1-3 強敵襲来
目の前に現れた、ロープに身に包んだ少女は静かにそこに立っていた。
突然の出来事に動くことができず、ただ様子を伺っていると先ほどまで操作していた画面が新しい項目を開いて立ち上がっていた。
名前:ルミール
・種族:ハーフエルフ ・Lv:5
・HP 15/15 ・MP:20/20
・腕力:4 ・知力:10 ・技量:6
・体力:3 ・精神:10 ・敏捷:4
・スキル:【風魔法Lv3】【魔力操作Lv2】【調合Lv1】【鑑定】
目の前にステータスウィンドウが表示される。能力値や魔法スキルを見る限り魔法使い系で戦闘サポート要員という事か。確かに戦闘でも素材が入る為、欲しかった要因である。とりあえず鑑定と調合のスキル持ちだ。これはかなり助かる。
しかし、種族がハーフエルフか。これは初期アバターとして選択できなかった種族だ。NPC限定なのか条件があるのか。とりあえず珍しい種族なのかもしれない。
「しかし、この子のステータス俺より強いな・・・。えっと名前は、ルミール?」
俺のつぶやきに反応したのか、目の前の少女はうつむいた姿勢から、ゆっくりと顔を開け目を開いた。まだ寝ぼけているのか、その眼はとろんとしており眠そうだ。(NPCに睡眠があるかは知らないが・・・)やがてこちらを見て、周囲を見渡すようにきょろきょろと首を振る。その際に顔を隠すほどに覆っていたロープは外れ、その素顔があらわになる。引き付けられるような透き通った白い肌と、森の中の届く僅かな光を反射し輝かせる長く美しい金髪はまさに幻想的は雰囲気を醸し出している。森を抜ける風で髪が揺れるその姿は、さらに美しさを強調させる。まだ眠そうにしているがその眼の中には紫色の瞳を持つ、わずかに幼さの残る整った顔立ちのこの少女は、高校生くらいの年齢だろうか?
まじまじと目の前の少女-ルミールを観察していると、こちらの視線に気が付いたのか、ルミールがこちらに向き直り、不思議そうに俺の顔をじっと見つめる。ゴブリンの姿の為、俺のほうが見上げる方になっているが、眠そうな目をそのままに、まじまじと見られている・・・恥ずかしいな。とはいえ視線を逸らすのも失礼か?
「ゴブリン?なぜ、こんなところに下級魔族が?」
この子、俺に向かって下級魔族って言ったぞ?やっぱりゴブリンって、この世界でもそういう認識なんだな。
とりあえず目の前に現れたこの子、ルミールに現状を説明すべく声をかける。
「あ~、悪いけど、君を召喚?というか呼び出したのは俺なんだ」
「ん・・・?そうなんだ・・・、ゴブリンが、私を・・・」
いまだ寝ぼけているのかうつろな目で俺を見ている。まだ意識がはっきりとしていないようだが、目の前にゴブリンが居ても何も思わないのか?俺はルミールの目の前で手を振ったりして反応を見ていく。そのうちに、意識がはっきりしてきたのか、段々顔色が悪くなって・・・あれ?これまずくね?
俺がそう思い動きを止めた瞬間に、ルミールは突如こけそうになりながらも俺から距離を取り、慌てた様子で声を上げた。
「ゴ、ゴブリン!なんで?こんなところに!い、いや!こっちに来ないで!」
「おい、落ち着けって、俺は・・・」
「ひっ!いや!来ないで!風の聖霊よ力を貸して!『エア・ショット』!」
俺の静止を聞くこともなく俺に向かって杖を突きだしおそらく魔法を詠唱する。ルミールの体から杖の先端に光が伸び、そこに向かって風が、空気が動いていることが分かる。その風が止まったかと思った瞬間に何かが凄まじい速度で向かってきた。とっさに手に待ったこん棒で受けるが、衝撃をすべてを受け止めきれず後方に弾き飛ばされる。クソッ、初戦闘が呼び出したサポートAIって冗談じゃないぞ!
「だから落ち着け、ルミール!俺の話を聞け!」
「話を聞けって、そんなこと言って私を油断させて襲う気でしょ!そんな手に・・・って、なんでゴブリンが言葉を話しているの?」
魔術を放って落ち着きを取り戻したのか、ルミールは俺の言葉を聞く気になったようだ。まあ、まだ警戒を解いていないし攻撃してこないのは、攻撃アーツのクーリングタイム中だからだろう。ここは敵意がないことをこちらから見せて、どうにか話し合いに持っていくことが重要だな。
俺は手に持っていたこん棒を後ろに投げ、両手を上げる。ルミールはビクッと体を震わせていたが関係ない。俺はそのまま地面に座り込み、ルミールの目をまっすぐ見て話しかける。
「驚かせて悪い、俺はミヤ。まずは話をしようぜ、ルミール」
俺の行動に敵意がないことが分かったのか、ルミールは構えていた杖を下ろしこちらに近づく。まあ、まだ2mほど離れてるし立ったままで警戒しているみたいだが、さっきよりはましか。
「な、なんでゴブリンが私の名前を・・・」
「俺にはミヤって、名前があるんだが、そう呼んでくれ」
「ミヤ?それって私を呼んだ人の、マスターの名前だよね・・・、まさかこのゴブリンが?いや、魔力を持たないゴブリンにそんなこと・・・」
何やら小声でつぶやいた後、考え込んでしまった。とりあえず俺が呼び出したってことは、分かってくれたか?それならこれ以上争わなくていいから、気が楽なんだが・・・。挙げていた手を下ろしながら、ルミールの様子を見つめる。それにしても表情がコロコロとよく変わる。これがAIだっていうのだから、ほんと信じられんよな。
しばらく待っていると、ルミールの中で結論が出たのか、こちらに杖を突きつけながら声を上げた。
「わ、分かったよ、ゴブリンさん、貴方が言葉を話せるのはおそらくマスター・ミヤの力によるものだね?」
「いや、それは・・・ってマスター?」
「そ、そうだよ、私を呼び覚ましたのはマスター・ミヤ。なぜここに居ないのかは分からないけど、おそらく貴方が言葉を話せるのは、マスターから私に言伝があるだよね?なら、早く話してよ!」
あれ?これって俺がそのマスターだって気が付いていない?まあ、俺もこの子の立場だったら、まさか目の前のゴブリンが召喚したなんて思わないだろうけど・・・。ここはちゃんと修正したほうがいいよな?
「いや、だからミヤは俺で、君を呼んだのは俺なんだよ」
「貴方から魔力を感じない。魔力を持たないゴブリンに召喚魔法が使える訳がないよ。なので、貴方とマスターは別!そのはずだよ!」
やっぱりゴブリンが呼び出したっていうのは、拒否したいみたいだな。今にも泣きだしそうな顔で見ないでくれ、俺が悪いみたいじゃないか。確かに目が覚めたらゴブリンが目の前にいて、俺が召喚したとか話してたら今後のこととか不安になるだろうけどさ。しかし、このまま話をこじらせてさっきの魔法を使われても厄介だし、うまくあの子の話に合わせつつ納得してもらうしかない。
「悪い、言い方が悪かった。えっとどう伝えればいいか・・・。つまり俺は君の言うマスターの・・・使者というか化身?みたいな存在なんだよ」
「使者・・・?マスターの意思を伝える連絡役みたいなものってこと?」
「う~んちょっと違うんだが、ルミールがそれで納得するなら、それでいい」
マスター本人ではなく連絡役という認識でどうやら落ち着いたらしい。本当はマスターなんだが、これ以上押し問答しても仕方がない、というかまた暴れられても困るからな、このままでいい。
「なるほど・・・まあ、わかったよ。えっとじゃあ、ゴブリンさん、貴方の名前は?」
「は?名前って、だから『ミヤ』だが・・・」
「それはマスターの名前でしょ?貴方はマスターの連絡役ってことは他の名前があるんじゃないの?」
「あーそういうことか。まあ、ルミールの好きなように呼べばいいけど、何かあるか?」
「えっと、ゴブさん・・・とか?」
おお、安直・・・。でも好きに呼べって言ったから断るのもな。
「うん・・・まあルミールが呼びやすいならそれでも・・・」
「ああ、いや、ごめん、別に嫌なら・・・」
「いや、べつにそれでいいさ、俺はゴブさん、ルミール、よろしくな」
俺が出した微妙な雰囲気を感じ取ったのか、誤ってきたが、今のは俺が悪かったから別に謝る必要はないぞ?
とりあえず、協力者は得られたことだし、これからどうするか・・・。
以降は週2・3目標で投稿予定です。
よろしくお願いします