表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

引越し先で出会った君が俺を救ってくれたはずだった

作者: nani-

スマホ鳴り、俺は家を飛び出した


『謝りたい、いつもの公園にいますぐ!』3日間も無音だったスマホから音が鳴った。必要最低限の荷物だけをもって、道路脇にある落ち葉を踏みしめながら、普段は通らない細道を使って公園へ向かった。

璃央との出会いは突然で、小学生の頃、引っ越してきてきたばかりで、あまり馴染めておらず、公園のベンチでぼんやりしていた俺に、声をかけてきた。「こんなところでぼーっとしてないで、一緒に遊ぼうよ。」その一言に驚きつつ、璃央のキラキラした笑顔に引き寄せられ、気づけば何度も公園に足を運んでいて、無意識に、隣に立ちたいと思うようになっていた。

金木犀の香りが徐々に強くなり公園が見えてきた。

だが1時間待っても璃央は来なかった、

(なんだよ、人を呼び出しておいて、連絡もなしで待ち合わせに来ないなんて、謝る気あるのか?)

今回の喧嘩の原因も、約束していた映画の時間に璃央がこなかったからだ。普段は約束の三十分前ぐらいには待ち合わせ場所にいるのにその日は、四十分も遅刻してきた。忙しい、と言っていたから予定も午後からにしたのに、最近だらけているんじゃないか。

考え事をしていたせいか、いつもよりカラスの声が大きく聞こえた気がした。

あんなやつのために家を飛び出した、そんな事実が嫌だったからコンビニに寄った。元々コンビニに用事があったわけではないから、お風呂上がりのデザートに食べようと思い、アイスとモンブランだけ買って、家に帰った。

冷たい風が吹き始め、ついこの前まで緑色だった雑草を大きく揺らす。

電話がなり確認すると。母からだった、けれど玄関までほんの数メートルだったので電話を無視してそのまま家に入った。

「母さんただいま、今の電話って」

「大変璃央救急で運ばれて今病院だって、もう助かるかどうか分からな、

その言葉を聞いた瞬間、時が止まり少しめまいがした。俺は、その場にコンビニの袋を落とし、家を飛び出した

母が何か言いかけていたか、関係ない、やるべき事がある

最近は日が沈むのが早くなってきていて、辺りはもう暗くなり始めていた

駅に着き目の前に来た電車に乗り込む

時間帯の問題か、あまり人は乗っていなかった。

スマホを手に取り病院の場所を確認し、深呼吸をしてから璃央に電話をかけてみた、不安でいっぱいな頭の中を、少しでも落ち着かせる唯一の方法、早く璃央の声が聞きたくて、でも電子音しか聞こえない、電子音の後になる録音の留守電音声に、胸を締め付けられ、より一層不安は溢れていくばかりで、その気持ちが尽きることはなかった。

最寄り駅に着くと俺は電車を飛び出した。静かな足音が道になり、まるで時間が止まったかのように、駅の出口から病院は近いはずなのに遠く感じて、ただ走ることしかできない。

病院の入口が見えてきたその時、風が急に強くなり、道に散らばった落ち葉を一気に巻き上げると、病院の壁を撫でそのまま空へ消えていった。

璃央の病室の前に着きドアを触ろうとした瞬間、家族の泣き声が聞こえた。さっきまで急いでいたはずなのに、今目の前にあるドアを開けるのが怖くなった、開けたらもう戻れなくなる、このままドアを開けない方が幸せなままでいられるのではないか、ドアを開けなければもう一度やり直せる気がして、また、楽しい明日が来る気がして、ドアノブに伸ばした手が震えていた、どうしても触れることができない。もし、今開けなければ、永遠にその先に進めないような気がして。何度も手を引っ込めるが、また一歩踏み出さなければならない。ようやく、力を込めてドアノブを握り、慎重に押し開けた。

扉を開けると、凍るほど冷たい空気と消毒液の匂いが混ざり合ったものが鼻の奥を刺すよりも先に、俺はその場に崩れ落ちた。

飲酒運転の車にはねられたらしい

「どうして璃央が、、」

ただ泣くことしかできなかった

胸いっぱいの不安が強い憎しみと怒りに変わっていく

医者が来た。

「まだドアをあけないでほしい、」

部屋いっぱいに残る璃央の匂いが逃げてしまう気がした。

母が迎えにきてくれた車の中で俺はもう一度璃央に電話をかけてみた。留守電の声は本物なのに近くで聞こえるのに、もういない。まるで鏡の中にいるかのように、声は直ぐそばから聞こえるのに、もう別の世界にいる、考えるたび、勝手に涙が出てきた。

玄関には、家を飛び出す時に落としてしまったコンビニ袋に、ドロドロに溶けたアイスと、崩れたモンブランが入っていて、それらにまで、責められてるようでその日は、手をつけることができずに、そのまま眠りについた。

葬式場に向かう前に花を買いに行くことにし、家を少し早く出た。静かな店内には、色とりどりの花が並び、甘い匂いが漂っていた。悩み事一つなさそうな顔で、生き生きと笑顔を振りまく花にしつこさを感じ、元気な花がとても憎らしく感じた。

そんな俺を見て店員が優しく近づいてきた。

「こんにちは。何かお探しですか?」

沢山ある花の中から直感で一本選び、あとは適当にお願いした。

柔らかい色が璃央にとても似合うと思う。

式が始まると、そこからはあっという間だった。俺は、帰り支度を終えた璃央の胸元に花束を置き

「またな」

と挨拶をした。

式が終わり、帰りの準備をしていると、璃央の母から「はねられた時に持っていたもので、よかったら貰って欲しい」と、

中を覗くと、小さなメモとリングが入っていた。

【待ち合わせ、遅れちゃってごめん。

誕プレ買ってたんだ。遅れるぐらい悩んだからどうか使ってほしい!】

璃央からのプレゼントを受け取り、ここにいる意味を考え続けた結果、俺は。

4月1日、璃央の誕生日に、今までの出来事が嘘になることを願いながら

家から少し離れたビルの非常階段を上り、錆びついた扉を押し開けると、そこには屋上が広がっていた。ひび割れたコンクリートの隙間から雑草が根を張っていて、フェンスにはツタが絡まり、何年も人が立ち入っていないこの場所は、時が止まっているようだった。

片手には璃央への誕生日プレゼントを胸に抱き

長く伸びる影をたどるように、俺は、迷うことなく柵を越えた

指の間を風がすり抜けていき、まるで何かを掴もうとするように、手が勝手に開く。けれど、そこにあるのはただの空気で、

重力には逆らえず、下へ、下へ、 と加速して

耳に鈍い音が響き、全身に衝撃が走る

1匹のカラスが体の上に乗り肩をつついたが自然に怖いとは思わなかった

土臭い、玄関の鍵閉めたっけ、お母さんに怒られちゃう、今行くからね、明日提出のプリントまだバックの中だっけ、電気つけっぱなしだったかも、お風呂入れてない、来月テストだっけ、勉強してないや、来週から合宿だ、やべ、チームに迷惑かけちゃう

まあ、もういっか、

最後に思い浮かんだのは、璃央の笑顔、手を伸ばしたが触れられず

「今から行く、」

きれいな日だった。

夕暮れの風が、穏やかに吹き抜け 世界は今日も平和なフリをしてる


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ