一般的木曜日的展開
「おはよう、弟くん。木曜日の朝がやってきたよー?」
優しく揺さぶられるその感触に、僕は再び夢の世界へと誘われそうになる。
あー眠りたい二度寝したい起きたくない!
しかし今日は遅刻できない。今日はクラスメイトの月野さんと日直をする日。
くっ……用事がなければこの優しい眠りに身を任せられるというのに……
僕が内心で葛藤を繰り広げる間、僕を起こそうとしている手は、いつのまにか僕の頭を優しく撫ぜているのであった。
「わーフワフワ……」
いや、いっそ思い切って起きてしまおう!
そう決意し僕はガバリと布団から立ち上がる。
すると僕の頭を撫でていた手がサッと退いた。
「もう、危ないなぁ……そんなに急いで起きなくてもいいんだよ?」
その声で、僕は今日の曜日を悟る。
うむ、今日は木曜日だな。惰眠を貪りたくなる、いわば最も平凡な曜日かもしれないな。
あと一歩で夢の金曜日には届かず、歯痒さを覚える曜日でもある。
眠気覚ましにそんなことを考える僕の隣に、
茶髪の、どことなく柔らかい印象のある女性が、しなりと立ち上がった。
「弟くん、もっと寝ていたほうが良いよぉ。というか少し痩せた?ちゃんとご飯食べてる?」
田舎のオカンですかあなたは?
そんな疑問はさておいて、取り敢えず僕は隣で僕の体をペタペタと触っている、彼女——木曜日に挨拶をした。
するとにこやかに木曜日も挨拶を返す。
「うん、おはようだねー弟くん」
挨拶をして、エライエライと頭を撫でられる僕の心境は複雑だ。
というか、こんなことをしている暇はないのだった。
バスがあと5分で出てしまう。
手早く着替えて、家を出ようと玄関まで急ぐ。
靴を履いて、行ってきますの合図で走り出そうとした時、僕の袖がグイッと引かれた。
「今日雨降るから、傘持っていってー。はいこれ」
そう言うと、木曜日は紺色の折り畳み傘を僕に差し出した。
いや、でも急いでるし!それにいらないって!
しかし頑なに僕に傘を渡そうとするので、焦る気持ちを押し込めてしぶしぶ傘を受け取る。
そして僕はすぐに玄関を飛び出した。
後ろからいってらっしゃいという声がしっかりと僕の耳に届いた。
その後、学校が終わって昇降口に出てみると、外にはシトシトと雨が降っていた。
こっそり僕はお母さんもとい木曜日に感謝した。
「わ、わたしお姉ちゃんなのにぃ〜」
いや、オカンでしょ。