1-1 ようこそゲーム世界へ
ゲーム世界の話ですが、まだ説明タイムです。
「【MOW】、My own World の世界へようこそ」
何もない白い空間に放り出された俺の頭上から無機質な女性の声が響き渡る。
初めてゲームの世界に入ってみたが、本当に現実の体の感覚が無くなるんだな。
「今回担当させていただく、ナビゲーションAIです。
この世界について説明させていただく前に、貴方の名前を教えてください」
そのアナウンスが終わるとともに、目の前にキーボードが表示される。
どうやら入力しようとしたキーが自動で入力されるらしいが、押そうと強く意識しなければ入力されないらしく、思うように入力されない。
「手で押せたり、音声で入力できないのか?」
「音声入力に切り替えますか?」
「うぇ?!」
まさか反応されるとは!思わず変な声が出たぞ・・・。
目の前には Yes / No という選択が出ていたので、音声入力ができるようになんとか Yes を選択する。
そこから先は楽だった。一つ一つ提示される問いかけに答えるだけで初期登録は進んでいく。今までフルダイブ式VRゲームを遊んだことない層をターゲットにしていると言っていたことに嘘はないみたいだ。
登録内容は、アバター名・性別・年齢といった基本的な内容から心理テストや性格判断テストのようなものまでさまざまだった。普通のゲームであれば必要のないことなのだろうが、今回制作者側としてゲームを行う上でサポートAIが付くと言っていたので、これらの質問はサポートAIとやらが判断する材料になるのだろう。少し面倒ではあるが、まじめに答えておこう。
「以上で初期設定は終了です。おつかれさまでした。続いてプレイヤー『ミヤ』のアバター作成に入ります。種族を選択してください」
アナウンスと同時に種族の一覧と参考アバターが表示される。一般的やヒューマンやファンタジーで定番のエルフやドワーフという種族だったり、オーガ・ヴァンパイアといった人型の魔物も存在している。明らかに敵側のアバターだろうが、魔王になるという制作者が居てもおかしくないので、そういった人向けのアバターなのだろうか。また、補足説明による選んだ種族によりステータスに補正が入るらしい。
ステータスはHPやMPといったものの他に、腕力・知力・技量・体力・精神・敏捷の6つの項目が設定されている。それぞれが高いほど戦闘や生産活動に有利なのだろうが、俺は何を優先すべきだろうか。ユウの発言や制作者として活動することを考慮するなら、街づくりに有利になる生産メインで知力・技量に補正が入るものがよさそうだ。
そういう方向を付け、種族を見ていくがなかなかいい種族が居ない。知力ならエルフ、技量ならドワーフが補正が入るがその代わりどちらかにマイナス補正が入る。ヒューマンには補正が入らず、良くも悪くも平均的だ。それ以外の種族はどちらかというと攻撃特化という印象だ。そうして探していると一つの種族が目に入る。プラス補正は知力・技量、マイナス補正は精神だ。プラス補正2つのマイナス補正1つというのは、他の種族を見ても珍しい。大抵は両方とも1つか2つずつだったり、プラス補正1つのみである。俺の方針と合うので本来であればこれでもいいのだが・・・。
「ただ、種族がゴブリンか・・・」
ゴブリンといえばRPG定番の雑魚モンスターで、緑色の肌を持った小さい餓鬼という印象だ。参考アバターを見ると多少デフォルメしてあるが、基本は同じデザインだ。集団で群れを作り武器を使って攻撃してくるので確かに知恵や技量はあるかもしれない。
それに参考スキルを見ていると、【採取】【採掘】【伐採】という素材集めに必須なスキルを覚えられるようである。あれ?ゴブリンって結構有能じゃないか?
ちなみに初期スキルは各種族に6つ設定されており、アバター作成時にランダムで4つ取得されるらしい。ランダムというところが嫌らしいところだが、今取得できなくても、後で追加できるらしい。ゴブリンの場合では先ほどの3つに加え【棒術】【剣術】【魔力操作】だった。精神にマイナス補正が入るのに魔法で使うスキルを覚えるのか・・・これはハズレ枠かな。
とりあえず能力的には文句はないのだが、初めてやるフルダイブ式VRゲームのアバターがゴブリンというのはどうなのだろう。これを選ぶと俺はゴブリンになりたいと思っていると思われるのだろうか?まあ、ダメそうならやり直すでもいいから、とりあえず選んでみるか?
「種族『ゴブリン』を選択されました。よろしいですか?」
機械的なアナウンスで再度確認が入る。どうやら一度選んだ種族は途中での変更はできないようだ。つまり、このアバターでゲームを続けるのであれば、一生ゴブリンの姿というわけか・・・。まあいいかな?お試しだし。
「Yes」を選択すると、画面は別のものに切り替わった。ワールドMAP全体が表示され、その中からいくつかの場所が表示され選択できるようになっている。どうやら一番初めに降り立つ場所を選択できるらしい。平原・海・山岳・森・砂漠など様々な場所が選べるようだ。ただし街や村は存在しないのか、それらしい場所は選択肢には上がっていない。まあ、姿がゴブリンだと追い出されそうな気がするが・・・。
素材の調達を考え、俺は山に近い森林地帯を選択した。鉄などが取れる鉱山が設定されているかはわからないが、重要なのは素材が集めやすいこと。平原は過ごしやすいかもしれないが何もないから大変そうなのだ。
「初期拠点を設定いたしました。以上で初期設定が終了となります」
フィールドの選択を終えると聞きなれたアナウンスが聞こえる。
どうやら、ようやくゲームを始めることができるようだ。結構長かったな・・・。
「プレイヤー『ミヤ』をこの『名もなき世界』へ招待します。
改めて、ようこそ【MOW】、My own World の世界へ」
音声案内の後、体がゆっくりと落ちていくような心地のいい浮遊感とともに世界がゆっくりと暗転した。