濁り水
僕の家のそばには池がある。
引っ越してきてから気づいたんだ。
見に行ったこともあるけれど、きったない水でとても触れられるもんじゃなかった。
近所の人に聞いた話によるとむかーし、ここらに住んでた女性が池に飛び込んで自死したらしい話を聞いた。
遺体はまだ上がってない。
と言う事は沈んでる??
マジか。
僕はとんでもない場所に引っ越してきてしまった事を後悔した。業者も言ってくれればよかったのに…。
なんか腹が立ってきた事とお腹が空き始めてきたこともあって、さっさと自宅に入る。
一人ご飯を食べながら、さっき聞いた話を考える。
…にしても濁り水は気持ちいいものじゃない。
多分生き物なんかもいないかも知れないと思った。
その日の夜、蒸し暑さになかなか寝付くことができず、エアコンをつけて悶々としていた。
昼間の話が気になって仕方がない。
【ポチャン。ポチャンと流しの蛇口から水滴が落ちる】その音は静まり返っている部屋では大きく聞こえた。
「う〜ん、寝られない。変な話を聞いちゃったから気になって仕方がないや。暑いし。」
僕は布団をめくるとキッチンに向かった。
水の音が気になって仕方がなかった。
しっかりと蛇口を閉めて冷蔵庫から飲み物を取り出して飲む。
部屋はだいぶ涼しくなっていた。
でも目がぱっちりして寝られそうもない。
仕方がないので外を眺めた。
あの池の辺りは確か…街灯立ってなかったよな。
流石に夜見に行く気にはなれない。
怖いから。
明日…そうだ、明日の朝見に行こう。
なぜかそんな気になった。
翌日の朝9時頃に問題の池へと足を向けた。
途中誰かとすれ違ったが、相手の方はこっちを見もしなかったから多分気づいてないだろう。まっ、どうでもいいけど。
5分くらい歩いたら池についた。
やはり水質はいいとは言えない。
濁ってるようで底が見えない。
だけど何故か足が動いて池の方へ近づいていく…。
僕は行きたいなどと思ってないよ?
気持ち悪いじゃん。
などと考えていたら突然足首に何かが触れた。いや、巻きついた?引っ張った?
心臓がバクバクいっている。
怖い。
こんな場所来なきゃよかった。
恐る恐る目を下の方に向けていくとそこには髪の長い何かがいた……。
「ヒーッ!」
驚いて転びそうになったが、片方の足首に黒い何かが巻き付いている為転ぶ事はなかったが、動くこともできなかった。
「だ、誰か!助けて!!」
叫んだが誰もいないこの場所では返事が来ることもなくただ怯えるしかなかった。
掴まれている方の足はビチャビチャに濡れていて気持ち悪い。ヘドロもついていたからだ。
その時遠くから数人の人の声が聞こえてきたので助けてもらえると思い、大声で叫ぶと足首に巻き付いていたものがスルスルするっとほどけて池の中に消えていった。
駆けつけてきた数人の人は僕の姿を見てビックリしていた。だって片足首から下が真っ黒のヘドロでベチャベチャになっており、僕の顔は真っ青になっていたから。
何事があったのかと聞かれたので先ほどの体験話を事細かく話して聞かせたら、皆驚いて辺りをキョロキョロ見ていた。でも池の中に消えてしまったからもう見えないはず…。
なのに…なのに…池の水が突然ゴボゴボという音を出しながら泡を出してきた。
皆固まってその様子を見ていたら、水の中から何かが…黒い何かが浮き上がってきた。
それは昔自死したものの亡骸らしく、骨に微かにつく肉片や髪の毛、見ているこっちが怖くなるほどのものだった。
そうなるともうその場にじっとしているには度胸も何もない人達は我先へと他者を蹴り倒してその場から逃げようとする。
怒鳴られてもへっちゃらのようだ。
僕も追いかけた。
逃げて逃げて逃げ続けた。
そしたらさ、池からだいぶ離れた場所まで皆と一緒に移動して来れた。
ほっとした僕は皆と顔を見合いながらゆっくりとその場を後にした。
それ以降、その池には近づこうとは思わなかったし、結局その後何年かで引っ越してしまったので後がどうなったかなんてわからない。
新しい引越し先は確認して引っ越したから何事もなく平和だ〜。