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妻が私に、お話があります、と言ってきた。

作者: さうざんと
掲載日:2026/06/14

 登場人物。


 夫。騎士で隊長。真面目で曲がった事は嫌い。でも色々融通を利かせるくらいには臨機応変に対応出来る。大柄で筋肉質。強面。妻にぞっこん。なにかあったら権力を使うくらいに好き。商会も経営しているが、趣味的なもの。武具や小物等をあつかっている。良い上司でもあり、部下からは慕われている。一部の部下からは趣味の話もする位に仲がいい。


 妻。貴族の妻として優秀。性格もいい。常識家。夫を愛している。こちらも商会を経営しているが小金を稼ぐ程度。服飾関係で知り合いを相手に幅広く行っている。


 男爵令嬢。未婚の美人で若い女性。結構がめつい。また、よくモテる。大きな服飾関係を中心とした商会を経営しており、国内に数店舗展開している。顔が広く、国の高位貴族から村の村長まで知り合いが多い。


 冒険者たち。能力は一流。よくある冒険者たちと違って常識あり、また、コンプライアンスを守る真面目な連中。とは言え正義と感じたことにはとことん首を突っ込むタイプ。


 夕食の時、妻が笑って言った。


「あなた、お話があります」


 その表情を見て夫の男爵は危ない、と思った。過去にもっとも大喧嘩をしたときの顔。つまり、かなり思い詰めている。彼は何か悪い事をしたかと振り返る。


 夫婦生活は最高とは言えないが良い方だろう。夫婦の会話は多くも少なくもない。多少上の空の時もある。しかし、基本的には真面目に聞いているし、相談事にはちゃんと応えている。子供の事も任せっぱなしにせずに手をかけている。生活も普通よりは裕福な筈だ。二人とも小さな商会を営んでいるし、自分は騎士団の副団長もしている。金銭的に不自由をさせているつもりはない。妻の仕事や趣味も多少干渉しているかもしれないが、文句を言ったことはない。まあ、いい関係だろうと彼は思っている。


「単刀直入に言いますね。あなた、浮気してるのでしょう!」


 妻の一言に男爵は心底驚いた。


「何を言っているんだ。私が浮気? 天地天明にかけてありえない。第一、君以外愛せる女性は存在しない。私が信じられないか?」


 男爵は本気で悲しんだ。妻が彼をそんな意味で疑った事に。確かに見目麗しい女性に惹かれることもある。しかし婚約、結婚と長い間に信頼関係をじっくり育てて来た。少なくとも彼はそう思っている。妻を裏切るなど意識の外だった。


 だが、そんな彼の様子を見ても、妻は表情を変えない。彼女は笑って一人の騎士の名前を上げた。男爵の部下の一人。


「その方の奥様が告白なさったのです」


「何を疑っているんだ? 何もやましいことはない。第一、あいつも妻一筋。君が思う様な関係ではない」


 男爵は堂々として答えた。後ろ暗いことは何もないからだ。勿論部下の騎士とも良い関係を保っている。仕事上や趣味の付き合いもあるとは言え、部下の妻に会うことはない。いや、ないとは言わないがほとんど挨拶程度。話をするなどとんでもない。ましてや浮気など。


 が、妻の追及は止まらない。


「いえ、その方ではないのです。この男爵令嬢、ご存じですよね」


 と、一人のまだ若い令嬢の名を上げた。最近被服関係で商会を立ち上げた令嬢。若いながらもやり手と業界では有名である。


 その名を聞いて彼は少し動揺する。確かに若く、美人。色々相談してもらっている令嬢だ。


 彼の様子を見て、妻は白い目を向ける。


「やっぱりそうなのね。その方から聞いたのだけれど、貴方、最近そちらの商会に連絡をつけるとか言って、長いこと居座ってるみたいじゃない!」


 彼は少し後ろめたくはあるものの、心外だと憤る。


「誤解だ! まさか、あんな小娘に目移りするような俺だと思っているのか?」


「あら、、若い令嬢だってよくご存じね」


「ああ、仕事上での付き合いがあるからな」


 彼は真剣な顔で、妻に弁明した。妻を裏切る? そんな気持ちは存在しない。浮気など概念から存在しない。そう心底思い込んでいる。


「どうだか。」


 が、妻の方は完全に疑っている。多少脳筋で厳ついし、話題は多くない。下手したら剣の話を何時間もするような、基本的に女性を口説く事という概念がない朴念仁だ。しかし、顔は整っているし、男らしく清潔感がある。それなりにモテる男ではあるのだ。妻もたまにではあるが、いまだにときめく事があるくらい。


 彼は、執事を呼んで事業計画書を持ってこさせた。そして妻に見せる。


「今度、彼女の商会と縁があったのでな、騎士のコーディネートを、私の商会と協力して売り出す事にしたのだよ」


 妻はその計画書を、斜め読みしながらつぶやく。


「ずいぶん前からお付き合いしてるのね」


「私の商会で取り扱いがない商品があったからね。以前君の商会にも問い合わせしただろう」


「ああ、あの小物の件ね」


 この国では数年前に女性騎士の登用が行われた。その際に夫が良い小物入れがないか探していたのを妻は思い出した。


「それ以来の付き合いだ。色々手助けしたりされたりしている。と、言っても月に一度会う位だがな。もっとも今度女性騎士用の装備を統一することになったから、今後回数は増えると思うが、会議がほとんどだろう。二人っきりで会うなんて全く無いから」


「え、貴方がそんな装備関係の仕事が出来るの! 騎士装束ならともかく、女性のことなんか、特に装飾なんか分からないでしょ!」


 さらに疑惑の眼差しを夫に向ける妻。


「男爵令嬢の商会と縁があったから、連絡役としてだな。それに君が商会を経営しているから、他の奴よりは話しが分かるだろうと言う人選らしい」


 と、ここで自嘲気味に笑う。


「とは言え、確かに私の能力には余る案件だよ。基本的にあの男爵令嬢の言いなりだ。あの口の達者なお嬢さんにタジタジでな。俺は相手にされてない。まあ、会議のときは部下が何人か連れて行ってるからなんだかんだやれるが」


 妻は呆れて男爵に言う。


「まさか、若いご令嬢一人にむさ苦しい騎士大量に連れて行って交渉してるの?」


「恥ずかしいがその通りだ」


 本気で恥ずかしそうに呟く男爵。


「情けない。私は騎士なのにあのお嬢さんには頭が上がらない。」


 妻はまだ疑念は残っいるようだが、男爵は嘘をついていないとひとまず納得したようだった。


「ああ、今日もその商会との打ち合わせだ。確か予定入ってたよな」


 男爵はさりげなく言う。


「そうだった? あ、私も重要な案件があったの。知り合いに今有望な取引があるっていわれたから遅くなります」


「そうか。まあ、頑張ってな。お互い頑張ろう」


 そして二人は朝食の続きをとるのだった。





 時は変わってその日の夜。


 男爵とその部下たちは令嬢の先導で地下室に赴く。


 彼らは少しにやけていた。これからの楽しみを予想して。


「しかし、大丈夫ですか? このことがバレたら我々は破滅ですよ」


 部下の一人は少し不安そうな顔。しかし男爵の様子は普段と変わらない。


「ならばやめるか? わたしは無理強いはしていない。すべて君の意思だと思ったが。安心してくれ引き返しても何も言わんよ」


「無理です! この快楽を知ったら戻れません」


 にやりと笑う男爵。


「大丈夫だ。この為に彼女に協力してもらっている」


 隣の令嬢は頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。


「私も、皆様が、大好きですから。趣味と実益も兼ね備えていますので」


 頬を染めた令嬢は笑顔で答えた


「すまないな。君には迷惑をかける」


 頭を下げる男爵。男爵令嬢はにこやかに笑う。



「そんなことは言いっこなし。それより男爵、始めましょう。準備は整ってますわ」


「ああ、ありがとう」


 彼らは期待に満ちた様子でその部屋に入っていった。


 暫く時がたち、数人の騎士がやってきた。正確には冒険者パーティー。高レベルで口が固く、護衛も行う優秀な人物たちである。彼らのリーダーは依頼者に話しかけた。


「よろしいのですか、奥様」


「はい、あの人の言うことが嘘でなければそれでよし、そうでなければ離婚します」


「わかりました。とは言え、奥様の疑い通りの様子。男爵も浮気するなんて。しかも気配からすると複数……」


 なかからは楽しそうな声。冒険者は少し戸惑ったが、依頼者の希望通り扉を開錠し、なかに飛び込む。男爵の妻もあとに続いた。現場に飛び込み、証拠を確保する。


 そして彼らは絶句した。


 中にはきらびやかに着飾った人々が、お茶会をしていた。フリルのついたドレス、美しく精巧に作られたアクセサリーに身をつつみ、紅茶をたしなみ、スコーンを手にして。


 外見上は令嬢達の集まりに見えた。そう、中身がゴツい騎士団の連中でなければ。


 中央にいるのは男爵。何人かの部下が周りを囲む。


 その場の全員が固まっていたが、やがて男爵が狼狽する。


「ち、違うんだ、誤解だ」 


 妻はそこで叫ぶ。


「な、何やってるのよ!」


「……どう見ても、貴族の令嬢がやるお茶会ですね」

 

 いいようのない顔で冒険者の一人が呟いた。


 男爵令嬢は、スケッチブックを、取り落として叫ぶ。


「何やってるの!あんたたち!何のために高い金出して雇っていると思ってるの!」


 どうやら冒険者達は男爵令嬢が雇った護衛らしい。


「す、すいません。しかし男爵夫人がここで夫が浮気してると言われて、ぎ、義侠心に迫られてやむなく」


「ホントにそれだけのこと?」


 冒険者の頭は頭をかく。


「報酬も弾んでもらいました」


「あんたら、冒険者ギルドに報告するわよ」


「……仕方ないですが、お手柔らかに」







「騎士になりたての頃、姉を迎えに行ったとき、お茶会の様子を見たんだ。綺羅びやかで、あまくて、かわいかった。あんなドレスを着て見たくなった。甘いおかしも興味があった」


 男爵は、ぽつりぽつりと話しだす。


「俺は、小さい頃から騎士になるように努力してきた。親の期待もあったが、俺自身がそう努めてきた。そしてその目的は果たしているし今も鍛錬を続けている。騎士として、貴族として、夫として、父親として、頑張ってきた」


 妻はそれを分かっていた。真面目で仕事も家庭も完璧とは言わないがちゃんと向き合っている夫だった。


「だが、ある時女性騎士のアクセサリーを手にしたとき、どうしても我慢できなくなって身につけた。すごくうれしかった」


「その時、私、見ちゃったのよ。すごくかわいいと思っちゃったの」


 と、言う男爵令嬢。


「で、悪ノリしちゃって、ドレスとかまで用意しちゃったの。この人真面目で、ちゃんと自分のお金で払ってくれたのよね」


「私個人の資産から出している。男爵領とか、君の商会からは金は全く使ってない」


 妻は少なくとも分かっている。彼の個人資産はともかく、男爵領も彼女の商会も夫が無断で使った形跡はない。


「男爵が少しかわいいアクセサリーつけてたのを、半分無理やり聞き出したのは俺たちです。俺たちも、かわいいもの好きなんです。自分でもやってみたい。そう思いました。お茶会も皆で言い出しました。決して強制されてませんし、むしろ手は出すな、と、言われました。騎士として致命的だぞ、と」


 そうだろうな、と妻は思う。映えある騎士団の団員らがこんな格好をしていたとしれたら国の恥。死罪になってもおかしくない。


「だから、隠してたんだけど……」


 ここで、男爵が口を開いた。妻の名前を呼ぶ。


「私の事は君に全て任せる。かわいいものを身につける以外、如何わしい事はしていない。また、男爵令嬢も部下たちも関係ない。男爵令嬢は私の脅しに屈して色々な便宜を図ってくれたのだ。もちろん私理由の離縁をしてもらって構わない」


 妻は顔を背けると、一言言った。


「ごめんなさい。考えさせて」


 そう言って、妻は部屋を出ていった。後を追う男爵令嬢。


 以外と妻の足は速く、それでも男爵令嬢のほうが若いからかすぐに追いついた。


「奥様、男爵のこと、悪く思わないで下さい。半分は私が悪ノリしたようなものです」


「あなたが?」


「はい。私、趣味で物書きしてまして、彼を見ていたら創作意欲がかきたてられます。彼を参考にした小説すごく売れてるんですよ。私が書いた挿絵もつけて」


「……」


「でも、彼、あなたにベタ惚れなんですよ。いつも大好きだって惚気てますし。あきれ返ってます」


「……」


「だから、彼のこと、隠し事はしてたけど、悪い人じゃないんですよね。許してあげて下さい」



 その言葉に、妻は思いのたけをぶちまけた。


「きぼちわるい」


「へ」


 妻は青い顔をして走り出した。


「きぼちわるい、きぼちわるい、きぼちわるい、きぼちわるい、きぼちわるい、きぼちわるい、きぼちわるい」


 そう言い続けながら。


 妻の中では色んな感情が渦巻いていた。


 気持ち悪いと言う感情が止められない。しかし男爵に対する信頼感、愛情、親愛、誠実さなど、快く思うものも多数を占めている。長く作り上げてきた関係は崩せない。が、それを超える勢いで気持ち悪さが湧き出てくる。


 妻は、その感情で荒れ狂いながら夜の街を走ったのだった。


 


 


「ああ、もうだめだ。妻に離婚される。仕方ない。俺が悪いんだから。せめて男爵令嬢と部下たちに責がいかないように頼まなければ」


「副団長。安心して下さい。大丈夫です。奥様は分かって下さいますよ。最悪の場合でも貴方と一連託生。最期までお供します」


「何を言ってる。お前らは無関係。男爵令嬢は脅されただけ。お前らにも家族がいるんだ。幸い俺には子供がいる。男爵家は絶えん」


「副団長!」


「……奥様の様子を、見ると最悪のシナリオになりそう。どうしよう!男爵を犠牲にしてやり過ごしたいけど、挿絵と小説があるから。結構売れてるしやばいわ。どうしよう。かといって奥様を亡き者にしたら男爵が何するか分からないし……」


「きぼちわるい! でもいい人なの! でもきぼちわるい! でもいい夫なの! でもきぼちわるい! でもいい父親なの! でもきぼちわるい! でも愛してるの! でもきぼちわるい! どうしよう?」




 夫婦の関係があっさり崩れ去る様を書いて見たかったんだ。男爵はスパダリ。奥様と男爵令嬢は普通の悪役令嬢クラス。(つまり能力高い)


 中世の常識で凝り固まった世界の為に、ジェンダーレスは受け入れられないと言う設定。現代で言えば、品行方正な会社重役が信頼する部下と共にす◯◯◯やってる所を見た良妻賢母。と、言えば分かるかな。がんぷらでもいいけど、それじゃ弱いのよね。

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― 新着の感想 ―
あ~ま~アレだよね?( ̄▽ ̄;)普通に下位とは言え貴族の教育受けて、まともな感性してたら到底受け入れられない趣味ではあるよね?( ̄▽ ̄;)奥様に逃げられないように頑張れ~( ̄▽ ̄;)
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