よろしく、人工知能
『超天才音楽家Imayの新曲「呼吸」明日リリース』
「おい、まだ歌詞書き上がってないぞ!」
スタジオは混沌と化していた。Imay氏が自分の部屋から出てこない。メッセージに既読は付くので生きてはいるのだが、歌詞が一向に書き上がらない様子だ。
バタンッ!
ドアが勢いよく開いた。
「書けたんですか!?」
プロデューサーが詰め寄る。
「AIだ、AIに頼ろう」
「へ?」
よろしく、人工知能
時は20XX年。AIの進歩は人間の想像の域を遥かに超えていた。もはや、AIを見ずに一日を過ごすことは不可能といったぐらい浸透している。だが、人々は今日AIをどのくらい見たか、どこで見たか聞かれると分からない程度にAIは日常に溶け込んでいた。AIに奪われた職業は無数に存在する。工場はほぼ完全に機械化が進み、工場長独りでも切盛りできる様になった。飲食店もAIの方がミスがないと話題になり今では念の為に店長がいる程度だ。調理から配膳から何からAIが出来る。翻訳や音声認識といったシステムは早くに整備された。逆に未だに奪われていない職業も勿論ある。人間だって知性はあるのだから全く自分で考えなくなった訳では無いから、AIと一緒に仕事をすることも出来る。人間はプライドもあるため、AIを使う迄も無いことは自分でこなす。しかし、AIには出来ないことがある。それは芸術だ。勿論、AI技術は発展し続けているし、音楽を作ったり、小説を書いたり、絵を描いたり出来ない訳では無い。唯、"センス"と言う面で語るとなると意外にも人間は凄い。いや、人間が作っているからこそ人間の好みに合うのかもしれない。どちらにせよ、零から一を作れる人間と一を学んで百を作るAIは又別の次元なのだ。そして今、そんなAIが作った曲がある。それが、
「「呼吸」です!」
Imay氏はその曲をSNSにアップした。すると、直ぐに反応が来た。
『いいね!』
『この人の曲はいつも良い』
『歌詞はまだですか?』
『もうすぐ出るよ』
コメント欄は盛り上がりを見せるが、勿論全部が全部こんな反応ではない。"アンチ"と呼ばれる人だって少なからずいる。
しかし、そんな人達も皆Imay氏が曲を出すのを待っている。
「今回も好評だな!!」
プロデューサーはスタッフを呼び出す。
「良かったですね!」
「俺もこの曲好きなんですよー」
スタッフが口々に言う中、浮かない顔をしている者がいた。
「お前ら、これAIが作ったんだろ?ここまで出来がいいんじゃ仕事を取られるのも時間の問題だな」
皮肉たっぷりに話す男の名前は「Takashi.Moriyama」大手レコード会社のプロデューサーだ。彼は、AIが嫌いだった。仕事を奪い、更に自分がプロデュースしたアーティストまで奪って行く。彼にとってAIとはそういう存在だった。だから、彼はAIが作ったというだけで悪態をつく。「まあ、確かにそうかもしれませんけど…………」
スタッフは反論しようとする。
「でも、これは紛れもなく彼の才能ですよ。それに彼が作る音楽は素晴らしいじゃないですか」
そして今、そんなAIが描いた絵がある。その絵は忽ちSNSで反響を呼んだ。最初の二日間はAIが描いたことを伏せて公開し、三日目にネタバラシをした。この公開の仕方も反響を呼んだ理由の一つである。だが、何より反響を呼んだ一番の理由はAI技術がここまで進歩していることだろう。
『凄い!本物の絵師さんみたい!!』
『CGとかじゃなくて本当に描いてるのか!?』
『えっ、すごすぎるんだけど!』
等と言った声が多数寄せられた。中には、
『どうやって描くんですか?』
『教えてください!』
と質問をする者もいれば、
『本当にAIか?』
『偽物だろw』
と疑いの目を向ける者もいた。数日はその話題で持ち切りだったが、一週間経つ頃には殆どの人が興味を失い、次第に忘れ去られていった。その後、そのアカウントからは何枚かAIの絵が投稿されたが、それも直ぐに飽きられ、誰も見向きもしなくなった。そして、ある日を境にAIのSNSからは絵が全く投稿されなくなった。
そして今、そんなAIが作った小説がある。それが、
「「よろしく、人工知能」です!」