P-3 いってらっしゃい
「いや~興味を持ってもらったみたいでよかったよ~。それでどうする?遊んでみる~?」
「悔しいが確かに興味があるし、遊んでみたいができるのか?」
「問題ないよ~、そのために一式準備してるからね~」
ユウがそう言いながら手に持ったのは、部屋に入った時に目に入ったVRゴーグルだった。
「これがVRゴーグルで、一般的なフルダイブ式VRゲームが遊べるやつだよ~。ミヤは使ったことある?」
「いや、興味はあったが使ったことないな。これはどうやって使うんだ?普通に着ければいいのか?」
ユウから受け取ったVRゴーグルを受け取る。
目の周りを大きく被せ、固定用のベルトが付いているタイプのようで思っていたものより大きい。
重量は見た目に対しては軽い印象だが、頭につけるとなるとどうなんだ?つけて歩くわけではないから気にならないのかもしれないが・・・。
「そうだね~、頭にフィットするように取り付けたらまずは設定が必要だよ~。体を動かす時の脳波を読み取ってアバターの動作にリンクさせるんだよ~。起動したら指示が出るからやってみてね~」
頭にVRゴーグルを取付け起動ボタンを押す。すると目の前にセットアップ開始の選択肢が表示され、指示されたように体を動かしていく。
軽い体操のような感じだが、最近運動していなかった反動か、意外と疲れる。
そうして、体を動かしながらアバターとの動作をリンクさせていく。時折微調整を繰り返したためか、時間は30分は過ぎていた。
「よし、これで終わりだな。悪いな待たせて」
「お疲れ~、別に気にしないでいいよ~。面白い姿も見れたし~」
思ったより時間がかかっていたことに気づきユウに声をかけると、ニヤニヤ笑いながらペットボトルのお茶を差し出してきた。
受け取り乾いたのどを潤いしつつ、面白いことについて聞いてみると、なるほど俺の動きの話か。確かにごついゴーグルをつけて、はたから見ていると謎の動きをしているその姿は滑稽だな。ここでやるんじゃなかったか?
「今思ったらこの設定ってVRゴーグルを買ったら、またやらないとダメだよな。だったらここでやらなくてもよかったな」
「そうだね~、でもその必要はないよ~、今設定したそれあげるからさ~」
ん?今コイツなんて言った?他の家庭用ハード機よりお高目な装置一式をあげるって?
「ああ、気にしなくてもいいよ~、テスターの報酬の先払いだと思ってくれればさ~。あっ、ちなみにもう使用済みだからいくら新品でも返却不可だからね~。一度設定すると盗難防止機能で、再設定は3か月以降じゃないと無理だから~」
「なっ、報酬の先払いって俺はまだやるとは・・・!」
「じゃあ、買取になるけど~、そのVRゴーグル性能良いやつだから結構高いよ~」
「はぁ?一般的なフルダイブ式VRゲームで使われる奴だろ?そんなの高いわけ・・・」
「あれ~、僕は『遊べるやつ』っていっただけで、『使われてる』とは言ってないよ~。それは普通の奴より処理速度がよくて表現力が高い限定品だよ~。市場には出回ってないんじゃない?」
いわれてみれば、以前テレビで言っていた気がする。
VRゴーグルの限定製作品は従来のものより高性能だが、サイズが大きくやや重くなっていると紹介されていたが・・・確かに俺が持っているやつと同じものが映っていた。
今では市場に出回っておらず、ネットオークションで時折出品されるがその金額は一般的なものより何倍もしたはずだ。
「ユウ、俺を騙したな・・・」
「騙したって言い方はひどいな~。僕は親友にゲームを遊んでもらうために装置をプレゼントしただけじゃないか~」
まるで悪気がないように、あっけらかんとした表情でユウは話す。
確かにこれが何の思惑もないプレゼントであれば、純粋にうれしいし問題ないだろう。ただ、それの対価として言われたのは、ユウの作ったゲームのテスターであった。
さっきのプレゼンを聞く限りは、確かに俺が好きなタイプのゲームだ。
しかし、それをどのくらいの期間、どのくらいのペースでやる必要があるかなどの指定がない以上、どうもありがとうと受け取る訳にはいかない。ユウの奴隷になるわけにはいかないのだ!
・・・すでに片足を突っ込んでいる気がするが。
「もう、疑り深いな~ミヤってば、別にそれを付けて会社を辞めて廃人プレイをしろって言うわけじゃないんだから~。これから1か月間の空いた時間にプレイしてくれるだけでいいよ~。でも土日とか休みの日にはプレイしてほしいな~」
「は?1か月間の空いた時間だけって、ほんとにそれで良いのか?」
「嘘はつかないよ~。別にそれ以降も気になったらやってくれてもいいよ~。ただ、このゲームが正式に発売されたらちゃんと製品版を買って貰うけどね~」
1か月の期間限定という話ならば問題ないか?それ以降は俺に好きにすればいいというのなら、断る理由はないし・・・。
「わかった、ありがたく貰うのと、テスターの話を受ける。でも、後で結果が悪いからって文句を言われても受け付けないからな」
「OKOK~問題ないよ、ありがとね~。早速だけどプレイしてみる?そこのリクライニング使っていいからさ~」
うん、都合よく踊らされている気がするがまあいいか。
指定された場所に仰向けで寝転がり、VRゴーグルを取付けゲームのインストールとセットアップを開始する。
その間に軽い注意事項を説明される。まず一つ、ゲーム内の体感時間は現実世界の4倍、つまりゲーム内の24時間は現実世界で6時間ということらしい。
そして、連続のログイン時間は現実世界の5時間まで、つまりゲーム内での連続行動は20時間に限定される。
時間を超えたり体調や周囲の状況で異常を感知したら、即座にログアウトするのでその前に安念な場所を確保しなければならない。
ちなみにアバターはその場に残る為、再ログインした際にはログアウト状態からスタートになるようだ。ログアウト中にアバターが死亡した場合は、設定した拠点もしくはスタートポイントからログインすることになる。
「ま、そんなわけだから楽しんできてね~。ちょうどセットアップも終わったみたいだし、いってらっしゃ~い」
間延びしたユウの声が遠くから聞こえる。
どうやらゲームが起動したみたいだ、どんなことがあるかわからないが、こうなった以上は楽しもう。