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全てを押し付けられた悪役令嬢は逆行したのでこの国を救います!  作者: 折巻 絡


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 結局あれからどうしたらいいかわからず、ひとまず魔術士からの『経過観察』は受け入れることにして私は兄と共に馬車に乗り家に帰ってきていた。今日の、先ほどの話をすることはお互いにどこか気まずく、道中は領地での最近の流行などの他愛のない会話をしていた。

(それにしても大変なことになってしまったわ……)

 自室のベッドに腰を掛け、溜息をついた。壺に関しては何か特別なことが起こったかもと思っていたが、聖女かもしれないだなんて。まさか自分にそのような力があるとは少しも想像していなかった。先ほどは『聖女』という言葉に動揺して取り乱してしまったのだが、聖女の存在は国にとって喜ばしいことであり、私本人としても聖女になれる可能性があるというのは本来喜んでいいことなのだ。

 ただ、よく考えてみるとそもそも聖女とは具体的にどのようなものなのか私は詳しく知らない。一般的には『国の象徴となる聖なる女性』とされているが、それは実際にはどのような存在で、何をするのか。当事者になる可能性があるこの状況でそれがわからないのはよろしくないだろう。知らないままではどうすべきか判断できない。

(まずはきちんと調べる必要ありそうね)

 実際に会って話を聞いてみたいが、仮に複数人存在するとしてもあの時の未来では『聖女』の少女以外の聖女については会ったことも聞いたこともない。あまりにも稀少な存在なのか、国に秘匿されているのか。どちらにせよ会うことは難しいと思われる。あの少女に会うのも学園入学の時だ。

(王族ならば詳しく知っているはず。……でも、まずはお父様に聞いてみましょうか)

 おそらく今日の結果は既に王族に伝わっている。もし私が本当に聖女だった場合、今後彼らとどう関わることになるのかわからない今、あまり迂闊な行動をして変に目をつけられたくはないのだ。

(本当はルカ様に聞くのが良いのかもしれないけれど……)

 彼ならば例え教えてくれなくとも聞いた私が不利になることにはならないだろう。ただ、それは少し躊躇われた。今まで王族にとって聖女の存在は喜ばしいものだろうと思っていたのだが、私が聖女かもしれないと言われたあの時の彼の様子からはそれが感じられなかったのだ。あの表情はどちらかというと喜ぶというよりは、

(困ってた……?)

 だとしたらそれは一体何故――? その時コンコンと控えめにドアをノックする音が私一人の部屋に響き、深いところを彷徨っていた思考が中断される。すぐに「どうぞ」と声を掛けると静かにドアが開き、そっと私付きの使用人であるユミィが顔を出した。

「あっ、お取り込み中に申し訳ございません、お嬢様。そろそろお食事のお時間ですよ」

 少し遠慮がちな彼女の言葉で壁の時計を見ると確かにもう夕飯の時間だ。なんと自室に戻ってきてからもう2時間は経っていた。それほど考え込んでいたのだろう。

「……もうこんな時間なのね、すぐに向かいますわ」


 食事の席についた私の目の前に並んで座っている両親の機嫌は驚くほど良かった。そしてなんとなく味がしない食事を摂りながら私は2人の言葉に眩暈を感じていた。

「ははは、まさか我が侯爵家から聖女が生まれるかもしれんとは。いやはや、わからないものだな!」

「そうねぇ。うふふ、おめでたいことなのだからきちんとお祝いしなきゃね」

「あの、お父様、お母様。まだ決まったことではありませんので……」

 どうやら既に国からの魔術伝令が届いていたようで、私が聖女かもしれないという事実を知った2人はあからさまに浮かれていた。普段と違って妙にニコニコと笑っている彼らの顔を見た瞬間に嫌な予感がしたが、案の定であった。しかも父はもう既にかなり酒が入っているようで顔が赤らんでいたため、私は少しげんなりしながらもある程度は話を合わせることにした。酔った父は機嫌を損ねると大変なのだ。

「まだ決まっていないならば問題なく聖女になれるよう、より一層努力しなさい。期待しているぞ、ベルティール」

「は、はいっ」

 勢いで返事をしてしまったが、実際に努力でどうにかなるものなのかはわからない。魔術適性が生まれつきのものなら聖女としての力もそうなのだろうか。それにそもそも聖女になりたいのかと聞かれたらうまく答えられない。

(そういえばあの時の『聖女』は魔術の特訓とかはしていたのかしら)

 彼女との関係はあくまでも同じ学園の生徒同士だった。ディオン殿下の件で少し関わることはあったものの、『聖女』として彼女が何をしていたのか、あの時の私はあまり興味がなかったため知ろうともしなかったことを思い出す。

(もし、また会えたのなら今度はきちんと話をしてみたいわ)

「……どうしたベルティール。さっきから上の空だが」

「いえ、少し考え事をしておりましたの。ところでお父様、そもそも聖女とはどのような人なのでしょうか」

 私の質問に対して「なんだ、そんなことも知らないのか」と言った父は酔いが回った上機嫌のままに聖女について語り出した。その内容はおおよそ一般的に言われている通りの『国の象徴』、『稀有で聖なる力を持つ』などであったため拍子抜けしたが、その後に続けられた「実際にお会いした時は……」との言葉に私は興味を持った。

「お父様はお会いしたことがあるのですか!?」

「あ、ああ。昔……10年以上前だったか、1人だけだがお会いしたことがある。その時には既に大分ご高齢の方でな……残念ながら5年くらい前に亡くなられたようだ」

「……まあ、そうですの」

 できれば会ってみたかったのだが、亡くなっているならどうしようもない。私はがっくりと肩を落とした。

「もうお会いすることができないのは残念ですわ。どのような方だったのですか?」

「物腰が柔らかくて穏やかそうな御婦人だったよ。詳しくはわからないが、なんでもその方は『人の未来を見る』ことができたそうだ」

「未来を!?」

(えっ、聖女ってそんなことまでできるの!?)

 人の未来を見る――それほどのことができるのは確かに稀有な力だろう。だとしたら国がその力を求めるのも頷ける。

(壺を直しただけの私にそんな凄い人と同じような力が本当にあるのかしら……?)

 私に聖女の力があるかもしれないだなんて、やっぱり何かの間違いなのではと思ってしまう。

 ここまでの両親の様子から考えると、今以上に王国での地位を高めたいという思惑がある我が侯爵家として、私が聖女になることは願ってもないことなのだろう。国が求める力を手に入れれば、政治的にも優位に立てることは間違いない。それは貴族にとって大切なことである。

「ベルティールが聖女になったらウチはもう安泰ね。うふふ、ねぇ、ライオネルもそう思うでしょう?」

「あ、えーと、そうですね。……僕もそう思います」

「あら、あなたは嬉しくないのかしら?」

 今までずっと存在を消すように黙って食事をしていた兄は母から急に話を振られて困ったように同意した。そんな彼の様子に母は目敏く反応する。

「いえ、そんなことはありませんよ。ただ僕はベルがもし聖女になったらこれから大変なんじゃないかと、少し心配なだけです」

「お兄様……」

「あらあら、ライオネルは心配性ね。大丈夫よ、ベルティールはこんなにも優秀なんですもの。やればなんでもできるはずよ」

 それはちょっと買い被り過ぎではないだろうか。最近は侯爵家の教育での課題をわざと間違える回数を減らしているが、それでも『前回』の時と同じか、少し良いくらいの出来栄えだと思うのだが……母から見たら違うのだろうか。

「……そうですね」

 兄は母の言葉にただ一言同意をして、静かに食器を置いて立ち上がった。

「では僕はそろそろ部屋に戻ります。今日の勉強の続きがしたいので」

「そうだな、お前にはこの侯爵家を継ぐ者としての責務があるのだからな。それにはまだ力不足であることを理解しているだろう。もっと努力をしなさい」

「……はい。重々承知しております」

 兄は父から掛けられた言葉に対してどこか固い声で答え、こちらを振り返らずに早足で出て行った。


「――あ、そうそう。ベルティールに『大事な話』があるのだけれど、聞いてくれるかしら?」

「? なんでしょうかお母様」


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