表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき2

不安感

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくはちじゅうに。

 


 ギィ―と、床が軋む。

 一歩。

 一歩。

 歩くたびに、悲鳴を上げ、侵入者に対し、出ていけと叫んでいる。

「……ねぇ…」

「なに?」

 2人一列に並び、ゆっくりと進んでいく。

 持ってきた懐中電灯は、足元の安全確保のために、常に下を向いている。

 もちろん、室内にはそれ以外の光はないので、基本的には真っ暗だ。

 そのせいか、前を歩く友達の顔がよく見えない。

 身長高いしな……。

「……帰ろう?」

「今更?」

 そう鼻で笑いながら言うわりに、及び腰なのは気のせいだろうか。

 歩くの遅いし……。

「幽霊屋敷って言ったって、何もいないでしょ」

「……」

 地元で有名な、幽霊屋敷―と言われる一軒家。

 なんで、ここに来ようということになったのか、全く記憶にないが。

 大方、何かの勢いで行こうとなって、こんなことになっているんだろう。

 あるあるだ。若い時には。―もういい年のはずなんだけどね。

「……」

「……」

 屋敷というよりは、見た目はどこにでもあるような一軒家なんだが。

 手入れのされていない庭から生えた、鬱蒼とした草やツタ。

 所々、ひびの入った外壁。

 見える限りで見ても、はがれて落ちている屋根の瓦。

 周りを囲む石塀も、かけていたりする。

「……」

「……」

 歩く床は、悲鳴を上げているように、限界のようだし。歩く場所を間違えれば、床が抜けて怪我をする。

 室内の壁も、所々はがれているようだ。暗くて模様までは分からない。

 天井は……どうやら電気がぶら下がっているようだが、それ以外はあまり見えない。電気なんて通っているはずもないし。

 窓は締め切られているが、ガラスが欠けているところも見受けられる。

 そこにかけられたカーテンは、なぜかきれいなのが不思議でならない。

 これだけ荒れていれば、千切れていてもおかしくなさそうなのに。

「……」

「……」

 一歩。

 一歩。

 進む度に、足音だけが耳に届く。

 お互いの声は何も聞こえない。

 シンとした中で、息遣いすら聞こえない。

「……ね」

「っ!……なに」

 飛び跳ねたことは、見なかったことにしよう。

 前を歩いているから、何かしらの恐怖はあるのだろうが、あまりに息が詰まりすぎてもよくない。こういうのは、静まり返っていると、かえって良くない。―気がする。

 分からないが、なんとなく。

「……なに?」

 声を掛けたくせに、すぐに反応しないのが気に食わなかったのか、はたまた驚いたことに腹が立ったのか、怒気の滲んだ声が聞こえる。

「…いや」

 嫌な予感。

 ざわざわと。

 歩くたびに…景色に何か……違和感を感じ始めた。

 何だろう……なんというか。

「…何?」

「……」

 黙り込んだことを不審に思ったのか、くるりとこちらに体を向ける。

 はた―と、視線を友達の視線に合うように向ける。

「……っ?」

 だが、そこには暗闇が広がるだけで、顔は見えない。

 暗かったにしても、懐中電灯の奥だとしても、こんなに見えないことがあるか?

 首から上が、暗闇に呑まれるなんてことがあるか。

「……どうしたの?」

「……」

 足が無意識に後ろに下がる。

 おかしい。

 よく考えれば、この声の主の友達は、ここに居るはずがない。

 あの子は、ここから遠く離れた都会で1人暮らしをしているはずだ。

 休みでもない限り、こんな田舎にはいない。

「……なになに??」

「……」

 更に考えてみろ。

 こんな所に、そもそも。

 幽霊屋敷なんてない。

「……っ!!!!!!!!」

 気づいた瞬間、叫ぶ間もなく走っていた。

 床が抜けるとか、そんなこと気にもならない。

 窓が欠けてるとか、電気がないとか、カーテンは綺麗だとか。

 何も、何も。

 ただひたすらに、この家から。

 この場所から、逃げなくてはと思った。

「――――――――――――





 ―――――――――――――――――――――っ!!!!!!!!!!」



 ばっ―!!と、勢いのまま体を起こした。

「―――」

 なぜか息が上がっている。

 気持ちの悪い汗が、肌を伝う。

 何だろう。

 酷い夢を見た気がする。

「―――」

 運動した直後のように、心臓がバクバク言っている。

 落ち着かない。

「―――」

 無意識に、ぎゅうと体を抱えていた。

 汗のせいで冷えるのか、体が震える。

 息が整わない……落ち着かない。

「――

「――

「――

「――


「―にぃぁ」


「――!?」

 一向に落ち着きを取り戻さず、カタカタと震えていたところに。

 小さくか細い声がした。

「……おいで」

「―んに」

 家で飼っている黒猫だ。

 いつの間に部屋の中に入ってきたのだろう。

 いきなり飼い主が起きて、こんなことになっていたらそりゃびっくりするな。

「ごめんね……」

「――」

 スリと、慰めるように、体を寄せる。

 おかげで、ついさっきまでのあれこれが嘘のように無くなった。

「ありがとう」

「んんー―」

 そんなことはいいから、早くなでろと押し付けてくる。

 ぐいぐいと甘えてくるその姿に、なぜか酷く安堵した。



 お題:違和感・幽霊屋敷・猫

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ