1-7 接触
ルミールがポーションなどのアイテムを作る間に、採掘と伐採の実験の為、一人来た道を戻る。
早速、一つ目の採掘ポイントを見つけたため、こん棒からピッケルに持ち替え作業を開始する。
採掘作業で結果にいい影響を与える方法として思いつくのは、光っている部位をピンポイントで掘る方法と逆にその周囲を掘る方法だろうか。
力強くたたくとかもあるかもしれないが、今はステータスを上昇させる装備がないので、その検討は後でいいだろう。
場所を変えつつ堀り方の検証をした結果、分かったことは2つあった。
1つ目は、一度鑑定してもらったアイテムは採掘などで再度ゲットした際には、未鑑定品扱いにならず、素材アイテムとして収納されること。
2つ目に、光っているところをピンポイントで狙ったほうが、鉱石のサイズが大きいものが取れやすいという事だった。取得できる鉱石の種類は、やはり場所に影響されるようで今回取れたのは鉄鉱石だけだった。
採集や伐採については、品質を上げる取り方が思い浮かばなかったので、普通にとった場合と雑にとった場合を比較したが、特に品質が悪いものが取れるというわけでもなさそうだった。
といっても、この森でとれる薬草は最低品質のものが多く、これよりも悪くなることもないだろうし、伐採の結果に至っては、そもそも未鑑定品の為、品質の確認なども出来なかったから効果が分からなかっただけかもしれないのだが。
唯一、成果として挙げられそうなものが、木になっていた果実を収穫できたことだろう。
【未鑑定品】謎の木
・用途不明の木
【未鑑定品】謎の果実
・用途不明の果実
結局は未鑑定品の為、食べられるのかも分からないんだけどな。見た目は黄色い張りのある実の為、美味しそうではあるが、毒や別の危険性もあるので食べるのはルミールの鑑定後にする予定だ。
一通り思いつく実験をやりつくすと思った以上に時間が経過していた。さすがにルミールの調合作業も終わり、待っていることだろう。
森の奥深くまで入ってしまったが、一度通った場所はフィールドMAPに記載される為、迷うことがない。最短距離で戻るために移動すると、川に出る手前で、前方から話し声が聞こえる。
ルミールの声ではない、独特のうなるように低い声がぼそぼそと話し合っている。どうやら3人、いや匹か?二足歩行の獣の姿がそこにあった。
全身を毛でおおわれた犬型の獣人コボルトだ。
3人共に本来の毛色は異なるのだろうが、森での活動の保護色の為か単に汚れただけかは知らないが、全身泥だらけで体毛は乾いた土によって絡まり伸び放題になっている為、かなり見た目が悪い。
アバターのサンプルでみたコボルトは、手入れが行ききれいにカットされたトイプードルが2足歩行で歩いているようなかわいらしさだったが、目の前のコボルトにはそのようなものはなかった。
おそらく汚れを落としカットすればアバターの姿に近くなるのだろうが、今の姿はとてもかわいいとは思えない。
「ワウ、どうする、エルフだぞ・・・勝てるか?」
「エルフ、魔法を使う、僕たちじゃ無理、でもお嬢なら・・・」
「お嬢はダメだ、今体調を崩している、無理はさせられないワウ」
「・・・・・ワウ」
黒毛のコボルトと最も小さな白毛のコボルトが話をしている。どうやらこの先のルミールを見て話しているようだ。
その横で最も体の大きい茶毛のコボルトは、別の方向を見ており話し合いには参加していない。ゴブリンとコボルトの体格は同じくらいの設定なはずだが、茶毛のコボルトは俺に比べ背が高く腕力も強そうだ。
どういうつもりか分からないが、ルミールを襲うつもりなら戦闘になるだろう。そうなると厄介そうな相手だ。
一人ひとりを観察していると、いつの間にか茶毛がこちらを見ていた。ヤバい、気づかれたか・・・?しかし、茶毛はすぐに視線を元の位置に戻した。視線は先ほどと同じ黒毛や白毛とは異なる方向だ。何を見ているのか気になり視線を向けると、見覚えのある果実がそこにあった。
(あれって俺が採った奴だよな・・・。もしかして腹減ってるのか?)
他の2匹もそうなのか?だとしたら交渉して戦闘を避けられるかもしれない。
俺が話を聞き取れるというのであれば、会話は可能だろう。ゴブリンと同じ下級魔族扱いのコボルトにも、NPCとしての知恵がありそうでよかった。
アイテム欄からまだ未鑑定状態の果実をいくつか取り出し、手に持ち声をかけるタイミングを見計らっていたら、茶毛がこちらを見つめていた。
鼻を小刻みに震わせながらじっとこちらを見ており、完全にロックオン状態だ。
確かコボルトのほうが敏捷は高く、初期ステータスのゴブリンではどう考えても逃げきれないだろう。相手がまだ行動に移さないのはこちらの様子を見ているだけで、逃げれば確実に追ってくるそんな確信に近い予感があった。
(仕方がない、覚悟を決めるか・・・)
俺は他の2人には気づかれないようにそっと立ち上がり、茶毛に向かって果実を差し出す形で静止した。これで相手がどう出るかによって対応を決める。
後ろに逃げるか、イチかバチかルミールのほうへ走り抜けるか。ルミールを巻き込んでの戦闘になった場合、勝てるかどうかは不明だが黒毛と白毛は魔法を警戒しているようなので、確実ではないが勝算はあるだろう。
こちらをじっと見ていた茶毛は、俺と同じくゆっくり立ち上がりこちらに来た。
黒毛と白毛は話に夢中で気が付いた様子はない。というか茶毛はなんで知らせないんだ?隠れていたのはゴブリンだと分かったからかだったら、かなりヤバいだろう。
ゴブリン程度ならば負けない程度の身体能力を持っているということなのだから。
こちらは動きを止め待っていると、すぐ近くまで茶毛が来た。俺どころかルミールよりも大きなそのサイズは、二足歩行の熊にしか見えない。このまま一気に噛みつかれでもしたら、ひとたまりもないだろう。
「ワウ・・・」
茶毛は俺の不安を無視して差し出された果実を手にとる。
それを見つけ再度俺を見るを何度か繰り返している。もしかして毒を渡されたんじゃないかと警戒しているのか?警戒されても俺もそれが何なのかは分からないので、見られても困るのだが・・・。
ここは無害アピールとして俺が先に食べるしかないか?ここで逃げるより食べたほうが危険は少ないだろう。
「・・・ん!結構、うまいな」
意を決して食べたそれは言うならば一粒の大きなブドウだ。
皮のはじけたその下に果汁の詰まったその実は、わずかな酸味と甘さがあり美味かった。品質がどれほどかは分からないが、品質が上がるほど甘みが増すのであれば、さらにうまくなるだろう。
様子を見ていた茶毛は、俺が食べたことで安全と判断したのか一口かじる。すると驚いたような表情をすると、一気に食べきってしまった。
手に着いた果汁をなめ尽くそうとするその姿は、かわいらしく思える。まあ、手入れされていたらの話だが。
名残惜しそうにしつつ、手から口を話すと俺の足元に落ちていた果実に目を落とす。まだ食べ足りないのだろうか?そう思い2つほど渡してやると、茶毛は元居た場所に戻っていく。なるほどほかの2人に渡すつもりなのか。
ここまで行けば俺がコボルトたちと敵対することは無いだろう。おれは茶毛の後を追い、歩いて行った。