アイのカタチ
珍しく頑張ってます
「……校長先生、ありがとうございました。続いては………」
教頭先生のアナウンスで、バッチリカツラを決めた校長先生が壇上から降り、代わりに強面の体育教師が体育館のステージの階段を登っていく。
今日は一学期の終業式、明日からは夏休みである。今日ばかりは校長の長い話も、体育教師の熱血指導も全く耳に入らない。学校全体にフワフワと浮き足立つような雰囲気が漂っている。
それは教師陣も理解しているようで、壇上に上がった強面先生も手短に夏休みの注意事項を話すと、さっさとステージを降りたのだった。
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「なぁ、夏休みどこ行く?」
「俺は海の家でバイトかなぁ」
「来週の花火大会、ぜぇーったい見にいこうね!!」
「うん行く行くー!!」
HRが終わっても、帰り支度をする生徒は少数で、大半は夏休みの予定を立てたり、友達同士で駄弁っている。
やっぱり夏休みは、友達といつでも会えるとはいえ、学校のように毎日会うことができるわけではないから名残惜しい部分が大きいのだろう。
僕は特段約束を取り付ける相手もいないので、さっさとカバンに配られたプリントを詰める。
と、そんな僕に隣の席からお声がかかった。
「あの……くん、ちょっと話したいことがあるんだけど……」
隣を見ると、月野さんが長い黒髪の毛先を両手で忙しなく弄りながら僕のことをチラチラと見ていた。
僕に話?何だろう。
首を傾げて先を促す。
「あ、えっと……その、今度の花火大会、……くんは行く………?」
花火大会?あぁ、さっきクラスの誰かが言ってたやつか。来週の8月頭にあるんだっけ。
普段の僕ならお祭りには行かないんだけど……ふとあのクール無反応妹系水曜日を連れて行ったらどんな反応するだろうか、と気になってしまった。
うーん、どうせだったら行こう、かなぁ。
そう答えると月野さんはホッとした表情を浮かべた。
「そうしたらさ、一緒にお祭り行かない?」
えっ……僕と月野さん2人で……?
「あああっ!いや違くて!私と……くんと、暦ちゃんと、トシくんの4人で……」
そう言って月野さんはチラリと教室の真ん中あたりを見た。
そこには如何にも充実してますといった風貌の2人が楽しそうにお喋りしていた。
恐らくあのイケメンと美少女がトシくんと暦ちゃんなのだろう。
トシくんは正統派王子様系イケメンで、彼の爽やかな笑顔が寝不足の僕には眩しい。
暦ちゃんは月野さんとは違うタイプの女の子で、可愛い系である。ニコニコしながらトシくんの話を聞いているようだった。
そしてそこに美人系の月野さんとニート系の僕が加わるわけか……。
……場違いじゃね?
例えるならスーパーで売ってるしらすのパックに入ってる小さいエビくらい場違いである。
アイツら赤いからすぐ分かるんだよな。
ってそんなことはどうでもいい。
あからさまに場違い、それに僕は水曜日と祭りに行こうと考えていたのだ。
申し訳ないけど、ここは断らせてもらおう。
月野さんに、妹(水曜日)と祭りに行く旨を伝える。
それを聞いた月野さんの返答はとてもシンプルなものだった。
「あっ、じゃあ妹さんも一緒にどうかな?」
えっ……
確かに月野さんからしたら、一緒に行けば良いだけの話だった。
月野さんは嬉しそうな顔で続ける。
「人数が多い方が盛り上がるし……。うん、……くん、どうかな?」
その後、僕はハッキリと断ることのできる理由を考え出すことが出来ず、水曜日含む5人での祭り参加が決定してしまったのだった。
「じゃあ私、2人に……くんの妹さんも参加すること言ってくるね!」
う、うん……
明らかに上機嫌な月野さんは、軽い足取りで暦ちゃんとトシくんの方へ歩いて行った。
僕は若干気落ちしながら教室の扉へ向かう。
そうして教室を出る時、ふと中を見ると、上機嫌に話す月野さんと、微妙な面持ちで話を聞いている2人の顔が見えた。
……やっぱり僕は歓迎されてないみたいだった。
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ただいま……。
重い足を引きずりながらそう言って玄関の扉を開ける。
すると、2階から水曜日がトテトテ降りてきて、腰辺りに抱きついてきた。
一通り頭をゴシゴシ擦り付けた後、水曜日は目だけを上に向けてようやく言葉を発した。
「おかえりなさい兄様。ご飯以下略、それともワ・タ・シ?」
反応に困るからやめなさい水曜日……。
と、そうだ、水曜日に来週お祭りには行くことになった旨を伝えなければ。
水曜日、来週花火大会に行くことになったんだけど……
その瞬間くっついていた水曜日の動きがピタリと止まる。
「誰とですか私も行きますお兄様」
何だろう……いつもと変わらないはずなのに水曜日の目が怖い。
いや、クラスメイト3人と僕で……それで水曜日も一緒に行こうってことになったんだ。
「絶対行きます。それで誰から誘われたんですか?まさか兄様からじゃないですよね?私を差し置いて他の女を誘ったりしてないですよね?」
あ、うん……隣の席の月野さんに誘われたんだけど……。
「………」
水曜日が僕のワイシャツに口を埋めたまま、小声で何かを言った。なんと言ったかはわからない。
水曜日?
そう問いかけると、水曜日は顔を上げた。彼女はさっきまでとは一転して、顔に笑みを浮かべていた。
「分かりましたお兄様。私、お兄様のクラスメイトと『仲良く』できるように頑張りますね」
うん……そうしてくれると助かる。
……まぁ仲良くできなくても僕は一向に構わないんだけど……
そんなことを思いながら再びワイシャツに顔を埋めた水曜日の頭を撫でた。
「………」
「渡さない」
は、はい(怯え)
(作者は脅されています)
次話、本日22時投稿予定です




