吾輩のは猫である
吾輩のは猫である。名前はアントニオ。
今朝、目が覚めたら俺のファンタスティックが猫ちゃんに変わっていた。しかも喋るオマケ付きだ。
「我が名はアントニオ。魔王様の命により、魔界より貴様の魂を貰い受けに来た!!」
鋭い猫目で此方を睨みつける自称アントニオさん(三毛猫)は、高笑いで俺を見上げている。
「どうやら驚いて声も出ないらしいな!? 話せば長くなるが貴様には聞く権利がある!」
驚きと言うよりは寝ぼけて思考が追いつかないんだが…………。
「あれは忘れもしない200年前の事だ」
あ、なんか長そうですね。そろそろ僕トイレしたいんだけど、オイラのオシッコさんは何処から出せば良いの? アンタの口からかい?
「偉大なる聖職者チチ・プルーンが死去すると、肉体より解放されしその魂を手に入れんと、数多の天使や悪魔が集った。我も魔王様の命により馳せ参じたのだが、ちょっとした手違いでな、その魂が真っ二つになってしまい、片割れが行方不明になってしまったのだ」
…………Zzz
「そしてようやくチチ・プルーンの魂の片割れを見つけ出した!! それが貴様と言うわけだ!!」
……もしもしお婆ちゃん? オレオだよオレオ……。
「しかーし! ただ単に貴様の命を奪ってしまっては魔界の規律に反する! そ、こ、で!! 一つ貴様と取引と行こうではないか!!」
「──ふえっ?」
「もし貴様が…………そうだな、今から三日以内に我を1000人の人間に見せる事が出来たら、我は大人しく魔界へ帰ろう。そして貴様の願いを一つ叶えよう。だが、もし出来なかったら、貴様は謎の変死を遂げる!!」
「あ、ならおっぱいが欲しいです、はい」
「そうか、女が欲しいか」
「いや、俺の胸におっぱいが欲しいですたい」
「……は?」
「おっぱいが好き過ぎて、自分で欲しくなりました」
「…………まぁ、なんでもいいが……」
「よし、それじゃあ早速……」
パソコンを開き、カメラのセッティングを始める。何たらtubeで配信すれば1000人なんかあっと言う間だな。我ながら賢いぜ!
「ククク……浅はかな」
「何がおかしい?」
「ネットは不特定多数が観る。言い忘れたが、1000人に達した時点で我は直ぐさまに消滅する」
「……て、ことは!?」
「お前は1000人以上の人間にジョイスティックを披露する羽目になる」
\(^o^)/
きっとテレビの緊急回避的な絵と共に『暫くお待ち下さい』の文字が流れる事だろう。それはまずい。
パソコンをそっと閉じ、暫し考える。さて、どうしたものか…………合法的に下半身を不特定大多数の人前で曝け出せる場所は無い物か。
「トイレか?」
「一日333人、毎回見せるのか?」
「──銭湯!」
「猫を風呂に入れるのか? 追い出されて終わりだな」
「…………なくね?」
「ククク……諦めろ」
顔を洗いながら笑う猫野郎。極めて小憎たらしいが、喉を撫でるとゴロゴロと音を立てて鳴くので何となく憎めない。
「あ、写真なら──」
「我は写真には写らぬぞ?」
「えっ?」
「撮っても其方のMr.チンしか写らぬ」
\(^o^)/
その日、俺は徹夜で逮捕されずに合法的に露出をキメる方法を模索した。
そして、一つのプランが出来上がった……!!
俺は次の日、ネットで調べたライブ会場へと足を運んだ。作戦はこうだ。
ライブ会場へ一番乗りを果たし、中で収容人数を道路の交通量調査なんかで使うカチカチのやつで計測する。そして1000人未満なら壇上へと上がって露出! 後は帰りに銭湯で晒せばオールOKな訳ですよ。因みに、バンドのブログやSNSで大体の集客人数は予測できているので、抜かりは無い。
俺は会場一番乗りを果たし、そして出入り口付近で客足を数え始めた。
──カチカチ
──カチカチ
──カチカチ
──カチカチ
うむ、開始直後で950人。これなら問題ない。帰りに銭湯二軒のハシゴで済むだろう。
「今日は、俺たちのために集まってくれて、ありがとー!!」
会場が暗くなり、ライブが始まった。
会場のボルテージが上がり、演奏が進むにつれてファン達がステージへと上がりダイブをキメ始めた。少し見てて怖いが、キマっている彼らには夢心地なのだろう。よし、頃合いだな。
俺はこっそりと前の方へと進み、他の客に紛れてステージへと上がった。そしてズボンを下げてアントニオを放出した!! 出しても猫だから恥ずかしくないし捕まらないもーん! ついでに上も脱いでやれ!
「イエーイ!!」
勢い良くズボンとパンティを降ろした途端、演奏が止んだ。そしてピタリと静まり返るライブハウス。バンドメンバーは俺の股間へ視線を送っている。
「……?」
俺はアントニオ氏を見た。しかしそこにはアントニオ氏は居らず、吾輩のファンタスティックボーイが、こんばんわの構えを見せていた。
「えっ!? 何でぇ……?」
キョロキョロと辺りを見回すと、ステージの袖にテレビカメラが来ていた。ついでに俺の胸にはいつの間にか立派なGカップが備わっていたが、今はそれどころではない。
「……あれ何?」
カメラを指差して、顔を黒く塗ったバンドメンバーの男に問い掛けると、男は「衛星放送でライブ生放送ッス……」と苦笑いをした──
*暫くお待ち下さい*