序章【コーヒータイム】
初心者ゆえ、不慣れな点が多々あるかと思いますが何卒よろしくお願いいたします。
「上島天雫は雨女ー」
「おまえが来ると雨がふるんだよ!」
「違うよ、あたしのせいじゃないよ!」
「雨女ー」
「違うってば!」
容赦ない言葉が幼い天雫に降りかかる。
笑声をバックグラウンドに勢いづいた悪ガキどもは次々天雫を罵った。
天雫も必死の反論を繰り出すが、さらなる笑いを誘発するだけで、その声はかき消されてゆく。
天雫に救いの手を差し伸べるものは一人もいなかった。天雫以外のクラス全員が揶揄する側だった。
理不尽な悪口という稚拙なイジメだが、天雫の心を傷つけるには十分過ぎた。
雨女など極めて非科学的な迷信に他ならないが、小学二年生の天雫にそれを論破する術は持ち合わせていない。ただ、自分は『雨女』じゃない、と繰り返すだけだった。
「あたしは雨女じゃないよ」
「だって、工場見学も遠足も雨が降ったのに、おまえが休んだ運動会は晴れたじゃないか」
「そ、それは…… 偶然だよ……」
雨女の所以とされる事実を突きつけられ、天雫は抗議のトーンを落とした。
「やっぱり天雫は雨女だ!」
「雨女!」
「テストのときは来ていいぞ」
「ばか、テストは雨と関係ないだろ」
「あ、そうか」
野次と笑い声が飛びかう教室内で嘲笑が最高潮に達した。
味方のいない教室内で気丈に振る舞っていた天雫だが……
ついに瞳から涙がこぼれた……
「また、あの頃の夢……」
朝日が差し込むカーテンをおぼろげに見ながら、天雫は目を覚ました。
サイドテーブルに置いてある時計が七時を示し、無機質な電子音を奏でている。
天雫は天井を見つめ、今見たのが夢であることに安堵のため息をついたが、心は沈んだままだった。
レム睡眠時の映像はフィクションでなく、忘れ難い過去の記憶である。
雨女。
それが小学校時代に付けられた天雫の俗称だった。
しかし、それは間違いではない。天雫は天性の雨女だった。
小学校に入学してからというもの学校行事では必ず雨が降った。逆に天雫が休んだとき、雨は降らなかった。天雫自身も事実の積み重ねに雨女体質を認めざるを得ない。
イベント系雨女。いつしか天雫はそう呼ばれるようになった。
そしてそれは高校一年となった今でも変わらない。
年齢が上がるたびに露骨なイジメはさすがに無くなったが、学校行事が近づく度に陰で囁かれているのは知っていた。
上の学校に上がる度に「もしかしたら」とほのかな期待をしたが、雨女体質が改善されることもなく、また、天雫を知る者が語り部となり、忌まわしき『雨女伝説』がつきまとった。
先ほどから無視されている目覚ましをようやく止め、天雫は気だるそうにベッドから立ち上がった。目覚めは良くない。
クリーム色のカーテンを両手で左右に開けると目覚めの悪さを吹き飛ばすような、朝の柔らかな日差しが飛び込んでくる。
一瞬ホワイトアウトした後、目に入ったのは抜けるような青空とアクセントの変わりの白い雲が少しだけ。これから学校に行くにはもったいないくらいの晴れっぷりである。
腰の高さにあるアルミサッシを開け放つと朝の心地よい風がよどんだ部屋の空気を一掃してくれる。わずかにひんやりとしたその風は否応なしに深呼吸をしたくなる。
サッシから上半身を乗り出し、見回してしまうほどの晴天と暑くもなく寒くもない丁度いい頃合いは思わず「いい天気」とつぶやいてしまうほどだが、それでも天雫の心は曇ったままだった。
学校行事がないから晴れている──天雫は本気でそう思い込んでいる。
学校行事のある日こそ、今日のように晴れて欲しかった。
天雫は少し恨めしい目で空を見上げたが、諦めたように首を振り嘆息をもらした。
その目は欲しい物をねだる子どものような目をしている。
雨女天雫の切なる願い。
それは神のなせる業であり、儚い願望なのはわかっている。
今まで幾度となく訴えたが叶えられることはなかった。
それでも天雫は言わずにいられない。
透き通る空を見上げて天雫はつぶやいた。
「天気を自由に、操れたらいいのに……」
ここまでお読み頂きありがとうございました。
※2025/8/22 投稿早々ですがヒロインの名前を変更しました。




