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夏祭り(終篇)


キモいって不思議な言葉ですよね。本来は「気持ちが悪い」ってことだから体調の良し悪しなんかに使いますが、僕たちは他にも、人やモノに対しても「キモい」って言ったりしますよね。「あの人、キモい」とか「あの動き、キモい」とか。気分を害するという意味なのかな、と思ったら「キモい」を見てゲラゲラ笑ったりもするし、本当に不思議です。


 




 あの、さ……水曜日に聞きたいことがあるんだ


「彼」は振り返って、脱力した笑みを浮かべた。背の高い木々に囲まれたこの場所。周囲に人影はなく、デートスポットの穴場だ。

 故に、話を切り出すにはちょうど良いタイミングだったのだろう。


「なんでしょうか」

 震えぬように声を絞り出す。

 嫌な予感がした。とても、嫌な予感が。

 願わくばこのまま、凡庸で人好きのする笑顔を浮かべたままの貴方でいてほしかった。

 だが、そんな願いがここに来て許されるほど、私たちの世界は甘くない。


 ただ、「彼」はここに来てもまだ、何かを躊躇している様子で、視線を左右に彷徨わせていた。


 あー、えっと……変なこと聞くようだけどさ


 しばらくの沈黙の後、どこか遠くで歓声が上がった。木々の隙間から大輪の花火が天高く咲いている。

 薄明かりに照らされた「彼」の表情は固く強張っていた。


「僕はいったい誰なの?」


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「僕はいったい誰なの……?」

 その言葉を口にした瞬間、どうしようもない浮遊感と、それに準ずる妙な安定感が僕を襲った。存在の根底を揺るがす、原始的な問い。言葉にしたことで「僕」の意識までもが揺らいでいるのだと分かった。

 花火の光が一瞬途切れ、辺りには暗闇が満ちる。

 向かい合って立っていた水曜日の顔は見えない。


「誰って、お兄様はお兄様ですよ」

「違うんだ。そうじゃないんだよ」

「それ以上でもそれ以下でもありません」

「ふと一つの疑問が浮かんだんだ。そう、僕の名前は一体なんだ?それに僕の両親、友達、先生、クラスメイトに至るまで僕は名前を知らない」

「全部居ませんよ」

「でもおかしいな、月野さんだけは名前を知っている。いや、田中さんもそうだ……」

「お兄様、花火見ましょうよ。そんなこと考えて何か良いことありますか?」

「……」

「………」

「………火曜日も余計なことをしてくれたもよですね」


 水曜日がポツリと呟くように漏らした言葉は、僕の頭にスッと、ごく自然に入り込んだ。


「火曜日に何か関係があるのか?」

「……」


 水曜日は俯いたまま答えない。

 代わりに外でパンッと花火が弾けた。

 水曜日の顔が、黄色い光に照らされる。

 彼女は端正な顔立ちを崩さぬまま、石像のように泣いていた。


「お兄様、私は泣いているのでしょうか」

 水曜日は両目から零れ落ちる涙を拭うこともせず、ただ浴衣の袖を固く握りしめたまま棒のように立っていた。

「これが泣くということなのですね……私には分かりません、こんなことすらも。ただ存在するのは貴方を失いたくないという執着のみです。……それだけなのです」

 なおも水曜日の独白は続く。自嘲気味に微笑んだ彼女の頬には既に涙による幾重もの線が伝っていたが、乾く暇もなく彼女は涙を流し続けていた。

「今宵は月が綺麗ですね……少しだけお聞きしたいのですが、私は……出来ていましたか。天真爛漫な可愛らしい妹をキチンと演じられていましたか」

「演技だったのか……?」

「心を理解できない私には人を真似ることしかできませんから。……いえ、理解できないとは少し違いますね。私たちには元より心という概念がありませんので、正確には存在を認識できない、と言うべきですね」


 まるで機械だ。

 淡々と言葉を繰る水曜日を見て、「彼」が真っ先に思ったことだった。彼女自身が言うように、心がない、何か別の「モノ」。

 先ほどまで朗らかに笑っていた水曜日と同一とはとても思えなかった。

 あまりの違いように、吐き気さえ覚えた。


 だが、機械は涙を流さない。彼女が今、この時もとめどなく流している涙だけが「彼」をこの場所にとどまらせ、彼女と向き合わせている要因と言っても過言ではなかった。


「……どうして今演技をやめたんだ?」

(そしてどうして、泣いているんだ?)


 本当に聞きたいことはグッとこらえた。聞いたとしても、彼女自身にも分からないことだろうからだった。


 僕の疑問に水曜日は澱みなく答える。

「貴方が自分の正体を疑った時、貴方は消えて無くなってしまうからです」


「……え?」


 僕の聞き間違いだろうか。額から汗が一筋流れ、シャツの襟を汚した。


「この世からの完全な消滅、とでも言いましょうか。消えゆく貴方にいつまでも偽りの姿を見せることは、私にはできませんでした。……正直に申し上げて、もう貴方の姿も声もそして私の中の記憶も、薄れつつあるのです。やはり精霊でも避けられないのですね、この事象は」


 ああそうか。ここで合点がいった。

 彼女は、僕が消えるから泣いていたんだ……


 呆然とする僕の心と裏腹に、僕の口はつらつらとよく動いた。

「ちょっと待ってくれよ……まだ肝心の疑問に答えてもらってない!!この『僕』はいったい誰なんだよ!!ねぇ、水曜日!!」

「これだけは誤解しないでください。水曜日の、貴方を愛する気持ちだけは本物でした。……フフ、心がないなどと言っておきながら矛盾、して、ま……すね……」



 ふらつきながら水曜日が明後日の方向を見て微笑んだ。

「さようなら、お兄様。今までわたしたちを……ありがとう」

「……」

「……」

「……」

「……何、やってたんだっけ……何故泣いているの?」

「……気持ち悪いからだよ、何もかも」

「……」

「……」

「まぁ、いいか」





昔、高校の先生が「気持ち悪い」=「分からない」ってことだ!と授業中に熱弁したことがあります。

確かに、未知だから「キモい」というのも納得できますよね。例えばゴキブリは何してくるか分からないから「キモい」ですし……

なので僕はカップルを見かけると毎回「キモい」と心の中で思っています(???????)


さて、話が脱線しまくりですが、「月曜日ちゃん!!!」は次回より解明編へ突入します!最近はシリアス多めですが、軸はコメディですのでご安心ください!……出来るだけ失踪しないように頑張ります!


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