病んで病んで病んで
宣言明けましたね。
すっかり世間は夏だ。家のそばの電柱にへばりついているアブラゼミも、短い夏を謳歌するよう懸命に鳴いている。
だが今の僕はセミのように夏を満喫する気にはなれなかった。
土曜日が一体どこへ消えたのか。それだけが気がかりだ。
今週、日曜日は何故か僕の記憶を消さなかった。それどころか彼女が今まで消してきた僕の記憶も全て戻してくれた。
曰く、「もう意味がないから」らしいけど…
僕は日曜日の真意を掴みかねている。
恐らく彼女は土曜日が消えた原因ないしはそれに繋がる何かを知っているのだ。
それが何か、今すぐ問いただしたいところだけど日曜日に会えるのは一週間後だ。
はぁ……今日は月曜日なんだよな……
早く起きたはいいものの、着替える気もしないまま、ぼうっと窓の外を眺めていた。すると例の如く部屋の中に月曜日ちゃんが入ってきた。
「おーはようなのじゃーお主様……ってうわっお主様どうしたのじゃ!?鼻血っ!鼻血が出ておるぞ!!」
え……?
見ると太もものタオルケットに真っ赤な血が滴り、大きな染みを作っていた。
すでに乾き始めている部分もある。
なんで気付かなかったんだろう……?
「てぃっしゅ…ていっしゅはどこじゃ〜?!」
慌ててティッシュを探し回る月曜日ちゃんを僕はぼんやり見つめていた。
「あった!!てぃっしゅあったぞお主様っ!!」
そう言って月曜日ちゃんが振り返り、目にしたのは。
鼻血を出しながら倒れ伏す彼の姿だった。
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苦しそうな主様の寝顔を覗き込む。
「ひとまず鼻血は止まったようじゃが……」
今は念のため仰向けに寝かせるのではなく、壁に寄りかかる態勢にしている。
鼻血が気管や食道に入ると気持ち悪くなってしまうからだ。
「落ち着いたかしら?わたし、ちょっと吸いすぎちゃったわ」
艶やかな、それでいて気怠げな声が耳をくすぐる。
「何故ここにおるのじゃ、日曜日」
「あら、一応私も彼と同居する身なのよ?お・ね・え・さ・ま?」
いつの間にか部屋の壁に寄りかかっていた日曜日は、クスクスと嘲るように笑った。
「お前のそれは同居ではない、『寄生』じゃ。我と一緒にするな」
「ふふ、『寄生』されて彼は喜んでるみたいだけど?」
「……そんなわけない」
「ウフフ、どう、かしらね?」
日曜日がカラカラ笑う。
こういう人を小馬鹿にしたような態度も、鈴のようなこの声も、退廃的な雰囲気も、全部、全部、全部全部全部全部………
「……ムカつくのじゃ」
我は日曜日が嫌いだ。
そんな我の心中を知ってか知らずか、日曜日はまた笑う。
「まぁでも……この生活もあと少しってとこね。父様が動き始めたもの。土曜日姉様が消えて、ようやく私が本当の『特別』になるわ」
日曜日は微笑をたたえながらシスターのごとく手を組み天を仰いだ。
その様子に月曜日は軽蔑の目を向ける。
「まがいもので、後付けに過ぎぬお前が何故優遇されるのじゃ!!そんなの間違っておる!!父様の創世期から我らは6人は共にあったのじゃ!!それなのに……!」
何を、考えておるのじゃ父様……。
そこから先は言葉にならない。
その様子を日曜日が再び嘲笑する。
「仕方ないじゃない?もう今はヒトの世なんだから。父様の生み出した世界をヒトが発展させそして作り替えてしまった。私たちもヒトなしにはいられない存在だってーー」
「うるさいのじゃぁぁぁぁ!!!お前と一緒にするな!!!!我らは6つで完成しておるのに、お前がァ……ッお前がいるから我は……っ……」
「アハッ、完成?彼から命をもらわなきゃ生きていけない存在が完成しているわけないじゃない。ほんっと、おめでたすぎて反吐が出るわ」
そう吐き捨てて日曜日は部屋を出て行く。
中には彼と、涙を必死に堪える月曜日ちゃんだけが残されたのだった。
✳︎
暗闇だ。
目覚めたのはなんにもない、真っ暗な場所。
……いったい僕はどうしたんだろう。
確か部屋で鼻血を出して……そうか、気を失ったのか。
情けないな、それにしてもここはどこだろう、なんて考えていると、突然目の前に手のひらくらいの、小さな銀色の光が現れた。
儚げで小刻みにぶるぶる震えるそれは、まるで何かに怯えているようで。
僕は思わず光に手を伸ばした。
視界が一瞬で真っ白に染まる。
『何故我だけが嫌われなければならぬのか。
分からぬ。分からぬっ!!
理不尽ではないかっ!ただ……ただ"日曜日の次であった”というだけで我は……我は……』
先程までとは打って変わった純白の世界から、誰かの声だけが鮮明に脳に響いた。
『月曜日だっる』『一生日曜日でいいわ〜』
『月曜日こないでくれ〜!』『月曜死ね』
ノイズが走る。頭がズキズキと痛み始める。
なんだ、これ?
悲しくて悲しくて仕方ない。
『あ………あ……われ、は………』
いや、これは……
『死ね!死ね!死ね!しねしねシネしねシネシネしねシネしねシネしねシネ!!!!』
『……いらない子……?』
……月曜日ちゃんの記憶だ。
およそ四百年に及ぶ、月曜日ちゃんの記憶。
いつも嫌われて、貶されて、たまに来る祝日に心を躍らせる。ただその繰り返しの記憶だった。
『我は特別になりたいのじゃ。金曜日や土曜日……日曜日のように』
記憶の中の月曜日ちゃんが地面にうずくまる。彼女は泣いていた。大粒の涙が虚空に吸い込まれる。
『我は普通になりたいのじゃ。火曜日や水曜日、木曜日のように』
しかし、月曜日ちゃんは涙を流しながらも立ち上がった。
目からこぼれ落ちる涙を拭いながら、それでも立って目を開く。
『だから、がんばるのじゃ』
「作者さぁあたしの影、薄くない?」
土曜日 の あばれる こうげき!
作者 は たおれた!




