恒例の……?
うーん……暑いな………
「ですねぇ……」
アイスの棒を口に咥えながら、遠い目をした金曜日が僕の独り言に返事をした。
まだ8月にも入っていないのに、ここ数日は30度を優に超える夏日が続いている。
この猛暑の中、クーラーのない僕の部屋は当然サウナのように蒸し暑いのだが、何故か僕と金曜日は部屋の中で扇風機を回しながらだらけていた。
あ、そういえば夏休みの宿題やらなきゃな……
ふと思い出した。今年の夏休みは、各教科の先生達がオーバードライブしたためホームワークのクオンティティもリミットブレイクしているのだ。
故に、夏休みの宿題は早めに終わらせる派の僕はこの時期から動き出さねばならない。
だらだらとカバンから数学の課題を取り出す。すると、それを見ていた金曜日がススッと隣にやってきた。何故かニヤニヤしながら。
「可愛い後輩との時間に、何しようとしてるんですかぁ」
いや、宿題だけど……
そう答えると金曜日のニヤニヤは途端に呆れたような表情へと変わった。
「え、まだ7月ですよセンパイ?この時期から宿題するんですか?」
うん。
「えぇ……宿題早めにやる派って実在したんですね……私てっきりアレな本かと思いました。アレがこうしてあんな感じの……♡」
頬を染めながら金曜日が全く具体性のない言葉を発する。
アレってなんだよ!あんな感じってどんな感じだッ!!
「で、どんな宿題があるんですか?」
僕の疑問の声を華麗にスルーして、金曜日は話題を変える。さすが自称小悪魔系後輩、何がとは言わないが色々つよい。
カバンから、夏休みの宿題がリストアップされたプリントを取り出す。
数学の問題集が2冊に、英文法のプリントが10枚、長文20題に英作文が……って改めて数えると本当に多いな!!?
だらけながらゆっくりやろうと思ってたけど、この量は普通にやっていてもだいぶかかる。ちょっと本気で取り組まないといけなさそうである。
しかし、大量の課題を見て金曜日はなぜかふむふむと頷いていた。
そして宿題のリストをピッと指さした。
「センパイ、これ1週間あれば終わりますか?」
うーん……まぁ一週間あればなんとか終わる、かな?
相当頑張る必要はあるけど……。
そう思っていると金曜日は再びあごに手を当ててふむふむと考え出す。
なんか…真面目な顔の金曜日可愛いな……
いつもはニヤニヤニコニコしていてあまり気が付かないけど、こう真顔になられるとやっぱり金曜日が美人であることを認めざるを得ない。
目とか鼻の形がすごく綺麗で整ってるんだよなぁ……。
思わず魅入っていると、金曜日と目がパッチリ合った。
「じゃーセンパイ、今日のところは……ってどうしたんですかそんな顔して?」
キョトンとした顔を一瞬した金曜日だったが、状況を理解したのかすぐにニヤニヤとからかいモードに入る。
「あれあれ?センパイもしかして私に見惚れちゃってましたぁ?」
実際そうなんだが、このままからかわれるのもなんか癪だな……よし、ここは……
うん。正直言ってめちゃめちゃ見惚れてたし、真面目な顔の金曜日すごく可愛かった。
「ふぇ……?」
ド直球の返答に、みるみるうちに金曜日の顔が真っ赤に染まっていく。それを隠すためか金曜日はバッと後ろを向いた。
薄紫色の髪の隙間から、真っ赤になった耳が覗いていた。
「い、いやいやいやどうしたんですかぁセンパイぃ!じ、冗談ですよぉ……?」
え?いや僕は冗談で言ってないけど。
「う、うそ…え、センパイもしかして脈アリ……?」
小声でボソボソ何かを呟く金曜日。
「セ、センパイ私……」
なーんちゃって^ ^
「は………?」
振り向いたあと、何かを決意したような金曜日の顔色はその一言で真っ白に変わった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「ヒドイです……ヒドすぎますもうお嫁に行けません……」
手で顔を覆いながら金曜日がすすり泣く。
……流石に今回はやりすぎたなと自分でも分かる。
ごめん金曜日。流石に冗談にしては度が過ぎてた、反省してる。本当にごめん……
そう謝ると、金曜日は泣きながら僕に質問してきた。
「ほ、本当は私のことどう思ってましたか?」
え?どうって……
「やっぱり私のこと弄んだんですね……私のこと可愛いって言ったの嘘だったんだぁぁぁ」
激しく声を震わせる金曜日。
罪悪感で押しつぶされそうな僕は、本音で語るしかなかった。
……本当にか、可愛いと思ってました……
さっきは大丈夫だったのに、何故か途端に恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「……どんな所が?」
しかし畳み掛けるように金曜日がまた質問してくる。
「私のどんな所が可愛いと思ったんですか?」
くっ……もうこの際羞恥心は捨てるべきか……!
……あの、真面目な顔してる時の目とかすごく綺麗で抱きしめたくなるというか何というか……
あぁぁぁぁ!!!自分で言っててなんだがものすごく恥ずかしいぞ!?本当に穴があったら入りたいんだけど!!!!
……って、ん?あれ?
途中まで言ったところで金曜日のすすり泣く声が聞こえないことに気付いた。
そして前を見ると、全く涙の跡のない、ニヤニヤと笑みを浮かべた金曜日。
「ふぅーん、センパイは私の真面目な顔が大好きで、思わず抱きしめたくなっちゃうんですねー♡」
や、やられたァァァ!!!!完全に手玉にとられたァァァ!!!
「もー、センパイが私に勝てるわけないじゃないですかぁ♡これに懲りたら二度と、こういう冗談はしないで下さいね。二度と」
やけに「二度と」を強調する金曜日の言葉に、僕は大人しく、はい、と返事する他なかった。
「ほんと、心臓に悪いですから……」
え?
「何でもないです!!ほら、宿題やってください!」
そう言った金曜日の目は、少し充血して見えた。
「水曜日ちゃんといい、金曜日ちゃんといい……弟くんってもしかして年下好きなの…?」
「じゃろうな。そして我は一部のマニア層に突き刺さるロリの中のロリ。我は主様のドストライクに違いないのじゃー!」
「ちょっ、二人とも勝手に人の後書きコーナー入ってこないで下さいよ!!」
意外と仲は良い。




