1-11 招待
「ニイとサンを助けてくれて、感謝する、ありがとうワウ」
「ゴブさん、ありがとう」
「ワウワウ」
サンに駆け寄ったイチはすぐにポーションを使用し回復させた。
ルミールや俺が与えたダメージはなかったが、攻撃時の衝撃で自分にもダメージがあったようで思った以上に疲弊していたらしい。
捨て身だからこそ、あの一撃か・・・。
周囲に残る戦闘の跡をみると、まともに食らったら想像をしてしまいぞっとする。俺のような奴は一撃で死んでしまうだろう。
サンの回復を待って、改めて俺はコボルト3人組と話の場を設けた。
ルミールには悪いが、少し席を外してもらい俺が採取してきたアイテムの鑑定と調合をお願いしている。
ルミールはイチ達に敵意がないと分かると、案外あっさりと引いてくれた。
もう少し何か言われるかと思ったが、この件に関しては俺に任せるのだそうだ。イチ達もルミールに対しては警戒しており、まともに話ができる感じではなかったのも理由だ。
「気にするな、イチには言ったが今回はこっちも悪かった。俺がもう少し早く話していれば避けられた」
「ワウ、それは関係ねぇ。そんなこと言ったら、俺たちがエルフを襲ったのが原因だし、負けて死にそうになったのは俺たちが弱いからだ。あのまま殺されても文句は言えなかったが、お前は俺だけでなくニイとサンを助けた。感謝してるワウ」
イチの言葉にニイとサンも首を振り、肯定する。
「それにしても、ゴブはあのエルフとどういう関係ワウ?従属の首輪なしってことは、奴隷ってわけでもないだろう?」
「そうだね、首輪なし、奴隷じゃない、でも話してるみたい。不思議」
従属の首輪というのは、この世界で人族が魔族を従える為に作られたもので、それを付けた相手を奴隷として使役することができるものだそうだ。
その首輪を介してならば、人族と魔族の間で意思の疎通ができるらしい。
しかし、俺はそれを付けていないにもかかわらず、エルフのルミールと会話ができていることが不思議だという。
これは俺が制作者としてこの世界にいるからなのか、もしくは別の理由・条件のようなものがあるのだろうか。
「魔族の中で人族と話せる存在はいないのか?」
「ワウウ、魔族の中で上級魔族といわれる存在なら話すことができるワウ。でも下級のゴブリンが話せるというのは聞いたことないワウ」
「そうか、という事はイチ達も、ルミールが何を言っているのかは分からないのか?」
「ううん、僕たちは、何となくなら、エルフのこと、分かる」
ルミールとイチ達の和解の為の手段がないかと、何気なく言った疑問だったがイチ達は人族の言葉を理解できるのだという。
話すことができないのに、なぜ理解ができるのか。
その問いに対して3人は顔を見合わせうなづきあう。
「ゴブは命の恩人ワウ、だから話す。俺たちはある人の下で活動してるワウ」
「その人は、フェンリルの幼体、上級魔族だよ。僕たちはその人から学んだ」
「ワウワウ」
フェンリル。確か狼型の巨大な魔獣だったような記憶がある。
どういう性格かは分からないが、イチ達はその人を尊敬しているようだし、悪い魔族ではないだろう。
それに、上級魔族で人族との会話が可能だというのなら、理性がありイチ達のように話し合いができるはずだ。
この森で俺たちが活動するのなら今後も接触する機会があるだろう。可能ならば、変に敵対する前に顔を合わせておきたい。
「イチ達の主って感じか」
「ワウウ、俺たちはそんな主従関係じゃないワウ。ただ、お嬢のもとに集まり慕っているだけワウ」
「お嬢・・・?そのフェンリルのことか?」
「ワウ、お嬢は俺が崖崩れに巻き込まれて動けなくなっているときに、助けてくれた恩人ワウ。俺だけじゃない、ニイとサンもそうワウ」
かなりそのフェンリルを信用しているみたいだ。
3人はフェンリルを敬い、フェンリルも3人のことを思い、平和に過ごしていたという。
しかし、ここにフェンリルの姿はない。3人の話からするとここにフェンリルが一緒に来ていてもおかしくないはずなのにだ。
「ワウ、それについてだが、ゴブとあのエルフに頼みたいことがあるワウ」
「お嬢を、助けて、お願い」
「ワウワウ!」
3人が一斉に俺に対して頭を下げてくる。
どうやらかなり切羽詰まった感じだが、フェンリルに何があったんだ?




