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全てを押し付けられた悪役令嬢は逆行したのでこの国を救います!  作者: 折巻 絡


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11 番外編1 行き止まりの未来

第一王子視点で主人公が処刑された後の未来の話。

しっかりバッドエンドなので注意です。

 

 その日、国中に惨劇を齎した『悪女』が処刑された。


 その悪女の名はベルティール・ド・ヴァロトア。この国の第一王子である私の元婚約者で、尚且つ国を破滅に導かんとした悪魔であった。


 この国は歴史ある街や文化、実り多く豊かな自然、そして多くの人々が健やかに笑って過ごせる素晴らしい国だった。私はそんなこの国を深く愛していた。それが彼女の悪魔の様な所業により、たったの数年間で全てが蹂躙され破壊され尽くしてしまったのだ。到底許されるようなものではなかった。我が王国の懸命な調査によりそれらの原因として彼女の存在が突き止められ、その悪行の全てが白日の元に晒された。

 その内容はあまりにも酷いものだった。事故で傷を負った私と愛し合っていた『聖女』に見苦しく嫉妬し、陰湿な暴力を振るい国外に放逐。また、侯爵の暗殺と共に実兄を操り、私欲により侯爵領の財政を圧迫することで民の暴動を引き起こしたという。それだけでなく、戯れに病原体を撒き散らすことで大規模な家畜の伝染病とそれによる飢饉を発生させ、隣国に凶悪な魔獣を送り込むことで民を襲わせ戦争を引き起こすことすら行ったというのだ。そして、私の派閥の重役共を唆し、我が弟を暗殺したのも彼女だったというではないか!

 煮えたぎるほどの憎悪で視界が真っ赤に染まる。重役共も殺しても殺しても見つからなかった元凶、それがまさかこの女だったとは!

 壇上での最期の祈りを捧げさせ、その悪魔の処刑は執行された。

 ああ、許されるものならばこの手で始末したかった。


 そして全ての元凶となった悪女を民の前で大々的に断罪したことにより、我が王国は降り注ぐ数多の難から逃れることができた。……訳がなかった。


 元凶となる『悪』を討ったところで、一時的に彼ら民の溜飲が下がっただけだった。戦争と度重なる飢饉で地を這うほど困窮した今の暮らしがそう易々と上向くことはない。そのことに気がついた彼らの苛立ちは激しく湧き上がり、そしてその怒りの矛先は今度こそ我ら王族に向けられることとなった。明らかな失策であった。そしてそれに気がつくのが遅すぎた。日を追うごとに大きくなる民の声といつどこで起こるかもわからない暴動に怯え、次の時間稼ぎの策を練り始めた父には酷く失望した。

「父上。次にその責任を取るのは、貴方です」

 私はそう言って彼に刃を向けた。胸を貫かれた父は絶命し倒れ伏す。逃げようとした母もその場で切り捨てた。怒り狂う民を納得させるにはこれが最善だろう。何度も策を誤る無能な指導者など民たちにとって必要のないものだった。

 返り血で汚れた手をじっと見つめる。私の名はディオン・ド・リュドルシュバーグ。この国の第一王子として生まれた私には『国をより良くする』という大きな責務がある。生を受けたその時から、それは重い鎖のように私を絡み付き私の全てを支配していた。それは息が詰まる程の重圧であった。

 しかし私には仲間たちがいた。同じ方向を見て、同じ方向へ歩いて行ける。私はそんなかけがえのない人々がいてくれたからこそ、彼らのその力によって様々な面から支えられてここに立っていたのだ。だが、今や頼りになった宰相一家は追放され、可愛い弟は殺され、愛した聖女はどこかへ消え、いつの日か笑い合った友は民に追われ国外へ逃げてしまった。民たちも私たち王族に反旗を翻そうとしている。そして両親はたった今、私が手にかけてしまった。

 耳が痛くなるほどの静寂がこの場を支配する。この城の中に私以外の気配はなくなった。私にとって家族と呼べる者も、友と呼べる者も、皆、居なくなった。これから誰を支えに生きればいいのだろうか。私にはもう愛する者など存在しない。私は1人きりだ。ああ、どうか、――どうか私を置いていかないでくれ。


 堰を切ったように溢れ出した私の慟哭は、主を失い暗く静まり返った王の間に落ちていった。


 どれだけの時間が経ったであろうか。私はそこで、ふと思い至った。まだ私に残されたものはある。ここにあるではないか。空っぽの玉座に目を向ける。まだ私にはこの国があった。父である国王亡き今、王太子であった私が王になる。今日から私がこの国の王なのだ……。私はゆっくりと玉座に、先ほどまでは父が座っていた玉座に近づく。そして、崩れ落ちるようにそこに腰掛けた。


「ふ、ふふ」

 笑みが溢れる。無意識のうちに口角が上がる。

 ああそうだ、こうすれば、良かったのだ。


 狂い出した歯車が歪に噛み合った音がした。


「……ふ、っふふ、はは、ははははははは!」

 腹の底から声を出して笑ってしまった。心底可笑しかった。私は何故このような簡単なことを思い出せなかったのか!


 ああ、そうだ。ここは、私の、私だけの国だ! そうだ。民も、土地も、全て私のものだ。なんと素晴らしいことだろう。私はその全てを愛そうではないか。湧き上がるこれは『歓喜』だ。そうだ。私のものだ。だから、私が守ろう。もう誰にも奪わせない。私以外の何人たりとも触れることは許さない。もう失うことなど何もないのだ。私とこの国に刃向かう者など全て切り捨てて見せよう。そうだ、最初からこうすれば良かったのだ。愚鈍な支配者など要らなかったのだ。早く消し去って奪い取ってしまった方がずっとずっと良かったのだ。ああ、私の民たちよ、すまない。気がつくのが遅くなってしまったな。皆のためだ、まずは粛正を行おうか。手始めに愚かな者共を全て始末しようか。誰の異論も認めない。私に全てを委ねるがいい。私が全てを選び、私が全てを決めよう。何処かに逃げた者も必ず見つけ出す。私から逃れられると思うな。民よ、私を信じるのだ。大丈夫だ、今度こそ、私の愛する者たちは、私の手で、私が全て守ろう。そうだ。野蛮な隣国に奪われた土地も、民も、全て奪い返そう。どんな手でも使って見せよう。


 私の、私だけの愛しい国。


 私はこれからこの国を統べる絶対的な王として君臨しよう。ああ、民よ、私の愛する全ての者よ。

 私と共に素晴らしい未来を生きようではないか! 身体中が震え上がるほどの興奮が脳を支配する。濁流の様に激しく溢れ返ったそれを止める者などいるはずもなかった。


 狂気に濡れた笑い声が、全ての時が止まった王城に響いていた。


 そして私はこの日、国の新たな王として名乗りを挙げた。

 私の、私だけの王の間。その玉座に腰掛けた私は目を細め穏やかに微笑む。これでこの国は全て私のものだ。私は、きっと、ずっと、これが欲しかった。私が、この手で、この国の全てを大切に愛して愛して、ずっと愛して、支配してあげようではないか。


 いつか『狂気の独裁者』として愛する民たちに討たれるまで。



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