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全てを押し付けられた悪役令嬢は逆行したのでこの国を救います!  作者: 折巻 絡


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 今日は夜までずっと雨が降るようで、屋外で行ういつもの魔術教育はお休みだった。父からたまにはゆっくり過ごしたらどうかと言われたため、お言葉に甘えて侯爵家の教育についても休みを貰い、今は自室で寛いでいる。

(何も予定がない日は久しぶりね)

 あれから数日が経ったが、その間にニコラに会う機会があり、彼から謝罪と感謝をされた。何度も頭を下げる彼に別に気にしなくて良いという旨の言葉を掛けたところ、彼はどこか憑き物が落ちたようなさっぱりとした表情で笑っていた。塞ぎ込んでいたらどうしようかと思っていたが、この様子ならもう大丈夫だろう。

 壺の件について隣国から許してもらうための『条件』について聞いてみたところ、なんだか曖昧な答えではぐらかされてしまった。とはいえ彼の言葉からそれもどうにかなりそうであることはわかった。内容については具体的には教えてもらえなかったが『条件』は貿易関係のものらしい。最近、例の隣国では他国との貿易摩擦が問題になっていると父から聞いたことがあるのでそれの関係だろうか。

(それにニコラ様が関わっているのなら、もしかすると宰相様からの後継者教育の一環でもあるのかしら)

 おそらく隣国からの『条件』は『宰相家』へのものだ。それを宰相がニコラに課題として与えることで彼に実務的な経験を積ませているのではないだろうか。これはあくまでも推測ではあるが、もしそうなら彼もまだまだ期待されているということだ。後は彼自身の努力次第である。

(ニコラ様の件はひとまず解決したとして……次のことについて考えましょうか)

 あの時の未来でこの先に起きたことを整理しようと思う。私は机の引き出しの奥から1枚の紙を引っ張り出す。巻き戻ったあの日に書いたものだ。そしてそこに書かれた壺の事件以降の部分を確認する。



 10歳

 宰相家、隣国の国宝が壊れる


 13歳

 宰相家、国宝破壊の隠蔽が隣国にバレる


 14歳

 国、隣国と国交断絶

 宰相家、国外追放


 15歳

 私と聖女、学園に入学

 王国 国庫が徐々に怪しくなってくる。

 聖女 第一王子と恋仲になる。

 …… ……

 …… ……



 壺の件はおおよそ解決したのでこれによる隣国との外交問題は起こらないだろう。宰相家は国外追放されず、宰相が代わることもないため、滅茶苦茶な外交を行い国庫を危機に晒す可能性も低い。そうするとこれから気にすべきことは15歳での学園入学と『聖女』ということになる。

(あと4年以上あるわね。それまでは何も起きないのかしら)

 だとしたら良いのだが、現実はあの時とは違う。私はディオン殿下と婚約していないし、宰相家はこのまま地位を維持し続ける。様々な状況が変化している分、それに伴い別の問題が起きてくるのだろう。

 ちなみにディオン殿下の婚約者はまだ決まっていない。現時点で候補者は3人いるのだが誰もまだ脱落していないためだ。このままだと決着が学園入学までもつれ込むのではと噂されている。遅くともディオン殿下の学園卒業までに決まれば良いらしいので問題はないのだが。

(『聖女』が学園に入学した時にどうなるか、よね)

 あの時はディオン殿下と『聖女』が恋仲になり、学園内も王城内も様々な諍いが起きて荒れてしまった。それはきっと婚約者が私でなくとも、まだ決まっていなくとも十分に起こり得ることだ。もし2人がまた恋に落ちるなら、今回もきっとそうなる。だがよく考えたらあの時のディオン殿下は私から逃げるように『聖女』と恋仲になった。ならば今回はどうなるのだろう。そもそも恋仲にならない可能性もあるのではないか。

(これはもうその時にならないとわからないわね)

 今考えても仕方のないことだろう。気を取り直し、15歳の時に起きた出来事の続きを見る。



 15歳

 私と聖女 学園に入学する。

 王国 国庫が徐々に怪しくなってくる。

 聖女 第一王子と恋仲になる。

 王国 第一王子の落馬事故が発生、おそらくこの頃から第二王子立太子の策略が始まる。

 聖女 第一王子を献身的に支える。

 王国 第二王子暗殺事件発生、関係した重役の処刑が相次ぐ。



 最後の一行が目に入って、息が止まった。

(ルカ様……)

 あの時の未来で起こった事件。それはどれも悲惨な結末に繋がるものであったが、その中でも私にとって衝撃的だったのはディオン殿下の事故とそこから派生したルーカス殿下の暗殺だった。


 ――無意識に強く紙を握っていた手が震える。

 この先にあの事件が待っている可能性があることを、心の底ではわかっていた。ただ、ずっと見ないふりをしてきたのだ。


 あの時の未来において義弟になるはずだった彼との関係は、実際のところほとんど他人だった。だけど今は違う。彼がどんな顔で笑ったり怒ったり悲しんだりするのか、何が好きで何が嫌いなのか、いつも適当な癖に大事なところでは案外しっかりしていることとか、たくさんのことを、もう知っている。知ってしまった。巻き戻って、あの日に出会ってから今まで積み重ねてきた日々は私にとってかけがえのないものになっていた。それが、あと5年も経たずに失われてしまうかもしれない。そのことが今は何よりも恐ろしい。

(……大丈夫、まだ起こっていない。そんなこと、起こさせはしない)

 そう、まだ起こっていないのだ。だからこれから回避できるよう行動していくしかない。でも、

(壺が割れた時みたいに、避けられなかったら……)

 もしも、いくら頑張っても、それが変わることのない運命だったとしたら――

(――そんなことない!)

 両手で頬を強く叩いて暗い思考を止める。悪い結果を考えてはだめだ。弱気になってしまう。だけど逃げることはできない、これから向き合わなければいけない。ならば、

(今、できることを考えましょう)

 タイムリミットは15歳の冬……実際には学園入学までだろうか。それまでにできる限りのことをしよう。今はまだ行動できることはあまりないが、少しだけでも情報を集めておきたい。

(そういえばルーカス殿下の派閥ってあるのよね? 今どうなっているのかしら)

 あの時の未来では彼の派閥が立太子を画策したことにより危険視され彼は暗殺されてしまった。なので派閥自体は存在すると思われるが、今のところ全く情報がない。どうにか知る術はないだろうか。まずは兄にそれとなく聞いてみるのが無難だろうか。そもそもあの時、当の本人は王太子になりたいと思っていたのだろうか。そして今の彼はそのことについてどう思っているのだろうか。でも、

(――そんなこと、聞けるわけないじゃない)


 気を紛らわすように目を向けた窓の外では大粒の雨がとめどなく降り注いでいた。



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