1-6 休憩
ルミールと共に川を目指し、途中で素材を集めつつ何事もなく川にたどり着いた。
「へ~きれいで良いところだね。さすがマスター、いい場所を知ってる」
ルミールは背を伸ばしながら、満足そうに声を上げる。確かにきれいで開放感のあるこの場所はいい場所だろう。だが、別にマスターもこういう場所だと知っていたわけではないと、心の中で断っておこう。
白い丸石が転がる川原が広がり、結構な流量の水が上流側にある高さ20mほどの滝から流れ落ちてきている。水は見る限り透明度が高くきれいで川底まで見えるほどだが、滝つぼの中心部を見るとその部分は暗くよく見えない。滝のすぐそばは深そうで、何も準備しないままではおぼれてしまうかもしれない。
周囲を見渡しているうちに、ルミールは座るのに適した平たい大きな岩の上で先ほど見せてもらった調合道具を広げていた。昔、理科の実験で使ったことのある道具たちだ。
何をするつもりかと様子を見ていると、おもむろにルミールが手を出し、何かを催促しだした。
「ほら、採取で手に入った素材見せなよ。鑑定ついでに調合をするから」
そういえば、そんなことを頼んだな。確かにここでなら落ち着いて作業が出来そうだ。
アイテム欄から未鑑定の物を一通り出しては並べていく。ついでだから採取だけでなく採掘で手に入れたものも併せて出しておく。後でもう一度するのも面倒だしな。
地面に並べるとなかなかの数になった。謎の草が17個、謎の石が8個と採取した回数に対して多いのか少ないかは分からないが、知らない間に溜まったもんだ。しかし、この量を鑑定するのは時間がかかりそうだ。どのくらい時間がかかるのかとルミールに尋ねるが、鑑定作業としてはすぐに終わるらしい。
見てろというので、みていると両掌を前に出しルミールは両手に魔力を集め、その魔力を未鑑定品に移していく。何をする気かと見つめていると魔力が注がれたアイテムが突然強く光り、気が付くと未鑑定品の山は5つの束に分かれていた。
薬草 ☆1
・HPを+3回復させる。
薬草 ☆2
・HPを+4回復させる。
しびれ草 ☆1
・確率で麻痺(微)を与える。
鉄鉱石(小) ☆1
・鉄を多く含んだ石、精製すると鉄インゴットに加工できる。
鉄鉱石(中) ☆1
・鉄を多く含んだ石、精製すると鉄インゴットに加工できる。
品質と鉱石の大きさに差があるな、同じ場所でとってもばらつきがあるのか、それとも俺のスキルLvが低いからなのか。
ルミールによると、両方共にばらつく原因があるらしい。薬草の品質のばらつきについては、この森自体の土壌は悪くもないがよくもない程度で、そのことが原因らしい。自然に高品質のものができる可能性は低く、高品質のものを得ようとするのなら、森の一部を開拓し整備する必要がある。鉱石のサイズは俺のスキル不足で、大きなサイズが取れないだけではないかということだ。ただし、品質がどれも低いためそもそもこの場所で大きな鉱石はとれないだろうと付け加えていた。やはり、スキルLvは重要か。
「スキルLvは重要だけど、それ以外の方法で品質を高める方法はあるよ」
「なに?どうやってやるんだ?」
「そうだね、たとえば・・・調合の場合なんだけど」
☆1の薬草を2つ手に取ると、持参していた調合道具の中の鉢の中に入れ、薬草をすりつぶし始め、いつの間にか川から汲んできた水を加えながらさらにすりつぶしていく。ある程度混ざったら魔力を注ぐと、薬鉢が光りだしポンッという軽い音と共に小さな瓶に入った液体が完成していた。
下級ポーション ☆1
・HPを+5回復させる。
最低品質のポーションだった。回復量は薬草2つ使用したものより低く、これなら調合しないほうがいいかもしれないと思ったが、戦闘中に葉っぱを食べるよりも飲めばいいポーションのほうが需要はあるとのことだ。確かにわざわざ葉っぱを取り出して食べるのはスキが多いよな。
「これがスキルを使った最低限の処理で済ませたもの。素材も最低品質のものだから効果も低いんだけど、ちょっと手間をかければ品質は上がるんだよ」
先ほどと同じく☆1の薬草を2つ取り出す。今度は薬鉢に入れる前に薬草を切っている。どうやら細かく切るだけでなく、葉脈を取り除いているようだ。一通り取り除くと先ほどと同じく水を加えすりつぶし、魔力を注ぐと・・・。先ほどより品質のいいポーションが完成していた。
下級ポーション ☆2
・HPを+8回復させる。
なるほど、途中の工程のやり方を変えれば結果が変わるというのは面白い。確かに先ほどの採掘作業では、何も考えずにピッケルを振っていた為、仮に大きな鉱石が取れそうな場合でもそれを砕いていたかもしれない。スキルはその可能性を少なくするだけで、作業者の注意で避けることは可能だという事だ。ちょっといろいろ試してみるか。
「あ、ゴブさんちょっと待って、これ持って行って」
そう言われ先ほどの2つのポーションを俺に差し出してくる。
「いいのか?」
「うん、これはゴブさんの取った素材から作ったものだし、それに初めに魔法をぶつけてごめん。まだ回復させてないでしょ。だからこれ上げる」
不安な顔でこちらを伺っている。どうやら初対面でのことを気にしていたようだ。ゴブリン相手とはいえ、マスターの代理という扱いの俺に一方的に攻撃したままなのは思うところがあったらしい。ここで貰わないのも悪いよな。それにできるだけ打ち解けておきたいし、断る理由はない。
「それじゃあ、ありがたく貰うよ。そのまま飲めばいいのか?」
「そうだよ。あっでも・・・」
「ぐぁ、なんだこの味!」
試しに☆1のポーションを飲んだが、すごい苦みと青臭い味が口の中に残り続けている。とてもこれを好んで飲もうとは思わない。まあ、薬だから好んで飲むのはダメなのだろうが。
「ああ、飲んじゃった。まずいから気を付けてって言おうとしたのに・・・」
「も、もう少し早くいってくれ・・・」
「ふふ、ごめんね。ふふふ」
俺にとっては笑い事ではないが、まあ、いいか。ルミールが笑ってるし、これで打ち解ければ・・・。