が成人するまで待って欲しい。
「絶対筆頭執事になって迎えに行くから」昔の俺の決心を思い出した
けれど、迎いに行くのは自分の役ではない。
いつか、
彼女を肯定し愛する誰かが現れる。
だからせめて。
今、この場所では。
厳しくする役だけは、自分が引き受ける。
だから、お願いです。
もうちょとだけ俺と一緒に居て下さい。
レオンは何事もなかったようにポットを持ち上げ、
アフィアのカップに紅茶を注いだ。
昼用のブレンドは、軽く、少し苦い。
「冷める前にどうぞ」
その声は、いつも通り冷静を取り繕っただけだった。
俺が淹れた紅茶は苦いかも知れない




