1-8 接触2
「ワウワウ・・・」
「ん?どうした、サン。ってお前何持ってるワウ」
「これ、果物、おいしいの、サン貰っていいの?」
「ウウ・・・」
茶毛が他の2人に先ほどの果実を渡している。どうやら白毛のコボルトは果実の存在を知っていたらしく、特に怪しむ様子を見せず口にし美味しそうに食べている。
黒毛は果実の存在を知らなかったのか、受け取ったものをまじまじと見つめていた。しかし、白毛が美味そうに食べるのを見ると決心したのかかぶりつく。
そのあとは茶毛と同じく驚いた表情をした後に一心不乱に食べ始める。しばらくすると黒毛と白毛の2人は食べ終わり満足そうな顔をしている。やはり腹が減っていたのかもしれない。今なら話ができるか?
黒毛と白毛の二人が落ち着いたのを見計らい姿を現す。敵意がないのを表すために両手を上げつつ、刺激しないようにゆっくりと近づいていく。一応先ほどの果実が俺が渡したものであることが分かるように、同じものを持っていく。
「ワウ、そこにいるのは誰だ!」
「ゴ、ゴブリン、イチ兄気を付けて、他に仲間がいるはず」
「安心しろ、ニイ、俺が守ってやるワウ」
「ウウ、ワウワウ」
殺気と怯えの感情を表しながら、俺を警戒しているが茶毛のコボルトが落ち着かせる。
俺には何を言っているのかは分からないが、どうやら他の2人には伝わっているらしい。
明らかに警戒していたその表情が徐々に柔らかいものになっていた。茶毛がこちらを向き、俺に向かって頭を下げた。どうやら説得ができたようで、俺の話を聞いてくれるようだ。
「急に悪いな、俺は・・・えっと、ゴブさんと呼ばれている。まずはお前たちと話がしたい」
「ワウ、さっきのはお前がくれたんだってな。どういうつもりだ」
「イチ兄、そんな言い方、ダメだよ、えっと、ありがとう、ゴブさん?」
「ああ、気にしなくていい。そこの茶毛のコボルトを見て腹が減ってるのは分かったからな、困ったときはお互い様だ」
「ワウ・・・」
なんか3人共にあきれ顔になったんだが、変なことを言っただろうか。
「ワウ・・・。お前変な奴だな」
「ワウワウ」
「うん、変な人、でも、やさしい人」
確実に変な奴扱いされたな、まあいいか、警戒が解かれたみたいだし。
「それで、お前たちは何をやっていたんだ」
「えっと、実は・・・」
「ニイ、俺が説明するワウ」
茶毛と白毛を後ろに下がらせ、黒毛が俺の前にでる。どうやら3人のリーダー格のようだ。
当目で見たら3人ともサイズが違うだけで同じ格好かと思ったが、微妙に顔周りが異なる。顔周りの毛の長さが長く、前髪の伸びたマルチーズといった感じで3人それぞれに特徴がある。
前髪を短く両目を出した黒毛がイチ。前髪を伸ばし右目を隠した白毛のニイ。両目が隠れ鼻のあたりまで髪を伸ばしたサン。コボルト3人組はそういう名前らしい。
「あそこにエルフがいるのが分かるかワウ?」
「ああ、そうだな」
茂みの中から顔を出し様子を見ると、そこにはルミールがいた。すでに調合が終わったのか道具は片付けているらしいが、いくつかの薬瓶がそのままになっていた。
あれにどういう意味があるのかは分からないが、必要な工程なのだろう。
ルミール本人は何をしているのかと思えば、少し離れた場所で釣りをしているようだ。おそらく俺を待っている間に釣りをしているのだろうか、待たせてすまない。
「ワウ、あそこの瓶があるのが分かるか」
「ああ、あれってポーションか?それがどうかしたのか」
「あれが欲しいワウ」
なんとイチ達は、食料を狙ってルミールを見ていたわけではないらしい。どうやらポーション狙いだったそうだ。見た感じけがをしている訳ではないが、どういうつもりだろう。
「3人の誰か、けがでもしているのか?」
「いや・・・そういうわけじゃ、いや、そうだワウ。ちょっとニイがけがしてるワウ」
「えっ、ああ、えっと、うん、僕けが痛いんだ、あはは」
うん、嘘だと分かるな。ニイも急に振られたからかなり動揺してたぞ。まあ、こいつらにも言えないことがあるんだろう。そこまで突っ込んだ話をするのも無粋か。
ポーションだったら素材の薬草がまた採れたし、譲ってもいいかもな。ルミールへの確認は必要だろうけど。
「なるほど、それじゃああれを取ってくればいいのか」
「ワウ、そうだ・・・ってエルフが動き出したワウ!」
イチの声に合わせて川の方を見てみると、どうやら川の中に入っていくらしい。魚でも獲れたのか?
「イチ兄、いまなら!」
「ワウ、行くぞ、ニイ、サン!」
「ウウ~」
って、ちょっと待てお前ら!飛び出していくんじゃない!