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二章【マキネッタ】4杯目

お待たせしました。2章の4杯目です。

今回で長い説明パートも終了です。

なお、前回のラストで青山の会話文の括弧が『』でしたが、

以降《》に変更致します。何卒、ご理解ください。

「誰?」

 その答えを求め晴樹と天雫は葉山に視線を移すが、システムを熟知しているはずの制作者本人も「誰?」と疑問符を浮かべている。


「君は誰だ?」

 最初に口を開いたのは葉山だった。

《誰って、お前が作ったアシスタントAIだろうが》

「僕の作った(アシスタント)AIは女性をモデルに開発したはずだが……」

 知り合ってまだ数時間だが、ここまで困惑している葉山を見るのは初めてだった。天雫がカプチーノを誤飲したときも、最初こそ驚いていたもののすぐに切り替え、冷静に対処していた。

《いや、俺は最初からこうだぜ? ああ、こうした方がわかりやすいか?》

 その直後、声だけでなく天雫の視界に三頭身のキャラが現れた。どことなく晴樹に似ている。

「あ、ちょっとカワイイかも」

 天雫は晴樹似のキャラに親近感を抱き始めた。

 だが同時にモニターしている葉山はそれどころでなくさらに狼狽し、

「アバターのデザインまで変更されている…… なんでこんなことに?」

 と、この不測の事態に対応すべく原因の解明に奔走している。

 一方、キャラとして具現化した謎のAAIは「どうだ」と言わんばかりにぬるぬる動きながら自己主張している。

「第一、そんな粗野な性格に作った覚えはないんだが……」

《悪かったな、粗野で》

「なんかこのキャラ、晴樹ちゃんに似てるね」

 天雫の言葉に葉山がハッとする。

「晴樹君、もしかしてカプチーノに触ったかい?」

「え? ああ、天雫に手渡すときに」

「なるほど……」

 皮脂・脂肪などの皮膚分泌物それに古い角質、それらが微量ながら付着していたのか、そして融合過程でそれらの因子が入り交じり、このような結果を招いた。葉山はそう推察した。

「これは想定していなかったな。実に興味深い現象だ」

 葉山は顎に手を置き何度も首肯する。今後の研究課題として取り上げようかと本気で思案を巡らせている。

 一通りシステムのチェックを終えた葉山は概要的に異常が無いことを確認し、アクの強いAAIに問診する。

「モカ、機能面に不具合は無いか? 自己診断ツールを起動して……」

《おい、俺をモカなんて変な名前で呼ぶな》

 三頭身キャラが葉山を指さし憤慨する。

「いや、君にはMilitary Operation Control Assistant の頭文字をとって〝モカ〟という名前が……」

 とってつけたような強引なネーミングだな、と晴樹は思った。

《とってつけたような強引なネーミングなんざいらねぇよ》

 考えていることは同じだった。さすが晴樹の分身だけはある。

「し、しかし……」

 葉山は窮し、キャラの濃いAAIのターンが続く。

《俺にはモカより気品あふれる高貴な、そう〝ブルーマウンテン〟と呼んでくれ》

「ブ、ブルーマウンテン?」

「おうよ」

 キャラはドヤ顔でふんぞり返っているが、宿主の天雫は訝しげに首をひねっている。

「ブルーマウンテン君…… うーん、それだと呼びにくいな……」

 天雫は少し考える素振りをし、ハタと閃く。

「そだ、ブルーマウンテンを訳して青山君。これでいいでしょ?」

《あ、青山……》

「ああ、いんじゃね。青山で」

「やむを得ないな。イレギュラーであるが天雫君のAAIは〝青山〟と呼称しよう。後ほどカプチーノの修正パッチを用意しておく」

《ま、待て。俺はブルーマウン……》

「よろしくね、青山君」

「青山、頼むぜ」

「天雫君をしっかりサポートしてくれよ、青山」

《…………………………》

 このとき〝モカ〟改め〝ブルーマウンテン〟改め〝青山〟は内蔵している膨大な言語辞書で『多数決』『民主主義』の単語に行き着いていた。


 命名式も滞りなく完了し、話しは元に戻る。

「先ほども少し触れたが機密上、紙媒体の説明書は無いんだ。天候の操作、地上監視についての詳しいことは青山に聞くといい」

「はい、わかりました。青山君、教えてね」

《おう、覚悟しとけ》と、青山は親指を立てた。


「晴樹君にはこれを渡しておこう」

 テーブルの上に置かれたのはスマートフォン。キュー社製のハイエンドタイプだった。斜めがけできるストラップも付いている。

「キューのスマホ! しかも最新モデルじゃねえか! 欲しかったけど高くて買って貰えなかったんだよな」

 なんとなく小川家の経済事情が透けて見える気もするがそれはさておき、晴樹が興奮するのも無理なかった。販売即完売で転売ヤーの標的にもされる一番人気の機種が目の前にあるのだ。

「これは開発コード名『サイフォン』 カプチーノシステムの端末でもある。見ての通り、キューのスマホに似せてあるけど中身は全く別物だ。これで天雫君と直接会話することができる」

「なるほど、天雫とのホットラインか」

「もちろん普通のスマホとしても使えるよ」

「マジで! やった! タダでキューのスマホをゲットだぜ!」

 憧れのハイエンドスマホを手にし晴樹は喜びを露わにする。ただ……

「なあ、このストラップは外しても良いか?」

 いつもスマホはズボンのポケットに裸で入れている派の晴樹は馴染みのない肩掛けストラップに難色を示した。

「このストラップもただのストラップじゃないんだ。このストラップは特殊な処理が施してあって、大脳で生み出された微弱な言語信号を捉え、一切を音声を発することなく脳内で通信ができるんだ。機密上、マスターとの会話を外部に聞かせるわけにはいかないからね」

 ここでも未来技術が当たり前のように装備されていた。

 なるほど、そういう理由なら致し方ない。無料で念願のスマホを入手したトレードオフとして、ストラップ付きを受け入れるしかない。

 晴樹はサイフォンを手に取り、画面にタップしてみたが何も映らない。電源入っていないのかと、電源ボタンを長押ししても何も起こらない。

「バッテリー切れ?」

「認証されていないだけだよ。このサイフォンのボタン一つ一つにDNAの識別装置が付いていてね。ユーザー登録した者以外使えないんだ。サイフォンを操作できるのはマスターとマスターがユーザー登録した者だけなんだ」

「じゃ、天雫、早速登録を……」

「待った!」

 突如、葉山が強い口調で制止した。

「晴樹君、天雫君の身に何が起ころうと絶対にあきらめず、守りきることができるかい?」

「な、なんだよおっさん、急にマジな顔して」

「真面目な話だ。晴樹君、このサイフォンの所有者になると、とても辛いことがあるかもしれない。それはコントローラーの存在が大きいほど辛さも大きくなる。それでも所有者になってくれるかい」

《おい、それって、エスプレ……》

「青山!」

 初めて見る葉山の険しい顔。有無を言わせぬ言葉の力だけで青山を黙らせた。

「何か危険なことでもあるのか?」

「絶対に君たちの身が安全である、とは正直言い難い。君たちは軍事機密を知ってしまったんだ。万が一にも、と思ってね。だからこそこのサイフォンは天雫君、君の一番信頼できる人物に持っていてもらいたい」

「あたしは晴樹ちゃんを信じる」

 天雫は即答した。

「実は僕も今朝の晴樹君をみて信頼に値する人物だと思っている。後は晴樹君、君の判断だ」

「今さらだな。もうこの建物に入った時点で腹をくくっている」

 晴樹も返答に躊躇は無かった。

「わかった。このサイフォンは君に託す。絶対に肌身離さず持っていてほしい。いいかい、何が起ころうが手放してはだめだ。天雫君のためを思うなら絶対にだ。そして決して諦めないで最後まで望みは捨てないで欲しい。もう一度言う、絶対に手放しては駄目だ。これはマスターの命を守るものなんだ」

 珍しく葉山は非常に強い口調で言った。

 そして晴樹は力強く頷いた。


 突如、軽やかなベルの音が室内に鳴り響く。すぐさま葉山がスマートウォッチを操作すると、入り口のドアが透明になった。まるでドアが無くなったかのように通路側が見通せるようになり、そこには入構時に対応したマッチョ守衛が直立不動で立っていた。おそらく内側のドア全体が高精細のディスプレイになっているのだろう。

「お忙しいところ失礼致します。葉山博士、お二人のお迎えに参りました」

 彼に葉山の姿は見えないはずだが、律儀に敬礼をして訪問理由を告げた。

「いかん、もう時間か」

 時計を見るや、葉山は急に慌ただしくなった。

「説明の途中ですまないが僕はこのあと会合があってね。今日はここでお開きだ。朝のプレゼンをフイにしてしまったんでね」

 その原因の根源である晴樹は内心チクリと痛み、気まずそうな顔をしている。

「彼が正門まで送ってくれるよ」

 葉山は『右手をご覧ください』のポーズでマッチョ守衛を指し示す。

 お開きと言うことで二人は退室の準備を始める。

「急にバタバタとなってすまないね。カプチーノの使い方についてはAAIの青山に一任しよう。カプチーノの全容は青山が網羅している。もし何かあったら知らせてほしい。晴樹君のサイフォンで僕に連絡がつく」

 アフターサービスも万全のようだ。

 再び葉山がスマートウォッチを操作すると、今度はドアが自動で開いた。恭しくマッチョ守衛が入室して来る。三人が囲むテーブルに着くと再度敬礼をして、

「お二方、正門までご案内いたします」と申し述べた。

 最初に会ったときとまるで対応が違う。明らかにVIP扱いだ。キューにおける葉山の地位と偉功がよく分かる。その客人、それが例え高校生でも自ずと待遇も丁寧になる。

「じゃあな、おっさん」

「葉山さん、本当にありがとうございました。失礼します」

 部屋に残る笑顔の葉山に別れの挨拶をし二人はマッチョ守衛に続き応接室を後にした。


 再び部屋に静寂が戻ったが、葉山はこれから始まる会合への準備に取りかかる。

 そのさなか、研究室側の自動ドアが開き一人の人物が葉山の元に歩み寄る。

「ドクター、そろそろお時間…… あら、ドクターお一人ですか?」

「ああ、美嵐君。天雫君達なら、たった今帰ったところだよ」

 愛用のカバンに書類を詰め込みながら、そう答える。

 美嵐はちょっと遅かったかと落胆したが、その遺憾の理由を葉山に確認する。

「カプチーノの副作用のこと、ちゃんと伝えました? 初めて起動したならなおさら……」

「…………………………あ!」

 詰め込み作業の手が止まり、呆けてしまった。

「ドクター……」

 腰に手を置きジト目で葉山を非難するが、怒りはない。

「まあAAIがあるのでさほど問題は無いでしょうけど」

「いや、それが、ちょっと想定外の問題があって……」

「はい?」

 歯切れの悪い言葉を残し葉山は「天雫君、ごめん」と心の中で謝罪した。

 それこそ想定外の返答に疑問を抱いた美嵐だが、それは後ほど問い詰めるとし、今は主に会合の準備を急かす方が先決である。

「ドクター、少し時間が押してますよ。急いでください」

「そういう美嵐君も会合に出席だったよね? 君の準備は良いのかい?」

「私はこれだけですよ」

 美嵐はポケットから青いヘアバンドを取り出し頭に巻いた。そして自動的にサイズが調整される。

「でも残念ですね。〝もう一人のマスター〟に挨拶したかったのですが」

ここまでお読み頂きありがとうございました。

説明パートは終了です。

次回より学園編となります。晴樹達の日常?を描きます。

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