僕というモノ
サイレンの音が聞こえる。
遠くのようでもあり、近くのようでもある。
頭が重い。靄がかかかったようとでも言うのだろうか、状況がうまく把握できない。
僕はしばらく悪戦苦闘しながら頭の中を整理する。
あぁ、そうだ。
突然、車が突っ込んできたんだ。
僕はやっとのことで、その時の状況を思い出した。それからは芋づる式だ。
学校に行くために、駅への道を歩いていたら、赤い軽ワゴンが歩道に乗り上げ、僕の方へ走ってきた。
運転手は髪の長い女性だった。
多分、とても綺麗な人なんだと思う。
でも僕の中に残っているのは「人は本当に驚いたときはこんなにも醜い顔をするものなんだな」という、そんな記憶。
僕の記憶はそこで途絶えていた。目の前が真っ赤に染まって・・・。
不思議だ、痛みは感じない。
ただ無性に寒い。凍える程に。
死ぬのかな?
僕は他人事のように考えた。
まあいい。
17年間、つまらない人生だった。
特にやりたいこともない。
特別仲の良い友達もいない。
勉強も運動もそれほど得意じゃない。
学校と家の往復の毎日。
家に帰ればゲーム。
もちろん、彼女はいない。
未練?そんなものは何も無い。
両親には申し訳ないが、このまま人生の幕を閉じるのも良いかもしれない。
ただ、言い表せそうもない感情だけが、僕の奥で燻っているのを感じた。